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4回表 友ノ浦の攻撃
試合は動いた
第16話 [絆]
*4回表は、三番の倉本からだったが寿也が耳打ちしたにもかかわらず、三振に終わった
横「と、寿・・ι一体どんなアドバイスをしたんだ?!」
寿「別に・・・
オレはただ、倉本に三振して帰ってきてくれと言ったんだ」
寿也にはこの回、吾朗から点を取るプランも自信もあった
バッターボックスに立った寿也に吾朗は嫌味のように言った
言い返すかのように、でかいのを打てばいいと、さもホームランを狙っているかのように振る舞った
それが吾朗の勘にさわったのか、吾朗は思いっきり投げ込んだ
その時、寿也はグラウンドにいる全員の意表をついた
ワンアウト ランナー無し
この状況で四番の寿也がバントをするなどと、誰も予想していなかった
そんな寿也の攻撃に腹の虫が治まらないのか吾朗は一塁へ歩き出し、寿也に掴みかかってイラつきをぶつけた
それをファーストの山根と審判の人が止めに入った
吾「ちっ、見損なったぜ! そんなせこい野球で俺に勝てると思うなよ!!」
文句タラタラにマウンドへ戻って行った
三塁側から見ていた夏村は、吾朗から寿也へ視線を移した
『ワンアウト ランナー無しの状況で四番がやることじゃないわね・・・・となればこの回、寿は何が何でも点を取りに来る
この場面で長打を狙わず、セーフティーバントをした意味はただ一つ・・・・・盗塁』
夏村の予想は当たっていた
*寿也は、吾朗をさらに挑発しながらボロが出るのを待っていた
一方吾朗は振り回されっぱなしで、イライラは募るばかり・・・
打者に集中できず、挙句にはイージーミス
けん制で投げたボールは山根のグラブを外れ、誰もいないところへ飛んでいった
寿「・・・やると思ったよ・・・三振やホームランだけが野球だと思ってんじゃない吾朗君?」
吾「く・・・・・・くそおっ!!」
頭に血が昇った吾朗は、ボールを地面に叩きつけた
驚いた小森は審判にタイムがかかっているか聞くがもちろんインプレー中
寿也はホームインをし、友ノ浦が先制点を取った
『・・・・・つまんない・・・』
膝の上に頬杖をつき、本当につまらなさそうに冷めた視線で試合を観ていた
友ノ浦の先制点からさらに吾朗の投球は乱れた
二者連続のフォアボール
まさに寿也の狙いどうりだった
寿也の狙いは吾朗の闘争心、調子づかせると手がつけられないが、いったん崩れると歯止めが効かなくなる
思わず小森はタイムを取り吾朗を落ち着かせようとしたが、吾朗は三塁コーチャーを代わった寿也の方ばかりを睨んでいた
小森が吾朗に一言言おうとしたときだった
吾朗の頭にボールがぶつかった・・・いや、ぶつけられた
吾朗は思わぬ出来事にア然としていた
グラウンド・・・会場に来ている全員が驚いた
そのボールはグラウンド内からではなく、観客席 つまり、スタンドから投げ込まれたものだった
*
吾「誰だ!! 今ボールを投げやがったのは!!」
かなりの剣幕でボールが飛んできたであろう三塁側スタンドを見た
『いつまでこんなくだらない試合をやってるわけ?!』
大「(未架・・?!)」
スタンドからネットの穴を通して、吾朗にボールをぶつけたのは夏村だった
誰もが驚いたが、一番驚いたのは吾朗と寿也だ
吾「・・くだらねぇだと? 部外者が試合にしゃしゃり出てくんじゃねぇ!!」
小「ちょっと・・本田君!」
試合中ということで小森も必死に吾朗を止めた
『いいかげんにしなさいよ!!
私は友ノ浦と三船東の試合を見に来たのよ! あんた達の意地の張り合いを見に来たわけじゃない!』
グラウンド内は静まり返った
あれだけ、ワーワー騒いでいた吾朗も大人しくなっていた
『吾朗!!』
吾「!!」
『いつまで相手のキャッチャーばっかり気にしているの?!
あんたのキャッチャーは、小森君でしょ! だったら、そのミットめがけて最高の球を投げなさいよ!
相手の口車に乗せられて、挙句の果てには自殺点?
あんた何のためにそこにいるの!
何のために、グラウンドに立ってんのよ!!』
吾「・・・夏村」
『寿也!!』
寿「っ!!」
*夏村は寿也の方を向いた
突然名前を呼ばれた寿也は、少し身体を強張らせた
『一人で野球をして楽しい?』
寿「え・・?」
『一人で勝ち誇った顔をして、そんなに吾朗が空回りしてるのが楽しいの?!
あんたの周りにいるのは誰? 吾朗でも海堂のスカウトでもないのよ! 今まで一緒に頑張ってきたチームメイトでしょ!!
独りよがりなあんたのために、一生懸命チャンスを作ってくれてるのよ! なんで、わからないの!!』
寿也はハッとした
そして、倉本達の顔を見た
『吾朗も寿も、何のために野球をしてきたの?
寿に勝つため? 海堂にスカウトされるため? 違うでしょ!
そんなことのために、野球をしてきたわけじゃないでしょ?!』
「君! いいかげんにしなさい!! マナー違反にもほどがあるよ!」
そこへ、役員の大人たちが来て夏村に止めるように言ったが、夏村は止めるどころか叫び続けた・・・二人のために
『そこに信頼できる仲間がいて、良いライバルがいて、そこにはいつも“野球”があったから・・・
・・なによりも、野球が大好きだからでしょ!!!』
夏村の言葉に二人共、自分の自我のために野球をしていたことに気が付いた
そう、昔はもっと・・・もっと純粋に野球を楽しんでいた
そんな自分たちに夏村は水をかけてくれたのだ
祖母『あら、あの子・・・』
試合を見に来ていた寿也の祖母は、今の一件を見ていて、何かを思い出したように声を出した
祖父「どうしたんだい?」
祖母『いえね 今のあの子、前に歩道橋の階段を踏み外した時に助けてくれたんですよ
親切に家まで荷物を運んでくれて・・・』
まさか寿也のお友達とは思わなかったなどと、祖父母は優しく笑い合っていた
*一方夏村は、役員に観戦禁止を出されていた
選手にボールはぶつけるわ、試合は中断させるわで、これだけやれば当然である
大「すいません・・その子うちの生徒でして・・・
あとで、こちらで指導しますので試合を観させてやってくれませんかね?」
大貫の申し出に、役員は渋々承諾した
『・・・誰もこんなことしてくれなんて頼んでませんけど
それに、あなたの生徒でもありませんし』
大「まぁ、そう無碍(むげ)にするな
ただ、俺の目に狂いはなかったようだな」
『・・?』
大貫の言っている意味がわからなかった
大「見てみろ。本田と佐藤の動きが、さっきまでとまるで違う」
『だから何ですか? 今のプレイが二人の野球ですよ
邪念がなくなっただけ・・・』
大「ふはははは・・・ こりゃ驚いた! 天然でやっちまうとはな!」
突然笑い出した大貫に、夏村は少々ビックリした
大「選手のメンタル面を変えるのは至難の業だ。監督やトレーナーでも、そうそうできるもんじゃない
だが、お前は今の言葉で一瞬にしてあの二人の集中力をいい方へ変えたんだ!」
夏村は試合を真っ直ぐ見て大貫に言った
『・・そんな大げさなことはしてませんよ、私はただ・・・
楽しそうに野球をしている二人を見たかっただけです・・昔みたいに・・・・』
*試合は七回、三船東が同点に追いつき、八回 友ノ浦は成瀬に代わり寿也がピッチャーを務めた
そして、吾朗との勝負
結果、吾朗は逆転サヨナラホームランを打ち、三船東が勝ち越した
プシュー ブロロロロン
排気ガスを吐き出しながら、バスが止まった
倉「いいのか寿? 一人でいると余計暗くなるぞ」
打ち上げをパスする寿也に、倉本が心配そうに言ったが寿也はそんな気分になれなかった
走っていくバスを見送った寿也は、曲がり角にいる人物に声をかけた
吾「へへ、さすがだな! 気付いてくれてたか」
そんな吾朗に背を向けて歩き出した
吾朗は、寿也が自分に気づいてくれたのでバスに乗らなかったのだとばかり思っていたので、慌てて寿也を止めた
吾「待てよ寿也
その辺で、俺ともっかい勝負しねーか?」
寿「え・・・?!」
吾「勝ったのは試合だけで、結局俺は一打席もちゃんとテメーを抑えてねーんだよ!!」
吾朗の発言に寿也は驚いた
そして昔と何も変わらない吾朗が、なんとなく嬉しく思えた
*
昔と何も変わっていない吾朗
強欲になってしまった自分
海堂にスカウトされるため、吾朗に勝つため・・そんなことしか考えていなかった
・・・夏村のことも
寿「今日の試合ではっきりとわかったんだ
僕は君と同じ高校で野球をやりたい! どこの高校でもかまわない! 同じチームで君の球を受けてみたい!!
・・・君となら海堂を敵に回すのも、おもしろい・・・!!」
純粋に自分と野球をしたいという寿也の気持ちは、正直嬉しかった
今までは敵同士であったためか、なんだかくすぐったい気もする
吾「寿也とバッテリーか・・・悪くねぇな」
と、寿也の肩をポンと叩いた
吾「んじゃ! 俺の話は済んだことだし・・・行ってこいよ」
寿「・・・え?」
なんのことだか全くわかっていない寿也にため息をつきながら言った
吾「夏村のとこだよ」
寿「でも、僕は賭けで・・・」
吾「んなもん、やったって意味ねぇよ!
あいつが待ってんのは、今も昔も俺じゃねぇ・・・お前なんだよ!
だから、俺が行っても仕方ねぇだろ」
寿也は少し悩んだ
あんなことをしてしまった手前、そう簡単にはゆるしてはくれないだろう
あれから一度も逢っていないのだから
吾「いつまで、あいつを待たせる気だよ? いくらあいつでも、よそへ行っちまってからじゃ遅ぇんだぞ」
寿「・・・吾朗君」
そして寿也は走って行った
仲直りをするためじゃなく、許しを請いにいくでもなく・・・・・ただ、キミに逢うために・・・
吾「・・・ったく何やってんだー! 俺は!!」
試合には勝ったが、賭けに負けた
自分でも何やってんのかよくわからないでいた
吾「ま、俺も夏村の泣いてる姿なんて見たくねーからな・・・」
*夏村は大貫と別れ、しばらく球場を眺めていた
・・・やっぱり寿とは、もう・・
そう思った時だった
聞き慣れた声が自分の名前を呼んだ
目を向けてみると、そこには少し息の上がった寿也がいた
ドキンッと心臓が強く波打つ
寿也が一歩前に踏み出したとき、夏村は合図だったかのように走って逃げた
寿「夏村!」
何を言いに来たの?
嫌味? それともサヨナラ・・・?
いや・・そんなこと・・聞きたくない・・・・
夏村もけして足が遅いわけではないが、さすがにバリバリの野球部員には負けてしまう
そして寿也の手が夏村の腕に届いた
寿「待って! 逃げないで夏村」
『はぁ・・はぁ・・・』
二人共、息を切らせながら立ち止まった
しばしの沈黙が流れたが、寿也が先に口を開いた
寿「・・・ごめん」
『・・っ!』
寿「あの日のことを受け止めるのに、すごく時間がかかったんだ
僕のためにおじいちゃんは職にも就いてくれて・・・恩返ししたくて、今まで必死だったんだ」
寿也は息を整えながら、ゆっくりと話しだした
それを黙って聞いている夏村の表情は見えなかった
寿「時間が経つにつれて、連絡するのがだんだん怖くなってきて・・・
夏村に何も言わなかったから・・・怒ってるかもしれない、心配してるかもしれない・・・もしかしたら気にも留めてくれないかもしれない・・って、マイナスの方に考えがいっちゃって・・・
受話器を手にする勇気が・・・逢いに行く勇気がなかったんだ
だから・・・今更こんなことになって・・・・本当にごめん・・」
寿也は自分の胸の内を話した
いいわけかもしれないが、夏村には知っていてもらいたかった・・・そう願いを込めて
*
『・・・てた』
寿「え・・?」
『わかってたの・・・連絡できる状況じゃないってことぐらいわかってた・・・・
でも、仕方ないって・・素直に受け入れられるほど、私いい子じゃないよぉ・・・・・』
夏村はゆっくりと寿也の方に身体を向けた
『でも・・待ってたよ
・・・・一年でも二年でも、私は・・・待ってたよ・・・・今でもずっと待ってるよ?
寿が逢いに来てくれるのを・・・・・・』
寿也は思わず夏村を抱きしめた
切なそうに涙をこらえて寿也を見つめる夏村を、見ていられなかったから
寿「ごめん夏村! 遅くなって・・・ごめんっ・・・・」
夏村を抱く腕が、一層強くなった
それと同時に、夏村の目からは涙がぽろぽろ溢れ出した
『・・私のこと・・・覚えてないかもしれない・・・って・・思い出してくれないかもしれないって・・・・・・そう思うだけで・・・怖くて・・・・
』
夏村の心は、ヒビの入った薄いガラス玉のようで、触っただけで壊れてしまいそうだった
時間というものの怖さを痛感したほどだった
寿「僕は夏村のこと思い出したことなんてなかったよ・・」
『・・え・・っ』
嫌な鼓動がした
思い出したことなかった・・・って・・やっぱり寿は・・
寿「・・だって、夏村のこと忘れたことなんてなかったから・・・」
寿也は優しく夏村の頭を撫でながら、壊れてしまいそうな夏村の心を包んでいった
『・・・ずっと逢いたかった・・
・・・・ずっとずっと逢いたかったよぉ・・・・』
夏村は、そのまま寿也にしがみつくように身体を預けた
互いの存在を確かめるように
安心という薬を、心のキズに塗り込むように・・・
ただいま・・・
おかえり・・・
*END*
*
◇あとがき◆
ようやく・・・ようやく再会できましたぁ(>_<)
ヒロインは寿也を嫌っていたのではなく、悲しみや淋しさからくる身体の拒否反応のようなものだったんです
なかなかわかりづらくて、すみません・・・ι
吾朗も男らしく潔く書けてよかったです!
ちんたら仲の悪い幼なじみは、嫌ですからね☆
ここから徐々に二人を近づけていきます!(やっほーい!!)
でも・・ヒロインは気付くのかしら・・・・?
*07.7.6