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あたりまえの 温かい手
あたりまえの 笑顔
あたりまえの あなたの隣
まるで全てが 夢だったかのように・・・
第14話 [ゆれる想い]
*
山「・・・ったくよ~
お前無茶苦茶なんだよ」
大「もう・・くたくただよ・・・」
練習帰り、疲れ切った山根たちが前を歩く吾朗に対し、口々に文句を垂れている
というのも、数時間前
宝仙との試合後、一人バスに乗り遅れたと思われていた吾朗が突然やってきて、猛特訓を始めたのだ
それに小森たちも巻き込まれ今にいたっている
牟「テメ~~~~・・・俺たちに恨みでもあんのか!!」
小「まあまあ、本田君も何か考えがあってやったことなんだから」
腹の虫が治まらない牟田をなだめる小森
そんな彼らを見て笑っている清水の姿があった
清『(ちょっとは元気になったみたいだな・・・)』
寿也の過去を樫本から聞いた吾朗は、そのあまりの覚悟に脅威を覚え、弱気になっていた
そんな吾朗の尻を叩いたのが清水だった
清水の言葉で立ち直った吾朗は、すっかり元気だった
夕日が沈もうと、少し空が藍色に染まり始めた
蝉の鳴き声が響く校庭をがやがやと、野球部員が横切っていく
小「・・・あれ?」
*小森が校門のところで、疼(うず)くまっている女の子を見つけた
誰かを待っているのだろうか?
校内には、ほとんど残っている生徒はいないはずだ
小「どうしたんだろ?あの娘
他校生みたいだけど・・・」
山「誰か待ってんのか?」
清『この時間に残ってんのは、あたしたちと先生ぐらいじゃない?
何かあって動けないとかだったら・・・?』
心配する清水を余所に、大げさな・・・とつぶやく及川
ギラッとにらむ清水に無言の攻撃をされた
彼女に近づき声をかけようとしたとき、制止の声が聞こえた
吾「・・待て清水」
清『?どうしたんだよ・・・・本だ・・?』
清水を止めて横をすり抜けて、彼女の前にしゃがみこんだ
他のメンバーも不思議そうに吾朗を見ていた
吾「・・・・夏村」
大切なものを扱うかのように優しく、その娘の名前を呼んだ
そんな吾朗の後姿を見ていた清水は、複雑な表情をしていた
*吾朗の呼びかけに少し頭を上げる夏村
それを確認したかのように吾朗は、小森たちに先に帰るように言った
牟田や及川たちは、何やら後ろであることないことを議論していた
どんどん前に歩いて行く清水に疑問を感じ、小森が声をかけた
小「どうしたの?清水さん」
表情を見ると怒っているような、悲しんでいるような、そんな表情だった
清『・・・あの娘ってさ、もしかして・・』
まっすぐ前を向いたまま小森に言った
小「うん・・・あまり顔は見えなかったけど、たぶん未架さんだと思う
横浜リトルにいた、本田君の幼なじみの・・・」
清『・・・そっか
そんじゃ! あたし本屋寄ってくから! また明日な』
そう言って清水は、そそくさと走って行った
小森はそんな清水を心配そうに送った
・・・なんだろ?
なんか胸の辺りがモヤモヤする
あいつのあんな姿・・・初めて見た
清『つーか、なんであたしがあいつのことで悩まなくちゃいけないんだよー!!
別にあいつが誰と何しようが、関係ないっつーの!!』
なのに、やけに胸が痛いのはなんでだろう・・・?
*夕暮れの公園
元気いっぱいに遊んでいた子供たちも家に帰っていき、にぎやかだった公園は一変して静かになっていた
公園の中には、二つの影だけが動いていた
一つは自動販売機の前、一つはブランコの中
吾「ほらよ」
『・・・・ありがと』
吾朗はジュースを手渡すと、隣のブランコに座った
夏村は、未だに黙ったまま吾朗のくれた缶ジュースを眺めていた
プシッと缶ジュースを開けて、一気に半分まで飲み込んだ
ぷはぁ~・・と仕事から帰ってきて、ビールを一気に飲んだオヤジの真似をしてみた
当然、夏村からの反応は無し
そんな沈黙が続く中、小さなため息をついた吾朗が口を開いた
吾「どうしたんだよ・・?」
『・・・・・』
吾「何か、ヤなことでもあったのか?」
『・・・・』
一向に口を開こうとしない夏村
いつもなら、怒り爆発の吾朗だが、これだけ頑なに口を開かないのが逆に心配だった
吾朗が夏村の頭を撫でようと、手を伸ばした時だった
『・・・・れた』
吾「ん?」
『・・キス・・された・・・・・・寿に・・・』
*吾朗は目を見張った
聞き間違いかと思ったが、今確かに”キスされた”って
しかも寿也に!!
変に胸が騒ぎだす
吾「・・・な・・なんだよ・・
お前ら・・そういう関係だったのか?」
夏村はさらに俯いた
『・・・・・・・・・』
缶ジュースを握る手が少し震えていた
それに気付いた吾朗はまさかと思い恐る恐る聞いてみた
吾「・・もしかして、無理矢理・・・?」
夏村は小さく頷いた
そして吾朗は無性に腹が立ち、いてもたってもいられなかった
吾「んのやろう~~! 何考えてんだ!!」
吾朗が勢いよく走り出した
そんな吾朗の腕を掴み、夏村は慌てて止めた
吾「!! 離せよ夏村! オレはあいつをぶん殴らなきゃ気がすまねぇ!!」
『やめて!・・・二人の喧嘩なんて、見たくない・・・』
夏村の訴えに少し頭が冷えたのか、身体の力を抜いた
バツの悪い顔をして、夏村を見た
吾「・・・なんで、んなことになってんだよ・・お前ら、本当に連絡取り合ってたのか?」
吾朗は、本屋で会った時の寿也の言葉がずっとひっかかっていた
寿「夏村って・・・じゃあ今走っていたの・・ 夏村・・・ちゃん?」
まるで、ずっと逢っていない風だった
少しためらっていたが、夏村はゆっくり首を横に振った
それを見た吾朗は、驚いた
この二人が離れるわけがない。それが当たり前で、ごく普通のことだと思っていたからだ
*
吾「・・・なんでだよ! なんでっ そんな・・」
その時、さきほど樫本から聞いた寿也の過去のことが頭をよぎった
吾「もしかして・・・寿也の両親がいなくなったときから・・・?」
ビクッと夏村の肩が震えた
だが吾朗に笑いかけるように言った
『はは・・・突然だったからさ・・・ビックリしちゃったよ
何も言わずに・・いなっ・・・くなっちゃった・・・』
今にも溢れ出そうな涙をこらえて、笑った
連絡が来なかったこと
中学軟式の練習試合で寿也を見つけたこと
寿也がいなくなってからどれほどの時間を使ったのかわからないくらい探し回ったこと
今まで誰にも言わなかったものを懸命に吾朗に話した
吾朗はそんな夏村の背負っていたものを一字一句、聞き逃さないくらい真剣に聞いていた
こんな痛々しい夏村を見たのは初めてだったから
『・・・でも・・逢えなかった・・・話っ・・できなかった・・・
覚えていなかったらどうしよう・・って・・・・忘れられてたら・・どうしようって・・・怖くて
逢う勇気が出なかった・・・』
吾朗にしがみついて話す夏村は、いつもの彼女からは想像もできないくらい弱々しくて、臆病だった
*
『だから・・寿から・・・連絡がくるのを待ってたんだよ・・・・でも・・一年待っても・・二年っ・・・待っても・・来なくて・・・・』
吾「・・・っ」
『この間・・・逢いにきたの
本トは・・嬉しかったのに・・・私・・・”誰?”って・・・私の口がそう言ったの・・・・!
・・ずっと逢いたかったのに・・・私の心が許さなかった! 許してくれないのよ・・・・!!
ど・・ぉ・・して?
・・私はこんなに逢いたいのに!!!・・・・・・どおしてよ・・・』
夏村は力なくして、その場に座り込んでしまった
吾朗もそれを支えるように両膝をついた
いつの間にか拒んでいた自分の心
自分なのにわからない
この痛々しい心を どうすればいいの・・・?
今にも壊れてしまいそうな夏村の心を包み込むように吾朗は強く、そして優しく抱きしめた
吾「・・・苦しいなら考えるなよ・・あいつのことなんて考えんなよ!!」
『・・・ご・・ろ』
吾「オレがいてやるから・・・
オレがずっと、お前の傍にいてやるから!! だからもう・・苦しまないでくれよ・・・」
『・・・ふっ・・・』
そのまま吾朗の腕の中に埋もれた
そこは思っていたよりも、大きくて 温かくて とても優しかった
どうして吾朗じゃなかったんだろ・・・
どうして寿じゃなきゃダメなんだろ・・・
ねぇ どうして・・・・・?
*
綾『・・・・・あの人・・』
由『どうしたの?綾音』
綾音の視線の先を見ると、そこには吾朗と夏村の姿が・・・
抱き合っている二人を見て、かなり興味津々な由美
逆に綾音は複雑な表情をしていた
綾『いこ!由美ちゃん!!』
少し怒ったような口調の綾音を余所に、由美は妄想を広げていた
由『あんたも佐藤先輩に、あんな風に抱きしめられたいんじゃないの?』
綾『ゆっ由美ちゃん///!!』
由美にからかわれながら笑っていた綾音だが、胸には何かがひっかかっていた
そして、二回戦
青武館 VS 三船東
青武館には、横浜シニアに在籍している 堂本、長渕、天野の強力打線がいたが、吾朗はその三人を抑え、ノーヒットノーランという快挙を成し遂げた
その試合を甲子園常連校、海堂高校スカウトの大貫が見に来ていた
*END*
*
◇あとがき◆
お疲れ様でした!
今回は吾朗×ヒロインになってしまいました・・
吾朗は、ガサツだけど、好きな子を守るタイプだと思います(>_<)
そんな吾朗が伝わればうれしいです☆
次回は、黒寿くん登場です!
三人の恋の行方はどうなるのやら・・・ι
*07.11.8修正