想い出のカケラ (調整中)
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心の奥の扉を 誰かが開けようとしている・・・
その扉に近づかないで
お願い・・・
開けないで・・・
第12話 [歪んだ心]
*ジリジリと焼けるような太陽
ひたひたと、暑い夏が近づいてくるのが嫌でもわかる
野球少年たちには、熱くて白熱する大会がやってくる
それは、夏村のいる海堂付属中学でも同じである
グラウンドで気合の入った声が木霊する中、いるであろうマネージャーの姿はなかった
別メニューをこなすため、一人グラウンドから離れ、練習をしている奴が一人
ものすごい音を立てて、ネットに向けて投げている仏頂面のピッチャーは、この海堂付属中学野球部のエースである眉村だ
その片隅には、いつもならバットを持ち、眉村のボールを打っている夏村がるのだが
今日は、何やらボーっとしている様子
眉「未架」
『・・・え? 何?』
眉「人のタオルで遊ぶな」
ぼんやりしながら、いつの間にか眉村のタオルをくしゃくしゃにしていた
『あ・・ごめん』
ぱっぱっとしわを伸ばして手渡した
タオルである程度汗を拭き、マッサージをして欲しいと首にタオルを巻き、夏村に背を向けて座った
昔から夏村は、兄や吾朗、寿也にマッサージをしたりしていたため、今では上手いと評判だ
眉村がして欲しいと言うくらいだから、相当なのだろう
眉「どうかしたのか?」
『・・・なにが?』
眉「いつもならバットを持っているお前が、隅で座って見ているだけとはな・・・元気もない
何かあったんだろ?」
そう言われて、少し顔を歪めた夏村だが、その表情は、前を向いていた眉村にはわからない
『・・・なんでもないよ』
眉「・・未架・・俺には」
「未架せんぱ~い!」
眉村の言葉をかき消すように、夏村を呼ぶ後輩の声が聞こえた
「校門のところに、先輩の落し物を届けに来たって人が来てますけど?」
『落し物?』
何だろう? と思い立ちあがった
*校門へ向おうとしたが立ち止まり、くるりと眉村を見た
『そう言えば、さっき何か言いかけだったよね?』
眉村は、何でもないと視線を外した
そっか! と校門へ向う夏村を心配そう(?)に見つめる眉村
未架先輩元気なかったですね? と、言う後輩を何故か睨む眉村だった
後輩がかわいそうだ・・・ι
校門へ向う夏村の足取りは、軽いものではなかった
落し物・・・
最近落としたものと言えば、定期券ぐらいだった
嫌な予感がした
それを失くしたことに気付いたのは
あの日
あいつとぶつかった後だったから・・・
どうか、あいつには・・・寿にだけは、拾われていませんように
彼が拾ったのなら、きっと知られてしまう・・・
あの写真を見てしまったら、気付かれてしまう・・・
校門にいるのが、彼以外であってほしい・・そう願いながら、重い足を前に進めていく
角を曲ったとき、夏村の瞳に映ったのは、彼以外ならと思っていた彼だった
確率でいえば、ジャンボ宝くじで1等を当てたくらいだ
寿「やぁ! この間はどうも」
『・・・』
少し他人行儀に話す寿に、かなりの距離を感じた
『・・何か用ですか?』
目線を外してぶっきらぼうに話す夏村を見て、少し憤(イキドオ)りを感じる寿也
寿「ぁ・・この前、これ落としたよね?」
そう言って、差し出した寿也の手には、夏村の定期券が乗っかっていた
やっぱり・・そう思った夏村は、つくづく自分の嫌な予感だけは、当るなぁ・・と、自分の勘を恨んだ
『わざわざ届けに来てくれて、ありがとう』
となれば、長居は無用!
*定期券を少し乱暴に受け取り、部活に戻ろうとする夏村に、本題はこっちだと言わんばかりに寿也は声をかけた
寿「待って! 夏村ちゃんだよね?
横浜リトルにいた」
・・・やめて
寿「僕だよ! 幼なじみの佐藤寿也だよ!!
久しぶりだね!」
そう言って、久しぶりに幼なじみに会えて嬉しそうにする寿也
やめて・・・
その声で・・その呼び方で 呼ばないで・・・
『・・・誰?』
寿「え・・?」
『佐藤寿也なんて知り合い、いないけど・・・人違いじゃないですか?』
夏村の言葉に、寿也の顔からだんだん笑顔が消えていき、困惑な表情になった
背を向けていた夏村には、寿也の表情はわからなかった
しかし、背中に刺さる視線で、寿也が今どんな顔をしているのか予想はできた
夏村は、そのまま走って行ってしまった
その場に残された寿也は、自分が想像していたよりも彼女の言葉が信じられなかった
ぎゅっと握る寿也の手には、夏村の定期入れに入っていた写真と同じものが握られていた
寿「・・・やっぱり、許してはくれない・・・か」
ようやく見つけた彼女との再会は、寿也が思っていたものとは、かなりかけ離れていた
悔しさというよりも、抉(えぐ)るような苦しみに耐えるように唇を噛みしめた
キミにだけは、言って欲しくなかったよ・・・・
”誰?”なんて言葉―。
*
息を切らしながら、校舎の壁にもたれかかっている夏村
どうして・・・
どうして今頃、会いに来るのよ・・・!
自分の肩を抱くように、そのままその場に座り込んだ
寿也に会ったせいか、昔のことが頭の中を駆け巡った
楽しかった、幸せだったあの時・・・
突然いなくなった、あの日・・・
もう、逢わない・・逢いたくない! そう思っていたはずなのに・・
寿也が校門にいたとき、一瞬嬉しく思ってしまった自分がいた
『もう・・なんなのよ・・・』
自分の感情が上手くコントロールできない
逢いたいのか・・逢いたくないのか・・・
今の自分がよくわからない・・・・・苦しいよ・・・・
眉「未架?」
『!!』
突然の声にビックリして顔を上げると、そこには眉村がいた
なかなか戻ってこない夏村を心配して(?)探しに来てくれたのだ
眉「・・・どうした」
そう言うと、片膝をつけしゃがみ込んだ
うずくまっていた夏村は、今にも泣きそうな顔をしていた
すると眉村は、夏村の頭にそっと手を添える
『・・・・なんでもない』
眉「お前が何でもないという時は、決まって何かあった時だ」
他人に興味のない眉村だが、意外と人のことをよく見ているんだなと少し驚いた
それは、夏村にだけだということまでは、鈍い夏村は気付かなかった
『・・・・・たいしたことじゃないから・・・大丈夫』
眉「・・・・あまり無理をするな」
そう言って、眉村は夏村のおでこにそっとキスをした
落ち着いたら戻って来いと言って、一足先に部活へ戻っていった
何も聞かない眉村の優しさが嬉しかった
いつもそうなのだ・・
眉村は、何があったのか聞くものの、詮索はしない
黙って傍にいてくれる
私の心を気遣ってくれているみたいに・・
*空も薄暗くなるころ、夏村は家路へと着いた
家の中に入ると、電気が消えており真っ暗だった
『そっか、今日は稚紗さん遅くなるんだった』
夏村の義母・稚紗は、プロのデザイナーで、今若者に絶大の人気を誇る”藍-ran-”というブランドのデザインをしている
帰りが遅いことは、たまにあり夏村はそれを淋しいと思ったことはない
逆にやりたいことを一生懸命やっている稚紗のことを、尊敬している
『・・・ったく、まーた稚紗さん散らかして・・』
リビングのテーブルの上には、”藍-ran-”の服が載っている雑誌やらなんやらが、無造作に置かれている
はぁーっとため息をつき、居間へ入り腰をおろした
『ただいま・・お兄ちゃん』
表情の変わらない兄・佑に、ただいまのあいさつをした
倉「・・・どうしたんだよ寿?!」
寿「え? 何が?」
部活の帰り道、寄り道をするため同じ方角を歩いていた倉本がそう言った
倉「何がじゃねぇよ・・
最近お前元気ないぞ? 大会近いってのに、キャプテンがそんなんで大丈夫かよ!?」
寿「何言ってんだよ! 俺は、もうこの大会のことしかあたまにないけど?」
倉「・・・ならいいけど」
ニコッと笑って言う寿也だったが、実際のところ夏村のことが気になって仕方がなかった
だが、倉本の言うとおり
大会も近いのに、チームメイトを不安にさせるわけにはいかない
ひとまずこの件は、心の奥にしまっておくしかなかった
*
その頃、とある本屋のアダルトコーナーでは・・
学生服を着た、がっしりとした体つきの中学男子が鼻の下を伸ばしながら、くいいるようにアダルト雑誌を見ていた
『学校帰りに本屋で、しかもそんなものの立ち読みなんてヤラシ~』
吾「ぅお!!∑」
突然の声に驚いた吾朗は、その声の主をちらりと見た
吾「な・・なんだよ夏村じゃね~か…脅かすなよ」
『誰だと思ったの?』
吾「俺は、また清水かと・・・・コホン」
清水にバレた時は、いやってぐらい嫌味を言われたのだが、夏村は一言だけで、きょとんと吾朗を見ているだけだった
この二人のギャップの差に、何やらわからんが恥ずかしくなってきた吾朗は、咳払いでごまかした
吾「それより、何でこんなとこにいるんだ?」
『ん~? たまたま吾朗が見えたから!』
何もエロ本見てる時に声かけなくても・・・
状況見てから声をかけてほしいものだ・・と内心思った吾朗だった
吾「あっ、そうだ!」
レジで会計をしている吾朗は、思い出したかのように声を出した
吾「夏村お前、ウソつきやがったな!」
『・・??』
何の事だか分らないといったような表情の夏村に、吾朗は少し怒ったような言い方をした
吾「寿也のことだよ! あいつシニアなんかじゃなく、友ノ浦っていう中学で軟式やってんじゃねぇか!」
『・・・会ったの?』
吾「ああ、おかげで今の自分の致命的欠陥を見つけられたからな
つーか、ウソつくなら、もっとましなウソつけよなぁ・・
連絡もしてんだろ?」
夏村の表情が曇っているのに、吾朗は気付かなかった
また、心に刺さってくる
彼の名前を聞いただけで・・・
*
『・・・初めから、ないよ・・・』
吾「あん?」
吾朗が聞き返すと、夏村は今会計を済ませた吾朗の戦利品を、ばっと持って行った
吾「おい! 夏村!」
『致命的欠陥を直したら、返してあげる!』
くるっと笑顔で言うもんだから、吾朗は一気にほっぺを赤く染めた
ハッと気づいた時には、夏村は店から出て、バイバーイと吾朗に手を振った
吾「あ!! 待ちやがれ!!」
勢いよく店から飛び出した吾朗は、外にいた人とぶつかりそうになった
吾「わ、悪りぃ・・・と、寿!」
寿「吾朗君!?」
そこにいたのは、寿也と倉本だった
寿「どうしたの? そんな血相変えて・・」
吾「おう! そうだ、こんなとこで止まってる場合じゃねぇ!!
夏村のやつ・・俺のシャークちゃんを・・・・」
吾朗が夏村の後を追いかけようとしたが、寿也がそれを止めた
寿「夏村って・・・じゃあ、今走っていったのって、やっぱり夏村ちゃん・・・?」
吾「ああ? 何言ってんだよ
そうに決まってんだろ?」
機嫌悪そうに答えて、すぐさま夏村を追いかけて行った
倉「寿の知り合いか?」
寿「・・・悪い倉本、俺やっぱ帰るよ」
倉「は? おい寿!」
*
なんなんだ!
この前といい、今日といい
何も言わずにいなくなったことは悪いと思ってる
でも、それで怒っているのなら、さっきのあれは何だよ!
夏村が、本屋の前で吾朗に笑顔で手を振った後、一瞬だけ寿也と目が合った
その直後、夏村の顔から笑顔が消え、そのまま走って行った
明らかに、寿也だけを避けているような夏村の態度に、かなり苛立っていた
それに
そのことで怒っているなら、吾朗君だってそうじゃないか!?
なのに、あんな笑顔で・・仲良さそうに
どうして・・僕だけ・・・
前にもこんなことがあった
寿也の人生を狂わせた出来事が・・
あの時の傷がうずく
一人だけ残された
どうして僕なの・・?
あの時の、ドロドロした感情が滲み出てくるのがわかった
どうしようもない、怒りと悲しみ・・・
寿「・・・だめだよ夏村
吾朗君のところへなんか、行かせない・・・」
すれ違った想いが交差する中、時間だけは正しく前を進んでいる
そして、地区大会が始まった
この大会が大波乱の幕開けとなった・・・
*END*
◇あとがき◆
お疲れ様です!!
今回は、なんとも長くなってしまった・・・
しかもあんまりまとまりがない・・(泣
完全なオリジナルになってしまってますが、ちょうど大会が始まる前の話です!
かなり悩みました・・
ヒロインが寿也とも吾朗とも違う学校ということで、かなり動かしにくかったです・・・(ーー;)
その代り、眉村を登場させてみました!
登場早々、ヒロインとかなり親密な関係でしたよ・・・ι
それはそれで、いろいろとやりがいがあるのだ・・!
それではこの辺で失礼します☆
*07.11.8修正