好きと嫌いの間
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―中学2年の冬―
神奈川県に引っ越した私は、新しい学校で野球部に入ることはしなかった。
草野球チームに入れてもらったり。
シニアの試合を見に行ったり。
ただ
バッティングセンターには、毎日のように通っていた。
何となく過ぎていく毎日に嫌気がさしていた。
高校も何も考えず、近くの学校を選んだ。
学校の先生には、「もっと高い所にだって行けるんだぞ」なんて言われたけど、別に勉強がしたいわけじゃない。
野球がやりたい。
でも
高校じゃ、野球部に入ってもマネージャーをやらされるのが関の山。
だから、高校では野球はやらない。
実質、私の野球は
もう終わっているに等しい。
そう思っていた私を、救い上げてくれたのは
青道高校野球部監督の
片岡鉄心だった。
―4月―
桜の花が満開に咲き誇り、新しい生活の門出を祝う頃。 入学式を明後日に控えた青心寮。 2階の一番奥の部屋では、大掃除が行われていた。
「ったく、なんで俺らが掃除しなきゃいけねぇんだよ!」
愚痴を溢(コボ)しながら掃除をしているのは、この春から新1年生として青道高校へ通うことになっている倉持洋一。
ベットに腰掛け、部屋にあった本を開いている御幸一也。
「テメェ! 何1人で休んでんだよ!! 手ぇ動かせ!」
2人は、青道野球部からのスカウトにより、入学も入部も決まっている。
春休みから、ここ青心寮に入寮しているのだ。
倉持にハタキを投げつけられたので、仕方なく雑巾がけを再開させる。
「明日来るみたいだな」
「自分の部屋くらい、自分で掃除させろっつーの」
それもこれも1時間前。 スカウトマンである高島礼に捕まったのがそもそもの話。
強制的に、この部屋の掃除を仰(オオ)せつかったのだ。
「何て名前だっけ?」
「あ?」
「この部屋に来る奴」
「ああ…
北川だよ。 北川日向!」
扉付近にいた倉持は、外に出て表札を確認した。
面倒事を押し付けられた恨みの念を込めて、持っていたハタキをビシッとその表札に差す。
そんな名前、と再度確認する御幸。
…北川……
やっぱ、前にどっかで聞いたような気がするんだよなぁ
まぁ、珍しい名前でもないしな
思いつつ、あまり気に止めなかった。
しかし何か引っ掛かり、スッキリしない感はあった。
次の日の朝。
青心寮に1人の少女の姿があった。
『ここが寮か…』
肩までのオレンジの茶色髪に、首にはネックウォーマー、大きなスポーツバックを下げた少女。
ひとまず、監督に会わなきゃ
誰かに聞くのが一番早いと思い、辺りを見渡した。
すると、水道場で顔を洗っている人を発見した。
『すみません』
「?」
『監督にお会いしたいのですが』
そう聞くと、怪訝そうな顔をしたイケメン君。
怪しい人物とでも思われたのだろう。
なんせ、こんな大きな荷物を持っているのだから。
「失礼だが、何の用で?」
『今日から、ここにお世話になる北川日向です』
「!?」
名乗ると、かなり驚いた顔をする目の前のイケメン君。 どうやら、日向の名前は知られているようだ。
驚きの顔を隠し、スタッフルームへ案内するため足を進めた。
その途中、何人かの部員に会ったが、皆が皆、二度見をするが話しかけてくる者はいなかった。
「この時間なら、ここに監督はいるはずだ」
スタッフルームと書かれた扉をノックして、中へと通された。
部屋の中には2人。
眼鏡に巨乳のグラマーな女性、高島礼と
サングラスに顎髭、見た目はヤクザに見える片岡鉄心がいた。
『あら、どうしたの? 結城君』
「彼女を案内してきました」
『彼女? …!』
「来たか」
結城と呼ばれた部員は、失礼しましたとスタッフルームを後にした。
――
―――
―――――
AM9:00
片岡がグラウンドに入ると、集合の声がかかった。 何十人いるのか部員全員が集まった。
さすがは名門なだけある
部員数も半端ない
と思いながら片岡の隣に並んだ。
当然、部員の視線は日向に一点集中する。
片岡は、自己紹介をするよう言った。
『高森中学から来ました、北川日向です』
するとざわつく部員達。
中でも、かなり驚いていたのは倉持と御幸だった。
「北川日向って、女かよ!
まさかの展開だな
てか、何で女なんだ? 凄腕マネージャーとかか?」
「さぁな…けど……」
「なんだよ」
「…いや、何でもねぇ」
やっぱ
何か、引っかかるんだよな
北川日向…
首をひねる御幸。
やはり、どこかで会ったことがある。 そんな気がしてならない。
しかし、中学も聞いたことがない名前。
この付近の中学ではなさそうだ。
勿論、自分の通っていた中学でも、その周辺の中学でもない。
だとすると、他県…?
御幸が悶々と考え込んでいる中、片岡の口からとんでもない発言が飛び出した。
「北川には、バッティングコーチをしてもらうために、俺がスカウトをして入部してもらった」
当然、驚く部員達。
マネージャーならまだしも、バッティングコーチだとは、誰1人として予想もしていない展開だ。
しかし、ざわつきの中には疑念の意が上がっていた。
当然だろう。
バッティングコーチということは、バッティング指導を受けるという事だ。 しかも、1年の女に。
いくら片岡直々のスカウトだったとしてもだ。
納得できるわけがない。
すると、こうなることを予想していたのか片岡は、2年の丹波にマウンドへ上がるよう言った。
丹波は次期エースとなる程のピッチャーだ。
「北川、バッターボックスに立て」
と、日向にバットを渡した。
片岡の意図を読み取った日向は、躊躇せずバットを受け取り、バッターボックスへ向かった。
「監督!!」
「黙ってあいつのバッティングを見ていろ」
その一言で、皆の視線はバッターへと注がれた。
だが、そこで目にした日向のバッティングは、忘れかけていた記憶を蘇らせるもだった。
御幸が手本にした、あのフォーム。
2球目は、綺麗に弧を描き、センター後ろのフェンスへ直撃した。
北川…… そうだ
あの時の あいつだ!
さらに日向は、ファースト、セカンド、サードと正確にベースへ打球を打った。 バットコントロールは抜群。
しかし、皆が目を見張ったのは、かつての御幸と同じ、そのバッティングフォームだった。
「すごいね。 あの子」
「あぁ…
バッティングフォームを見て鳥肌立ったのは初めてだぜ」
関心する者、やはり納得のいかない者、様々だが日向のバッティングの実力を疑う者は、もういないだろう。
とにもかくにも、今日からこの野球部で野球ができるのだ。
諦めかけていた日向自身、片岡に感謝だった。
こうして、青道高校野球部に1人の少女が加わった。
・END・
18/11/25
◇過去編です。
ヒロインが青道野球部に入部した頃の話です。 同時に、御幸との再会のお話になっております。
御幸との再会までの間のお話は、もう少し先になりそう(^^)