想い出のカケラ (調整中)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
午後の練習が始まった
練習中はいつもの寿也だった
ほっとした夏村は、いつもみたいに笑顔を向けた
『ナイスバッティング!』
寿「ありがと」
寿也は笑顔でそう言った
が、夏村の出した手に触れることは無かった
第8話 [好きの気持ち]
*眠れない…
あれから寿くんとは話しはするものの、前とは全然違った…
まるで、二人の間に大きな壁がある感じだった
『…なんで……』
考えたくもないのに、嫌なことしか浮かんでこない
寿くんに嫌われてる……?
その言葉から逃げるように…走った
考えたくない…考えないように、ひたすら走った
――
―――
―――――
寿「あのぉ、監督
この間、ランニング中に第二グラウンドで三船リトルが練習してましたよ」
樫「三船が来てるのか?」
寿也はこの間、吾郎が横浜リトルと試合がしたいと言っていた事を監督に話してみた
ちょうどその時、グラウンドに殴り込みに来たかのように、いきなり吾郎が入って来た
その様子を見た樫本監督は「こいつか…」と察した
吾郎は必死に試合をするよう頼み込んだ
そこへ小森、沢村、清水が加わり樫本に頼み込んだ
小「お願いします…!!
このままだと吾郎君、もう投げられなくなっちゃうかもしれないんです!!」
樫「投げられない…?」
ただ事ではないと思い、明日午前10時に試合をする事を約束した
『吾郎くん、どうしたんだろう?
投げられなくなるなんて…』
吾郎の事を心配そうに寿也に話し掛ける夏村
寿也は、さぁ…と言って片付けをしに行ってしまった
『……』
次の日
三船リトルとの試合はワンアウト、ツーストライク
すべてアウトコースのストレート
吾郎の調子が悪いような事を言っていたが、それを感じさせないほどの速球を投げた
キャッチャー小森がインコースを要求すると、球はゆっくりとキャッチャーミットに納まった
それは、今まで吾郎が一度も投げたことがないチェンジアップだった
『(今のチェンジアップ…?!
それにしては、腕が縮こまってたような…
それに今まで投げていたのはアウトコースばかり
インコースには投げていない…
インコースには…チェンジアップ……
!!…まさか!)』
吾郎の異変に気付いた夏村は、審判をしている樫本監督と目が合った
夏村は少し戸惑ったように、視線を反らした
『(…あれは明らかに、バッターを避けてる!
つまり、デッドボールを怖がってる…!
確か、吾郎くんのお父さんは…)』
樫「ボール!」
吾「何! さっきと同じ球だろ!!
よく見てくれよ!」
樫「文句の多い奴だな、ボールと言ったらボールだ!
オレのジャッジが気にいらんのなら、こんな試合やめたっていいんだぞ!」
樫本の審判はいつも正確だ
そこにいた誰もが思った事、夏村もそれは同じだった
次に吾郎が力んで放ったボールは、宙に弧を描いたチェンジアップだった
思わずバッターはバットを振ってしまうが、樫本のジャッジはボール
それには堪らず、樫本の元へ駆け寄る安藤監督
樫「あんな腕の縮こまったチェンジアップや、アウトコースへの逃げ腰の球はストライクとは認めませんよ。
彼の死球恐怖症が治ってないのは、ここにいる私とキャッチャー、それからうちの未架はとうに気付いていますよ」
『!!』
樫本は、吾郎の死球恐怖症を、夏村が感づいたことに気付いていた
寿「夏村ちゃん…知ってたの?」
『そうじゃないけど…吾郎くんを見てればわかるよ』
思わず問いかけてしまった寿也だったが、夏村の言葉に少し苛立ちを覚えた
寿「(見てればわかる?
…そんなに吾郎くんの事しか目に入らないのか!)」
怒りという名の嫉妬だった
そんな中、樫本は吾郎がバッターのインハイに投げるまで、一切ストライクはとらないと宣言した
樫「それが嫌なら、こんな試合はお断りだ!
悔しかったらバッターの胸元を思いっきりついてみろ!!
たとえ手元が狂ったところで、運動神経のいいうちのバッターは、まともにゃ当たらんよ!!」
樫本は吾郎の死球恐怖症を直すため、わざと挑発した
*
樫「なーに、心配するな!
デッドボールで死ぬようなマヌケな奴は、おまえの親父だけさ!」
寿「そうか!
吾郎君は昔、お父さんをデッドボールで…」
それで夏村ちゃんは、気付いたんだ
…だから、見てればわかるって…
怒りで我を忘れた吾郎は、握っていたボールを一直線に樫本へと投げた
『か…監督っ、危ない!!』
ガスンという音がした
我に帰った吾郎に樫本は、自分の過去の事を話した
自分と吾郎の父、本田茂治の事を
そしてボールを拾い吾郎に投げ返した
樫「痛いか!? そりゃ素手じゃ痛いわな!!
だが、あいつがお前に残したかったものは、死や痛みじゃない!!
そのボールを使った野球っていうゲームの楽しさだ!!」
樫本の言葉を聞いた途端、夏村はグラウンドへ走って行った
寿「夏村ちゃん!?」
『吾郎くん! 思い出してよ!!
お父さんは死ぬために代打に転向したわけじゃないでしょ!
吾郎くんに野球の素晴らしさと勇気を、残しておきたかったからじゃないの!!』
おとさんが残してくれたもの…
目を覚ました吾郎は、小森の構えたミット目掛けて投げた
高めのインコース
吾郎は死球恐怖症と言う試練を乗り越えた
スリーアウトチェンジ
ここからだ! と盛り上がっていた矢先、樫本が試合を終わらせると言った
当然、納得のいかない吾郎は、横浜リトルの4番に打たれたら諦めると駄々をこねた
樫「…相変わらず礼儀の知らん奴だな…いいだろ
真島相手をしてやれ」
はぁ…とうんざりしながらメットをかぶる真島に
樫「いや、ちょっと待て…未架、お前でいい」
『え?!』
吾「夏村ちゃん…///」
沢「おいおい女だぞ?
本田の奴、相当なめられてんな」
樫「未架は、今じゃ真島と4番を争うほどのバッターだ! 心配するな」
メットとバットを持ち、バッターボックスへ向かう
真「…おい夏村、大丈夫か? 顔色悪いぞ…」
真島が心配そうに言うと、大丈夫だよと笑う夏村だが、明らかに作り笑いだった
吾郎が投げた二球目の球を打った
ジャストミート…場外ホームラン
皆がボールを目で追う中、ドサッという鈍い音が聞こえた
樫「未架!!」
樫本の大きな声が聞こえ、目線をグラウンドへ戻すと
そこには、バットを振った勢いでそのまま倒れ込んだ夏村の姿があった
寿「夏村ちゃん!!」
寿くんの声が…聞こえた気がする……
*
『疲労と寝不足ね…ゆっくり休ませれば大丈夫よ』
樫「ありがとうございます
……佐藤、俺はこの後
監督会議に行くが…」
寿「大丈夫です、僕が夏村ちゃんの側についてますから」
樫「…そうか」
スヤスヤ眠る夏村の寝顔を見て、寿也はどこか浮かない顔…
先程までいた真島から夏村の事を聞いた
――
―――
真「ここ数日、寝ないでずっと走ってたんだとよ」
寿「……」
真「夏村の事、嫌いになったのか?」
寿「……ぃぇ」
真島は溜息をついた
真「三船のあのピッチャー
お前らの幼なじみだってな…
んで、佐藤は夏村とあいつがやけに仲いいもんだから、嫉妬してたってわけか…」
寿「別に! 嫉妬なんか…」
真「夏村が…お前に嫌われているんじゃないかって、寂しそうに言ってたぜ」
寿「……仕方がないよ
夏村ちゃんは、吾郎くんの事…」
全く分かっていない寿也に、真島は誤解を解くように喝を入れた
真「お前バカだろ…
幼なじみのくせして、夏村のこと何にもわかってねぇんだな
こいつが色恋沙汰に鈍いのは、見りゃわかるだろ?
そんな奴がお前と同じ感情で、好きなんて言うばずねぇだろう」
寿「!!」
真「佐藤の夏村に対する気持ちとは少し違うが、お前が離れていくだけでこんなにも弱くなっちまうんだよ」
寿「…」
真「大事にしてやれよ…じゃねぇと、俺が獲っちまうぞ」
寿「えっ!?」
真「冗談だ」
そう言って病室を後にした
――
―――
…夏村ちゃんが、こんなに苦しんでたなんて…
『…ん』
目を開けたとき、心配そうな寿くんの顔が目に入ってきた
寿「夏村ちゃん…気分はどお?」
一瞬、自分はどうしたのかわからなかった
寿「疲労と寝不足だって…
吾郎くんの球を打ったときに、グラウンドで倒れたんだよ…」
『そっか……』
ボーッとする頭でようやく理解が出来た
寿「……夏村ちゃん………ごめんね」
なんで寿也が謝るのかわからず聞き返した
寿「僕、自分の事ばかりで夏村ちゃんが吾郎くんの事、好きだって思って…あんな態度とったんだ…
だから、ごめん!」
『…よかった』
ベットから起き上がろうとする夏村に、寿也はまだ寝てるように促したが大丈夫と言って起き上がった
『寿くんに、嫌われたのかと思ったから…』
申し訳なさそうに俯いて、寿也はもう一度謝った
それに安心したのか、夏村は寿也に抱き着き、胸板に顔を埋めた
突然の夏村の行動に、不覚にもときめいてしまう
寿「み、夏村ちゃん…/////?」
『好きだよ…寿くんのことも……みんなのことも
…それじゃ、ダメ?』
寿也のシャツをぎゅっと握っている夏村の手が、少しだけ震えている
それに気付いた寿也は、「…ありがとう」といって、そっと抱きしめた
自分よりも少し大きい身体
とても優しい手…すごくすごく安心した…
あなたの温もりが 一番 好きだよ
*END*
→おまけ
コンコンッ
真「入るぞ」
そう言って入って来たのは、真島と今しがた着いたばかりの涼子だった
涼『夏村ちゃん! 大丈…夫?』
寿「ま、真島さん! 涼子ちゃん!」
夏村が寿也に抱き着いているところに、偶然来てしまった二人
寿也は悪いことをしていたわけではないが、妙に焦っていた
寿「あぁ、あの…こ、これは……///
〔み、夏村ちゃん! 涼子ちゃん達来たから、離なれて/////!〕」
『やだ』
寿「え…;」
小声で夏村に言うが、寿也から離れようとしない
それを見ていた涼子は
涼『二人って…やっぱり、そういう関係なの?』
確信したかのように言う涼子に、真島が付け足した
真「今は、佐藤のベタ惚れだよ」
寿「まっ真島さん!!///////」
あらそうなの! と、言って二人の邪魔にならないように、真島と涼子は病室から退散した
残った寿也は
寿「…もう…夏村ちゃん////」
『あたしに寂しい想いをさせた罰だよ(^_^)』
そう言ってしばらく離してはくれなかった
こんな罰なら、ずっとしててもいいけどな…/////
*おわり*
◇あとがき◆
黒砂糖ならず…黒佐藤が徐々に出来つつある…(笑)
書くたびに、寿くんが男になっていく…v
私が思うに、吾郎がオープンスケベだとしたら、寿はムッツリスケベだと思う!!
ペテン師だよ!きっと☆
ではこの辺で(>_<)
*07.11.4修正