好きと嫌いの間
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
シャコ シャコ シャコ
「おはよう! 北川!」
『お…はよ』
元気の良い朝の挨拶に吃驚した。
思わず歯を磨いていた手が止まってしまうほど。
何やら達成感に満ちた目をしていたが…。
『ねぇ、みゆひ。 ひょうみんら』
「口ゆすいでからしゃべろーぜ
全然わかんねー」
言われて気付いた日向は、口をゆすぎ、顔を洗ってタオルで拭く。
「んで、なに?」
『今日、えらくみんなに挨拶されるんだけど』
「いつもじゃん」
『それがさ。 なんか、やけに目が輝いてんだよね~……キモチ悪いくらいに』
「何気に失礼だな」
『ま、いいや
さ! ごはん♪ ごはん♪』
ルンルンと食堂に向かう日向の後ろを、御幸も追った。
すると、後ろから倉持もやってきた。
「ヒャハッ
北川のやつ、やけに上機嫌だな
もしかして、アレか?」
「アレ?」
「誰かに本命チョコでもやんのか?」
「(チョコ? …ああ、なるほど)」
納得の御幸。
そう。
今日は2月14日、バレンタインデー。
部員達の朝からの行動は、日向へのアピールだったという事だ。
そして
バレンタイン戦争の火蓋が切って落とされた。
―――
―――――
青道高校校門前。
「あ! 来たわよ!」
その声を合図に、野球部のイケメン組は、あっという間に女子生徒に囲まれた。
弾き出されたその他組は、握り拳を作り吠える。 所詮は、負け犬の遠吠えだ。
そんな中、女子の猛突進をかわした日向は何事かと、バトルステージを凝視した。
何なんだ? 今日は…
と、日向の目に映ったのは、女子生徒の持つ色とりどりのラッピング達。
それを、もみくちゃにされながら受け取っているイケメン組。
……ああ ・ ・
今日は、あれか。 バランタリンデー
もう一度、目の前のバトルを見る。
一つ溜息をつき、足を進めた。
朝から、ご苦労さんです
そのまま昇降口へ向かい、野郎共を置き去りにする。
――
―――
午前中の授業が終わった。
昼食をとる為、席を移動する生徒達。 その中、机に頬杖をついていた日向は席を立った。
いつもはかかる声が、一向に聞こえないからだ。 何をやっているのかと、今日は珍しくこちらから迎えに行くことにした。
廊下に出ると、どこもかしこも桃色一色。 B組まで行くのも億劫(オックウ)に思う。
ガヤガヤと賑わっているB組を覗いてみると。
「御幸君! これ、どうぞ!」
「あ、ども」
「私のも受け取ってv」
「サンキュー」
「倉持にも」
「俺は、こいつのついでかよ!」
「文句言うなら、あげないぞ」
「しゃーねぇ、もらっといてやるよ」
窓際で女子生徒に囲まれている2人。(ほぼ御幸)
これじゃ、動けないわな~
今日は1人で行くか
2人に声を掛けず、B組を後にした。
1人食堂へ行き、オムライスを注文。 いつもの席で昼食を取っていると、何やらヒソヒソとした声が気になった。
「ねぇ見て。 あの子、今日1人だよ」
「仕方ないよ。 今日バレンタインだし、御幸君ひっぱりだこなんだから」
「いっつも御幸君を1人じめにしてるから、いい薬なんじゃない?」
「なんか、かわいそうよね」
『……(聞こえてるんですけど)』
ほんと めんどくさい…
同じ野球部ってだけで睨まれたりするから、校内ではほとんど近付かないようにしていたけど、意味なかったし
一緒にいてもいなくても、結局は同じなんだよね
『はぁ…』
「何溜息ついてるの?」
『亮介先輩』
トレイを持った亮介が、いつもは御幸が座る椅子に腰掛けた。
『亮介先輩は、捕まらなかったんですか?』
「女子に?
哲と純(エサ)を置いてきたからね」
『…さすがです
(あの2人をエサ呼びするとは…)』
「それで。 今日1人なのは、御幸も倉持も捕まってるってこと?」
『台風の目に、わざわざ自分から飛び込んだりしませんよ』
亮介も日向と同じく、オムライスの様でスプーンで次々と口に運んでいく。
他愛無い話をしていると、いつの間にか食べ終わっていた亮介。 その視線は、じっと日向に向けられていた。
『……先輩、食べ終わったのなら行ってくれて構いませんよ?
(てか、見られてると食べづらいし…亮介先輩は特に)』
「で、さっきの溜息はなに?」
『?』
「俺が声掛ける前についてた溜息」
『別に、深い意味はありませんけど…』
「もしかして、周りの声とか気にしてたりする?」
聞いてたんだ…
亮介先輩も、こういう事結構鋭いんだよなぁ
私の嘘って、基本バレないだけど
この人相手だと、結構バレる
というか、暴かれる
『ただ、めんどくさいなぁって思っただけです』
「それだけ?」
『はい』
嘘ではない
けど、亮介先輩の目は、納得していない様子
目見えないケド…
「日向ちゃんは、そのめんどくさい事しないの?」
『する相手がいません』
「御幸は?」
『却下』
「倉持は?」
『却下』
「哲とか純は?」
『却下です』
「じゃあ、俺は?」
口に運ぼうとしたオムライスがピタリと止まった。 そして目の前の人物に視線を向ける。
流れで却下と口にしようと思ったが、亮介のいつものスマイルに、声が出ていかなかった。
ここで却下しようものなら、何を言われるかわかったもんじゃない。
さぁ、どうする日向よ。
と、心の中で物凄い葛藤をしているにもかかわらず、表情はそのまま。 ある意味すごい荒技だ。
すると亮介は、止まった時間を動かす様に吹き出した。
「冗談だよ」
『ですよね』
お互いにニッコリ笑った所で、御幸と倉持がトレイを持ってやってきた。
「あれ? 亮さん、どうしたんスか?」
「日向ちゃんが、1人で寂しそうだったからさ
じゃ、俺はもう行こうかな」
トレイを持ち立ち上がる。
すると何を思ったのか、日向の耳元に顔を寄せた。
「俺は日向ちゃんとなら、めんどくさい事になってもいいけどv」
『なっ…、なに言ってるんですか!?』
「ははは
あ。 コレ、他の人には内緒ね」
なんとも楽しそうに食堂を後にする亮介。
今だ、得体の知れない先輩に困惑する日向。
「亮介さん、何だって?」
『いや…内緒で
私、あの人のオモチャになりたくないから』
「ヒャハッ! 内緒なんて言われたら気になるところだけど、亮さんがああ言ったんだ
聞いた俺達も、何されるかわかんねーぞ」
ということで、この話題は終了
まったく
今日は、本当にめんどくさい日だ
ーー
ーーー
部活も終わり、寮へ帰宅。
ところが、やけに野球部員達の顔が緩んでいた。
『ねぇゾノ。 何でみんなニヤけてんの?』
「あ、あほう。 誰がニヤけてんねん」
『…』
「指さすなや!」
ちょうど通りかかった前園に声を掛けた。
顔を赤らめる前園にキモイと言えば、大きなお世話だと返された。
う~ん…。と、顎に手を当てて考えていると、後ろから川上にどうしたのか聞かれた。
振り返った日向の目に留まったのは、川上の手にある青い包みにリボンのついた、可愛らしいラッピングだった。
『あ。 それ、ゾノも持ってた』
「ああ。 藤原先輩にもらったんだよ
たぶん、野球部全員に」
『ほぅ~
だからみんな、顔が緩いのか』
野球部全員って、どんだけ作ったんだろう…
さすが、貴子先輩
自分では到底不可能だ
それ以前に、やる気もないし
私にとって今日という日は、恐らく一生好きになれない
まぁ、いいや
夕食も済み風呂も入り、後は寝るだけ。 豆乳を買いに、ポッキー片手に部屋を出た。
時刻は夜の10時。 室内練習場には、灯りが点いており、中にはまだまだ自主練習をしている連中がいた。
足を止め、中を覗いていると、前園に発見された。 彼の要望で、少しだけバッティングを見ることになった。
「どうや! 北川」
『う~ん…』
「何や。 もったいつけんと、ビシッと言えや!」
『いいの?』
「当たり前やろ!」
『じゃあ…
力入りすぎ
脇開きすぎ
腰動きすぎ
顔緩みすぎ』
「ま、待て! もうええわ!! それ以上はヘコムわ!
つーか、最後のは関係ないやろ!!」
怒り出す前園に、周りにいた部員達が笑い出す。
言えっていうから、言ったのに
ポキポキとポッキーを口の中へ入れていく。
騒がしい所に、お馴染みの奴らも来た。
「何か楽しそうだな」
『ゾノがね』
「お前が一気に言い過ぎなんや!」
『じゃあ。 まず、その顔の緩みから直しなよ』
「せやから、顔は関係ないやろ!!」
『貴子先輩からチョコもらったからって浮かれんなよー
みんなももらったんだからなぁ』
「じゃかーしいわっ!!」
「ヒャハハハ!
何だゾノ。 そんなに嬉しかったのかよ」
皆に弄(モテアソ)ばれる前園を見てケラケラ笑う。
「で。 日向はないわけ?」
『何が?』
「チョコ」
『あんた…あんなにもらっといて、まだチョコほしいわけ?』
「だって、日向からもらってないし」
『何で私があげなきゃいけないわけよ
あげる義理も義務もない』
「はっはっは。 ごもっとも
じゃあ、日向は誰にもやんないわけ?」
『それ、亮介先輩にも聞かれた』
「……へぇ…」
ぼそりと呟いた御幸の声は、亮介に口止めをされていたんだと青ざめている日向には聞かれることはなかった。
他言するなよと、すごい形相で口止めをする日向。
そんなことをしなくても、御幸にチクる気はさらさらないのだが。
そんな御幸の視線の先にある物が、御幸の悪戯心をくすぐった。
ニヤリと口角を上げる。
「日向、俺にもポッキーちょうだい」
『ん』
ポッキーの箱を御幸へ差し出すが、御幸の伸ばした手は箱へは向かわずに、日向のくわえているポッキーを奪い取った。
それを、そのまま自分の口の中へ。
「コレ、日向からのチョコな!」
『奪い取っといて何言ってんだよ、アホか』
「いいじゃん、別に
あ。 それとも、ポッキーゲームみたいな方が良かった?」
くわえたポッキーを日向の口元へ向ける。 妖艶な笑みと一緒に。
これにはさすがの日向も、動揺したのか頬に熱が集まるのがわかった。
『チョコ食いすぎて死ね』
思わずついた悪態は、イラついたせいか、それとも照れ隠しからか、真相は本人にもわからない。
そして、一部始終を倉持に目撃されていたという事は、部屋に戻ってから知ることとなる。
「お前ら、本当は付き合ってんだろ!」
「付き合ってねーよ
つーか、チョコ食うの手伝ってくんね?
増子先輩に持ってって」
「お前。 すっげームカツク!」
・END・
17/12/17
◇バレンタインネタでした。
仲良しな2人は、付かず離れず。この距離感がじれったくもニヤケてしまうところです( *´艸`)