哀しみの蒼に (調整中)
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ふわふわと 掴みどころのないキミ
捕まえようとすれば
指の間から 簡単にすり抜けていく
まるで 蝶のように・・・
・すれ違い・
*
昼下がり、政庁へ用事のあったシリル
用が終われば特派へ戻る予定だったが、今は政庁の中にある庭園、アリエス宮にいた
色とりどりの草花に囲まれ、優しい風を頬に感じながら庭園の中心にあるテーブルで紅茶を口に運んでいた
シリルの反対側には、そんな庭園に相応しいくらいの優しい笑みを浮かべたユーフェミアの姿があった
予定通り、用事も終わり特派へ戻ろうとした時にユフィに捕まったのだ
そういえば、最近ユフィとこうしてお茶をする機会があまり無かったことに気づき、快く承諾した
ユ『シリルどうですか? この庭園
本国のアリエス宮をマネて、クロヴィス兄様がお造りになったんです!』
『あぁ・・・よく似ている』
そのクロヴィスを殺したのは・・ルルーシュ
さほど驚きはしなかったが、今のルルーシュは皇族が相手でも容赦なく銃を向ける
当り前か・・
ルルが戦っているのは、ブリタニアなのだから
でも・・・・だとしたら
そんな簡単に銃を向けるのか・・・ユフィにも・・・・・
ユ『シリル、どうかしましたか?』
ティーカップを両手で持ったまま浮かない顔をしているシリルを、ユフィは心配そうに覗き込んだ
なんでもない・・と、柔らかく笑うと、安心したのかユフィも笑顔を見せた
すると、その笑顔を少し下げ、何やら言い出しにくそうに口を開いた
ユ『・・あの、シリル・・・スザクはお元気ですか?』
『いつもと変わらない。 今日も元気に学校へ行ったよ』
そうですか・・ と安堵したように溜息を付いた
スザクの事を聞く時のユフィはいつもこんな感じだ
気になるのならいっその事、様子を見に行けばいいものを・・・・とも思うが、一国の皇女が一般兵の様子を見に行くのも、おかしな話だ
『ユフィはいつもあいつの事を聞くんだな。 気になるのか?』
少しからかうつもりで言ったが、殊の外(ことのほか)ユフィは動揺したのか慌てて手と首を左右に振り、頬をピンクに染めながら精一杯否定しようとしている
そんな意外な反応に、なんとなく気づいてしまったシリル
いや、シリルじゃなくても気付くだろう・・・
『冗談だよ。 ユフィ』
ユ『∑!!・・・・も~/// シリル! からかわないで下さい!!』
くすくす笑っていると頬を膨らまし怒るユフィ
初めて見たユフィの一面
そんな彼女は、とても可愛らしいと思った
穏やかな風が2人の髪を揺らすと、シリルはティーカップをソーサーに置いた
『似合うと思うよ』
その言葉にユフィの瞳は丸くなり、頬を赤色に染めた
だが、戸惑うようにユフィは口を紡ぐ
ユ『・・・だけど、所詮は叶わぬ想いです
許される事ではないのだから・・・・』
大きく見開かれていた瞳は沈んでいき、ティーカップの中の紅茶に自身を映した
すると、シリルは椅子から腰を上げ、立ち上がった
*
『私はそんな意味で言ったわけじゃない
人種や地位が気になるのであれば、やめた方がいい』
ユ『・・・シリル』
『だけど・・・良いんじゃないか? 好きなら
ユフィが、諦めなければ・・・・ね』
そう言い残し、シリルはアリエス宮を後にした
残ったユフィは、冷めた紅茶の中の自分を見つめ、ふっと笑った
そう・・ですね
私が諦めてしまったら、それで終わりですものね
心の中のシコリが取れた気がしたユフィは、うんっと空へ伸びをした
晴れた空には雀が2羽、仲良く飛んでいる
ありがとう・・・シリル
*
一方、アッシュフォード学園生徒会室
いつも賑やかなここも、生徒会の仕事がなければ人の気配も少なく、寂しい感じもする
そんな広い室内には、男子の学生服が一つ
栗色のふわふわ猫毛を揺らし、猫のアーサーに餌をあげているのは、未だにアーサーに懐いてもらえないスザクだった
餌をあげていると、不意に扉の開く音が聞こえた
自然とそちらを向くと、アメジストのような瞳と視線がぶつかった
扉には親友のルルーシュが探し物を見つけたかのような顔で立っていた
ル「スザク、ここにいたのか」
ス「どうしたの?」
ルルーシュの探し物が自分だったことに少し驚きながらも、その理由を聞いた
するとルルーシュは、小さな包みをスザクに見せた
淡い水色の包装紙に赤いリボンが付いていて、とても可愛らしい物だ
ル「悪いが、これシリルに渡してくれないか?」
ス「え?」
ル「中はパイユっていう芋のお菓子なんだ。 シリルが好きなんだよ、これ」
ス「どうして僕に?」
ル「ほら、今日シリル休みだろ?
これ渡すために軍に行くのは少し気が引ける・・・それに、今日はナナリーの具合もあまりよくなくて傍に居てやりたいんだ」
そっか・・・そう言いながらスザクは、ルルーシュから小さな包みを手渡された
*いつもなら、お人好しのスザクは何の気兼ねも無く快く承諾するのだが、何だか今日は違った
いや、”今日は”ではない。 ”今は”だ
なぜ そんな事 知ってるの?
どうして シリルだけ なの・・・・
ス「・・・ルルーシュ」
君は シリルのこと・・・
自分を呼ぶ声に歩きかけた足を止め、振り返った
だが、自分を呼んだスザクから次の言葉が発せられないので不思議に思い、彼の名前を呼んだ
ス「ナナリーに、お大事にって言っておいて」
ル「あぁ」
いつものスザクの笑顔にルルーシュは笑みを浮かべ、生徒会室を出て行った
一人残ったスザクは、その視線を下げる度に無理に作った笑顔が消えていくのがわかった
シリルが好きな物・・・
何か悔しかった
自分の知らない彼女の事を知っていたから
そして、気軽にこうして贈り物が出来る事を・・
羨ましいと思うのに・・憎らしく思える
何で こんな風に思ってしまうんだろう・・・
何か 嫌だ・・
手に少し力が入ると、くしゃりと先ほど預かった包みが手の中で、ほんの少しだけ潰れた音がした
アーサーに餌をやり終えたスザクは、気の乗らない足取りで教室へ戻っていた
今日は、補習で出された課題プリントをやらなければ帰れないのだ
勉強の苦手なスザクにとって、とても楽しい時間に出来そうも無い
今日何回目だろうと言うくらいの深い溜息を漏らし、教室へ入った
誰もいないはずの空間に何やら人影が見えた
向こうもこちらに気が付いたのかスザクに目を向け、名前を呼ばれた
ス「シリル?! どうしたの? 今日は仕事じゃ・・」
『単に忘れ物を取りに来ただけだ』
ス「そ・・そっか」
少し残念そうな顔をするスザクだが、さっきまでの黒くもやもやした気分が、一気に吹っ飛んでしまったようだ
そんなスザクに今度はシリルが質問をした
今から補習だと苦笑いで告げるスザクに、ふ~ん・・・と如何(いか)にも興味の無さそうな返事をした
シリルは忘れ物を手に、頑張れよ。 と心無い声援を送る
ス「あ・・シリル!」
『・・ん?』
ス「これから、また仕事?」
教室を出ようとするシリルの足を止めさせ、そんな事を聞いた
振り向いたシリルは、危機迫るようなスザクの表情に振り返った事を激しく後悔した
さらに、困った仔犬のような目を向けてくる始末
仕事は入っていなかったが、その目を向けられ、つい本当の事を言ってしまった
案の定、スザクの勢いは更に増した
ス「じゃあさ! 僕の補習、見てほしいんだ!」
『・・・なぜ私が』
ス「お願い! シリル!」
『・・・・わ、わかった』
わかったから、そういう目で私を見るな
視線を逸らすシリルに、満面の笑みを見せるスザク
そして、シリルとのマンツーマンの補習が始まった
*
-数分後-
<パコッ>
ス「いてっ・・」
『違う! お前の頭は何度教えれば理解するんだ?!』
ス「・・・痛いよシリル・・・もう少し優しくしてくれても・・・(/_;)」
教科書を丸めて叩かれた頭を擦りながら、机に座っているシリルを見上げたが、彼女の額には薄らと青筋が見える気がした
『ほぉ~~・・・優しいのがお望みなら、うんと優しく教えてやろうかぁ?』
##IMGR33##
ス「いえ・・遠慮します・・・ιι」
丸めた教科書で顎ごと上を向かされ、黒いオーラを纏ったシリルがこちらをかなりの剣幕で睨みつけていた
そして、このお優しいお言葉
嘘でもはい。 とは言えない
なら集中しろ
その言葉を最後に教室内は静かになった
シリルの冗談ってあんまり笑えないよ・・
あの有無を言わさない眼力が、たまに怖い・・・ι
そんな事を思いながら、いい加減プリントに集中した
それからどのくらい経っただろうか
日の傾き出した教室には、時を刻む音と紙にペンを走らす音だけ
集中していたスザクの意識が、ふとその音たちに反応した
不意に隣を見ると、オレンジ色に染まっていく太陽をずっと見ているシリルの姿があった
そよそよと窓から吹き込む心地良い風に乗って、少し藍みがかった黒髪が楽しそうに揺れている
それが綺麗だったからなのか、ぼんやりと揺れる髪を見ていた
・・・・そう言えば
学校にいる時は、髪束ねてるよね・・・シリル
ぽっと浮かんだ疑問だった
だけど、何故だか妙にそれが気になって仕方がない
ス「ねぇ、シリル
学校では、どうして髪を束ねているの?」
『・・別に・・・ユフィがそうしろと言ったからだ。 男除けだとかなんだとか・・・』
確かに、髪を下ろしているシリルはとてもクールで大人美て見える
そんな彼女を放っておく男はいないだろう
束ねたら、それはそれで可愛らしくなる
でも 僕は・・・
無意識に伸びた手は、シリルの柔らかい髪に触れた
それに驚いたのか、窓に向けていた顔を勢いよく反転させた
その拍子にスザクの指が引っ掛かり、束ねていた髪がぱさりと肩に落ちた
ス「下ろした方が、好きだよ」
『・・すざ・・・』
云うよりも先に、スザクの顔が近付いていた
その僅(わず)か数秒の出来事に、回避できたはずのシリルもスザクの突然の行動に、柄にもなく身体を強張らせてしまった
シリルの頬に触れ、重なるくらいに顔を寄せる
*
あと数ミリ、というところで・・・
シャ『あれ? 誰かまだ教室にいるのかなぁ?』
とたんに、何かが激しくぶつかる音が響いた
その音と同時に、教室に顔を覗かせたのは、びっくりした表情を浮かべたシャーリーだった
シャ『どうしたの? 何、今の音・・』
当然の疑問だろう
中の光景を見れば、その音をたてた人物が誰かは一目瞭然
シリルは変わらず机に座ったまま
しかしスザクはと言うと、椅子の背凭(せもた)れが床に倒れ、その後ろにあるロッカーの前で座り込み、何やら後頭部を押さえている
シャ『スザク君! 大丈夫?』
『大丈夫だ。
人が折角、補習に付き合ってやっているというのに、こいつ居眠りをして椅子から転げ落ちたんだ。 自業自得だよ』
と、嘲笑うかのように平然と言ってのけた
そうなの・・と少し不思議そうにシャーリーが答える
転げ落ちただけでロッカーまで転げる訳がない
少し考えれば不自然極まりないシリルの説明だが、これ以上何も聞くな。 そこにある空気がそれを無言で伝えてくる
それもあり、これ以上シャーリーが突っ込んでくることは無かった
すると、シリルは机から降り、教室の扉へ向かった
『居眠りをするほど余裕があるのなら、私はもう必要ないだろう。 じゃあな』
シャ『え・・シリル?』
訳の分からないシャーリーは、一先ず未だロッカーの前で座り込んでいるスザクに近づいた
シャ『スザク君、本当に大丈夫?』
ス「・・・・はは」
小さく乾いた笑いが聞こえ、益々訳が分からないシャーリーは小首を傾げた
ス「何やってんだろう・・・僕は・・・・」
完全に 嫌われた
後にも先にも、後悔だけがスザクを襲った
僕は・・・
君に僕を・・僕自身を
ただ 見て欲しかっただけなんだ・・
でも 君の心に 他の誰かがいる事が こんなにも嫌で 自分のモノにしたくて・・・
そんな事を思ってしまう自分も 嫌いで・・
もう どうすればいいのか わからない
座り込んだズボンのポケットの中には、シリルに渡せずにいたパイユの入った包みがそのまま入っていた
きっと中身は、粉々になってしまっただろう
今の僕の心みたいに・・・
*
足早に教室を後にしたシリルは、その速度を緩めた
『・・・・』
さっきのあれは、何だったのだろう・・・
あいつは、何を・・
そう思うのとは裏腹に、自然と右手の人先指が自分の唇をなぞった
ピタッと手と足を止め、指先を唇から離した
・・まさか・・な・・・
再び歩き出したシリル
今思い描いたことを、まるで紙をぐしゃぐしゃに丸めるかのように頭の中から掻き消していった
そんなことをしても、無意味だという事を今のシリルはまだ知りはしなかった
・END・
*09,3,31