哀しみの蒼に (調整中)
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特派にある資料庫
そこにはありとあらゆる研究資料が置いてあり、その数は数百にも及ぶ
中には”危険! 触るな!”と書かれた棚もある
恐らくロイドの研究資料だろう。 個人的な・・・
そんな資料庫には、オレンジの軍服を着た人影が2つ
ス「え?! シリルも断ったの?」
・和解・
*ロイドに言われ、ランスロットに関するある資料を集めるためシリルとスザクは資料庫へ向かった
『なんだ? その意外そうな顔は』
脚立に登り、上の方を探しているスザクの驚いたような質問に視線だけを寄こす
どうやらスザクは、シリルもシャーリー達と一緒にカワグチ湖へ行くのだと思っていたようだ
『残念ながら、私はこれでも忙しい身でな。 少なくとも、お前よりは・・な』
ス「・・う”っ・・・ι」
『無駄口を叩いている余裕があるのなら、私は行くが?』
ぱたむっと持っていた資料を閉じ資料庫から出て行こうとするシリルをスザクは必死に止めた
とてもじゃないけど、僕一人じゃ掻き集められないι
シリルがいないと分からないやつもあるし・・・
この資料集めは初めスザクに任されたのだが、専門的な物もいくつかあるため、丁度その場に居合わせたシリルに手伝いを頼んだのだ
ふぅー・・と溜息をつき、再び資料を探し出した
『あと10分だ。 それ以上はお前に付き合ってられないからな』
ス「うん! ありがとうシリル」
シリルも今日は大事な任務があるらしく、そのためミレイ達の旅行を断ったのだ
*
なんとかロイドに言われた資料は掻き集められた
脚立を降りかけたスザクに、シリルは不意に話をふった
『そういえば・・・お前、あんまりシャーリーにちょっかい出すなよ』
ス「へ??」
何のことか解らないスザクは間抜けな返答をした
『人の思春期にとやかく言うつもりはないが、シャーリーの事も考えてやれよ。
シャーリーにも想い人ぐらいいるからな』
ス「ルルーシュ・・・でしょ?」
『なんだ、知っていたのか?』
ス「うん。 本人・・シャーリーから聞いた」
『なら、なおさらだ。 ああいう事は止めるんだな』
ス「ああいう事? ・・・っ///!!」
シリルの言っている意味が漸く理解できたスザク
*先日、生徒会室でシャーリーの恋話を聞いていた時、話の成り行きでシャーリーと揉み合いになり、押し倒してしまったあの出来事
タイミングが良いのか悪いのか、丁度シリルが生徒会室に来てしまい目撃されてしまったのだ
あの状況だけ見れば、誰だって誤解をするだろう
スザクの場合、運悪くあれからいろいろあり、結局シリルに誤解されたままとなっていた
ス「だからシリル! あれは誤解だっ・・て・・・え”?!」
『? ・・何だ?』
と、上を見た瞬間、大きな何かが落下してきた
その勢いで、せっかく集めた資料はそこら中に舞い散り、本の山は崩れ去った
唯一運が良かったのは、脚立がいまだ立派に立っていることだろう
慌てて弁解しようと身を乗り出したところ、足を踏み外しそのまま資料ごと下へ落ちたのだ
いたた・・と頭を上げるスザク
すると耳元でシリルの声らしきものが聞こえた
『痛いのはこちらの台詞だ』
ス「ごめん! シリル大丈・・ぶ・・//////!!」
##IMGR27##
『どうやら、お前は恩を仇で返すようだな』
焦点を合わせたスザクは目の前のシリルの瞳とばっちり合った
その距離わずか5センチ
ス「(ち・・・近い///)」
あまりの近さにスザクは耳まで真っ赤にし、硬直してしまった
なかなか動かないスザクを見兼ねたシリルは、目を細めスザクの瞳をきゅっと睨んだ
『いつまで上に乗っている気だ?』
ス「∑! あっ、ご・・ごめん!!」
はっと我に返ったスザクは急いで離れようと上半身を上げた時だった
やけに視界が暗い
恐る恐る頭上、つまりこの資料室の入口があるであろう方向を見た
ス「セっ、セシルさん∑!!」
そこには口元を両手で押さえ、明らかに驚いている様子のセシルがいた
オロオロするスザクにセシルは優しく笑いかけた
セ『ごめんなさいね・・、大きな音が聞こえたものだから・・』
ス「セシルさん、これは・・(・・;)」
セ『いいのよスザク君。 こういうことは誰にでもある事だから!』
ス「え?」
セ『でも、避妊はちゃんとするのよ! 大変なのは女の子の方なんだからね!』
ス「あの・・・セシルさん・・ιι」
セ『それじゃぁ、お邪魔さま~♪』
セシルに向けられたスザクの手は、見事に空を切り、ただただ空中を彷徨っていた
*スザクの背後からはいつ起き上ったのだろうか、スザクの下敷きになっていたシリルがにょきっと出てきた
誤解は早めに解いた方がいいぞ。 と、ボソリと呟く
なぜなら、セシルは一度妄想したことはとことん妄想に走るからだ
今頃は、あられもない妄想をしているのだろう
ス「・・・人事だと思って」
『当たり前だ。 私は被害者だからな
じゃあ、後は一人でやることだな』
出て行くシリルの後ろ姿を見ているスザクの足元には、それはもう悲惨な状況になっていたことは言うまでもない
*
政庁には私服を着、赤い伊達メガネをしたユーフェミアの姿があった
今日はカワグチ湖にあるコンベンションホテルで世界各地の議員が集まり、サクラダイト供給量などの国際会議が行われる
その会議に立ち会うために変装をしていたのだ
ユフィの周りには、SPと顔に大きな傷跡があり、コーネリアの腹心でもあるダールトンがいた
ダ「では、副総督を頼みます」
少し遅れたシリルに振り向くダールトンは背筋を伸ばした
『副総督の出向だというのに、SPが数人だけとは軽視し過ぎではないのか?』
ダ「貴殿がいればこその人数です」
シリルはダールトンの目を見てフッと笑った
『貴公がいてコーネリア殿下もさぞ、動きやすいだろうに』
ダ「・・は?」
『いや、何でもない』
そう言って、すでに車に乗り込んでいるユフィの隣に座った
出発する車に敬礼をする
まだ幼さの残る少女が、あの”漆黒の翼”に騎乗しているデヴァイサーとは・・な
その表情は心配と申し訳なさが出ていた
まだ、二十歳にも満たない未成年を戦場に駆り出さなければならないという心苦しさがあったからだろう
*
窓の外を暫く見ていたシリルにユフィは嬉しそうに声をかけた
ユ『シリルが来て下さって本当に良かった』
『ユーフェミア皇女殿下が租界を離れると聞いては行かないわけにはいきません』
しかし、よくユフィが租界を出ることをコーネリアが許したものだと思う
コーネリアのユフィに対する溺愛ぶりは、並大抵のものではない
十人の人質の命とユフィの命、コーネリアなら迷わずユフィの命を取るだろう
それほどまで大切な妹に護衛がシリルを含めたった3人
そのことを聞くとユフィはニッコリ笑った
*
ユ『シリルを護衛に付けるのが条件でしたので!』
そういうことか・・・
条件に出されることほど責任の重いものは無い
その人物に任せれば確実 = 失敗は死に値する、ということだからだ
*
太陽が沈み、夜空には月や星達が輝きを放ち主張し合っている
そんな輝きを水面に映しているカワグチ湖
その中央に佇(たたず)んでいるのは、ライトアップされた観光客に人気の宿泊施設、コンベンションホテル
そしてカワグチ湖の周りにはブリタニアの軍隊がずらりと並んでいた
まるでホテルを包囲しているかのようだ
軍隊の中心には、コーネリアの姿も見えた
そう、ここコンベンションホテルは数時間前、日本解放戦線によりホテルジャックにあっていたのだ
正面から少し外れた湖の近くには見慣れた一台のトレーラーが止まっていた
ス「僕たち特派は、救出作戦に参加できないんですか?」
ロ「申請はしてあるけど、ウチは命令系統が違うイレギュラーだし、それに・・・」
ス「イレブンに作戦を任せるわけにはいかない」
特派は元々、シュナイゼル殿下の指揮下に当たる部隊
しかもイレブンのデヴァイサーであれば余計と外されるのだろう
それにコーネリアはシリルやユフィと違い、ブリタニア人とナンバーズをきっちりと区別をする
それが腕の立つデヴァイサーであっても例外は無い
受け入れてもらうためには、まだ足りないのか・・・
じっとしていることしか出来ない自分が歯がゆくて堪らないのだろう
*
ホテル上階にある食糧庫
中は薄暗く、重い雰囲気が漂っている
そこには銃を持った数人の解放戦線の兵士と十数人もの人質の姿があった
無論、国際会議に立ち会うことになっていたユフィ等の姿もあった
日本解放戦線・・・
反ブリタニア勢力の最も大きい組織だ
さっきいたあの髭の男。 確か草壁と名乗っていたな
あいつがここの指揮官ということか・・
とにかく今は、大人しくしていた方が賢明だろう
ユフィがここにいることがバレれば、必ず何らかの交渉に使うはずだ
そうなればコーネリア殿下といえど従うしかあるまい
ユフィの命が懸っていたとすれば尚更だ
*
どちらにしても今の状況は、ブリタニア軍にとってかなり不利な状態
普段のコーネリア殿下であれば、テロなどという行為を許すはずがない
人質がいようが強行突破し、テロリストを鎮圧するだろう
それをせず、テロリストの要求に対し、沈黙を続けているのは、人質の中にユフィがいるからだ
会議には立ち会うだけのユフィは、メンバーリストにも載っておらず、それが幸をそうしたのか、日本解放戦線には人質の中に皇女殿下が居合わせていると知られずに済んだ
それも時間の問題かもしれないがな・・・
時間がたつにつれ、人質にされている人達の精神は限界に来ていた
いつ殺されるか分からない精神状態
長く耐えられるものじゃない。 それが一般人であるなら尚の事
なく声を押し殺し、震える体を支え、いつ来るかも分からない助けに縋(すが)るしかなかった
『ユフィ大丈夫?』
ユ『ええ、私は』
さすがは皇族というところか
周りに比べ、幾分か落ち着いているユフィに安堵した
すると静かな倉庫内に突然怒声が響き渡った
「イレブンだと!! 我々は日本人だ!! 訂正しろ!」
ミ『わかってるわよ! だからやめて!』
聞こえてくる声に聞き覚えのあるシリルは、兵士の方に目を向けた
『(あれは、ミレイ会長! ニーナ、シャーリーも)』
兵士に罵声を浴びせられているのは生徒会メンバーだった
イレブンを怖がっているニーナが恐怖に耐えきれず、つい口に出してしまった言葉 ”イレブン”
その一言が癇に障ったのか、兵士の怒りは収まらなかった
「お前たち隣まで来い!! じっくり教え込んでやる!」
ニ『いやああ!!』
ニーナの悲痛な叫び声が部屋中に木霊する
シリルは立ち上がろうとするユフィの手を掴んだ
ユ『っ!!』
『ユフィ約束をして
決してここを動かないって』
ユ『・・・』
『あなたがここにいると知られれば、必ず何らかの取引に使われる。 わかるわね?
ここで名乗っても、ブリタニア軍の不利になっても有利になることはない。 決して』
##IMGLR28##
眉を潜めて俯くユフィ
皇女だと名乗れば兵士の意識は簡単に彼女達からこちらに向く
自分を犠牲にすれば彼女達を助けられる
だが、それはイコール ブリタニア軍の最も不利な状況を作ってしまう
言われなくてもユフィは分かっている
分かっているからこそ言っている
ユフィは、目の前の困った人を放ってはおけない性分だからだ
自分が行くからと目で訴えると、わかりました・・と小さく返事をした
もどかしいのだろう
助けられるのに、それが出来ない自分が・・
*その間にも必死に抵抗をするニーナの腕を強引に連れて行こうとしている兵士
「立たんかこらぁ!!」
ニ『いやあ! いやああぁぁ!!!』
ニーナの悲鳴が上がった時、兵士の引く腕がピタリと止まった
ニーナは恐る恐る目を開いた
ニ『・・・シリル』
「なんだお前は! お前も我らを侮辱するきか!!」
目の前にいたのは藍みがかった黒髪を靡かせたシリル
兵士の腕を掴み、ニーナと兵士の間に割って入った
『日本の武士は礼儀正しいと聞いたが・・・これが日本人の礼儀というものか?
それにしては、あまりにも野蛮な礼儀だな』
「なんだと!」
シリルの言葉に逆上した兵士は、掴んでいたニーナの腕を乱暴に離し、標的をシリルに向けた
『弱き者を力で押さえつけ支配しようとする
お前たちのしていることは、ブリタニアと何ら変わりない
それを棚に上げるとは、とんだ笑い話だな』
「貴様ぁ!!」
怒りで我を忘れた兵士は銃口をシリルに向けた
周りからは小さく悲鳴が上がるが、シリルの表情はピクリとも動かない
それを見た他の兵士が銃口を下げさせた
「じゃあ、そいつの代わりにお前が来い!」
*
未だ解放戦線の要求に対して何ら返答を見せないブリタニア軍
セ『人質の学生って生徒会の人達なんでしょ? 交渉はまだ続けているから』
ス「僕は組織の人間です。 個人的な感情より組織の論理を優先します」
心配するセシルにスザクは何でもない風に見せた
だが、実際はじっとしていることしか出来ない自分が歯がゆくて堪らないのだろう
ロ「そぉ言えば」
コックピットの後ろから何かを思い出したようなロイドの声が聞こえた
セシルとスザクはその声に振り向く
ロ「シリルちゃんさぁ、今日確かお偉いさんの護衛任務だって言ってたよ~」
セ『それがどうしたんですか? 珍しいことじゃ・・』
ロ「今日ここのホテルでサクラダイトの国際会議があるってウワサv
お偉い方、たくさん来るよね~?」
ロイドがそこまで言うとスザクは何が言いたいのか理解し驚きの眼差しを向けた
ロ「たぶん、いるんじゃないかなぁ、シリルちゃん。 あの中に人質として」
ばっと前を向き暗闇に浮かぶホテルを見やった
シリル・・・
するとホテルの最上階に黒い影を見つけた
嫌な予感がしたスザクは、すぐさまモニターで拡大した
モニターに映し出された映像にスザクは驚愕した
ス「まさか・・・シリル?!」
*
*
暗闇の中、宝石を散りばめた様に美しい夜景
何もなければ誰もが素直にそう思うだろう
少し強い風の中、3人の兵士と共にシリルの姿がそこにあった
後ろ手で両手を縛られ、身動きの取れない状態だった
そしてそこは数分前、人質のブリタニア人が見せしめに突き落とされた場所
「ふんっ、自分の馬鹿さを恨むんだな」
『・・・』
「しかし、少し勿体ねぇなぁ・・
まだ幼さが残るが・・・体は立派な女だ。 特に・・・」
一人の兵士が下から上まで舐める様にシリルの体を見定めた後、胸に手を伸ばそうとした兵士
シリルはそれを無視し、自ら前に歩み出た
死に急いでいる奴。 兵士達の目にはそう見えたのだろう
「言い残すことがあれば特別、聞いてやるぞ? はははっ」
『なら一つ。 お前達はこの戦いの先に何を望む?』
「は?」
ブロックの上に立ったシリルは下からの上昇気流に闇と同化していた黒髪が靡く
それは、暗がりでも目立つほど綺麗なものだった
「俺たちの奪われたモノを取り戻す! 名を! 大地を!」
「そのためなら、ブリタニア人の命など惜しくは無い
いや、寧(むし)ろいらぬ命だ」
『・・・そうか』
シリルは兵士達に向き直り、後ろ手で縛られていた手を左右に広げた
無論、兵士達は驚き身構えた
『ならば、仕方あるまい』
トンっとシリルは後ろへ飛んだ
勿論、後ろの地面は数百メートル下
兵士達の目からは、あっという間にシリルの姿が消えた
予期せぬ出来事に、兵士達は咄嗟に下を覗き込んだ
刹那
一人の兵士の顔面が蹴り上げられた
落ちたと思われたシリルは、壁にある僅(わず)かな溝に掴まり、兵士達に隙を作らせたのだ
蹴り上げた勢いで元いた場所に着地し、隣にいた兵士に肘で溝打ちをした
残り一人の兵士は明らかに動揺はしているが、咄嗟に銃を構えるところは軍人である
2発、シリルに向けて撃つが、意図も簡単に交わされた
「くそっ!」
素早い身のこなしに目で追えなかった兵士は、気づく間もなく首にシリルの回し蹴りをくらい倒れた
『悪いが、お前たちの意見には賛同できない
無論、ブリタニアにもな』
シリルは急いでその場を後にした
ユフィが気がかりでならなかった
身分を明かすことだけは・・・自分を犠牲にすることだけはしないでほしい
そう思った矢先、シリルは物陰に身を隠した
*通路を歩く兵士達
その真ん中には、見慣れたピンク色の髪をした少女
ユフィ・・
最も恐れていたことだ
どうする・・
こんな殺風景な所では、気づかれずにユフィを助けることは不可能
ユフィを危ない目に合わせる訳にもいかない
「中佐の元に先ほど連絡した人質をお連れ致しました。 ユーフェミアと名乗っていますが」
扉の前にいる兵士に話を通している隙にシリルは飛び出した
その瞬間、部屋の中から銃声が響いた
一人の兵士は急いで扉を開けるが、兵士の左肩を銃弾が襲った
咄嗟にユフィを背に庇い、前に出たシリルの目は大きく開かれた
『ゼロ・・!』
ゼ「!! ・・中佐達は自決した。 行動の無意味さを悟ったのだろう
ユーフェミア、民衆のために人質を買って出たか・・・相変わらずだな」
ユ『え?』
シリル・・・何故お前がそこにっ・・
技術関係の部署にいるんじゃないのか!?
内心、少々動揺したゼロだがユフィとシリルを中に入れ、後の兵士は外へ追い払った
ゼ「副総督に就任されたと聞きましたが? ユーフェミア皇女殿下」
ユ『喜ぶことではありません』
ゼ「そう、クロヴィスが死んだからですね・・・私が殺した」
その言葉にユフィもシリルも顔を顰(しか)めた
ユフィは何故、兄・クロヴィスを殺したのか問い質した
だが、ゼロの口から出た言葉は意外なものだった
ゼ「あの男がブリタニア皇帝の子供だから」
ユ『えっ!』
ゼ「そう言えば、あなたもそうでしたね?」
ゼロが銃を向けると同時にシリルも持っていた銃をゼロに向けた
ゼ「やはり邪魔をするのか? シリル・シ」
『いいや、前にも言った通り、お前の邪魔をするつもりはない
ただ・・』
銃を握る手に力が入り、シリルの表情は一層険しくなる
こちらは本気だとゼロに知らしめるために
『私の大切な人たちに危害を加えると言うのであれば、話は別だ』
ゼ「軍人に有るまじき発言だな」
『ああ、悪いか?』
少しの沈黙が流れた
ドオォンという大きな音と共に地震のような揺れが襲った
外では、ランスロットに搭乗するスザクが見事作戦を成し遂げていた
コンベンションホテルの真下まで伸びているライフラインのトンネル
そのトンネル内には解放戦線のリニアカノンが行く手を阻んでいたが突破
ヴァリスの爆発と共に湖上へ出たランスロットは、そのままホテルの基礎ブロックの破壊に成功
ホテルが徐々に沈んでいく僅かな時間に人質を救出するというものだったのだが・・
ス「はっ! まさか!」
ほっとしたスザクの瞳に飛び込んだのは、ホテル内の一室にいるゼロ、そしてそのゼロと銃口を向き合わせているのは
ゼロ! ・・・それにシリル?!
そう思った瞬間だった
目の前のホテルが爆発した
ス「シリル! みんなーー!!」
ロ「よせ! 枢木准尉!」
ロイドの制止も虚しく、スザクとランスロットは崩壊していくホテルへと突っ込んで行った
*
*
崩壊したホテル内
暗がりの瓦礫の中、出口に向かう二つの足音
ゼ「・・・シリル、本気・・なのか」
『本気』
前を見据えたまま質問に答える
表情は見えないが、仮面の下のルルーシュは恐らく険しいものだろう
いつかシリルと本当に引き金を引き合う時が来るかもしれない・・・そんな事が頭から離れないのだろう
『私の大切な人たちは、私が守る
仮令(たとえ)、相手があなたでも』
ゼ「・・・・」
『だけどルル
あなたも私の大事な・・・大切な人だから、それだけは忘れないで』
ゼ「シリル・・・」
最後に微笑んだシリルは、救命ボートが待っている入口へと歩いて行った
そうなった時、撃つのか? 俺が・・・シリルを・・・?
そんな事・・できるはずがない・・・・・
*
カワグチ湖には、すでに救出された人たちの乗るボートがいくつかあった
ゼロの演説が始まる中、シリルはユフィが乗っているボートへ乗り込んだ
ユ『シリル! 良かった・・無事で』
『ユーフェミア様、お怪我は?』
ユ『いえ、それよりもシリルの方が・・』
『そうですか。 ご無事なら』
パシッ
辺りに乾いた音が響き渡った
S『シ郷! なんてことを!!
これは皇族への反逆行為になりますよ!』
『構わない』
左頬を押さえるユフィは恐る恐るシリルの方を向いた
俯いていて表情があまり伺えないが、かなり怒っている・・・いや、呆れているのだろう
『ユーフェミア様、嘘をつきましたね』
ユ『・・・・ぇ?』
『私は決して動かないように、そう言いました
ユーフェミア様もそれに返事をなさいました』
ユ『・・・・っ』
『あなたが動けばどうなるか、言わずとも解りますね?
それを敢えて告げたのは、こうなる事を一番恐れていたからです』
シリルは跪き、ユフィと目線を合わせた
ユ『ごめんなさい、シリル』
『謝って済むような事ではない!』
ユフィの肩を掴み、真っ直ぐにそして真剣にユフィの瞳を見た
『あなたは副総督であり、皇女なんだ! その自覚を持ちなさい!
目の前の命を救うことは立派な事だ。 だが、それによって数百人の命を・・何よりも自分の命を危険に晒すことになる事をよく考えなさい!』
ユ『っ・・・』
今にもその大きな瞳から涙が零れ落ちそうで、それでもシリルから決して目を離すことはしなかった
*そんなユフィにシリルの声は幾分か柔らかくなった
『私は、副総督だから守っているわけじゃない
皇女だから護衛に付いているわけじゃない
ユフィだから守りたい』
ユフィは、いつでも私の太陽だから・・
失くしたくない
嘘だらけの世界で唯一、ユフィだけは嘘を言わなかった
力を加減したつもりだったが、ユフィの左頬はほんの少し赤くなっていた
その頬にそっと触れる
『数々のご無礼、申し訳ございませんでした
処分は如何ほどにでも』
ユ『なりません!! そんなこと、わたくしが許しません!!
そんなことっ・・・許しません・・・っ・・シリル』
薄紫色の瞳から零れた涙と共にユフィはシリルに抱きついた
ユ『・・ごめんなさいっ・・・・ごめんなさい・・シリル』
消えそうな声で泣きじゃくるユフィの髪をそっと撫でた
ユフィ
あなたの優しさは戦争(こんなところ)には沿ぐわない
副総督なんて肩書きも似合わない
だけどそれは、もう仕方のないこと
だからせめて、あなたの笑顔が消えてしまわないように守り続けるから
ゼ「我々は力ある者が力なき者を襲う時、再び現れるだろう
例え、その敵がどれだけ大きな力を持っているとしても!
力ある者よ、我を恐れよ!
力なき者よ、我を求めよ!
世界は我々黒の騎士団が裁く!」
黒の騎士団・・・ゼロ
・・・ルルーシュ
あなたの行いは、善なのか悪なのか・・・それは分からない
ただ、あなたが欲しているものと、私が欲しているものは同じもの
・・・そうだよね ルル
湖上に浮かぶ黒き騎士
これは ほんの序章に過ぎない
これからの 哀しみの連鎖へのスタート地点
*特派へ行くため途中、シリルはユフィと別れた
丁度、岸にはセシルとロイドが心配の声を上げていた
セ『シリルちゃん! 良かった無事で』
『心配掛けたな』
すると向こうの方にランスロットが降り立った
コックピットが開いたと思ったら、降下ロープも使わずに飛び降りたスザクは、そのままシリル目掛けて走り込んで来た
ス「シリル!!」
『うわっ!』
周りを全く無視してシリルを抱きしめた
後ろでニヤつく2人に無性に腹が立つが、今はそれどころではない
ス「シリル・・・無事で・・良かった・・・・本当に」
##IMGR29##
本気で私を心配していたのか・・・?
なんだろうな こいつは・・・この前といい・・
不思議な奴だ
だんだん強くなるスザクの腕に、さすがに苦しくなってきたのか顔を歪めた
『・・・いい加減離せ・・苦しい』
ス「っ!・・ごめん!
・・・でも本当に無事で良かった」
漸くシリルを離したスザクはシリルの顔を覗き込んだ
だが、恥ずかしさからかそんなスザクを直視できないでいるシリル
『私があの程度で殺られるわけないだろう』
スザクから離れ、横を通り過ぎようとした時だった
目の前が歪み、全身の力が抜けたかのようにシリルはその場に崩れ落ちた
間一髪のところで支えたスザク
ス「シリル!?」
セ『シリルちゃん!』
あぁ・・・やばい 視界が・・・・霞む・・
・・・また・・・・・・あれ・・が・・・
そこで私は意識を手放した
どこか遠くで 私を呼ぶ声がした気がする・・・
*
意識が戻ると真っ白な天井と薬品の匂い
そして頬には一筋の涙
久しぶりに見た
幸せだった、あの頃の夢
ナナリーがいて、ルルがいて、母様がいて・・・そして私がいる
もう戻る事の出来ない幼き日々
何度戻りたいと願っただろうか・・・
起き上ったシリルは右手の違和感に気づいた
そこには、椅子に座りシリルの手を握ったまま眠ってしまっているスザクの姿があった
・・・そうか
お前がずっと握っていてくれたから、優しかったあの頃の夢が見られたのか・・・
なんだろうな・・・お前の優しさはどことなくユフィに似ている気がする
そっとスザクの手を外し、肩に布団を掛けてシリルは部屋を出た
*
ス「・・・ん」
すっと目を開けたスザクは、すぐさま異変に気がついた
目の前のベットで眠っているはずのシリルの姿がそこにはないのだから
ス「シリル・・どこに・・・」
前にも感じた
目が覚めたら、君はいつも僕の前から居なくなっている
なんでこんなに焦りだけが募るのだろう
彼女は僕のことなんて嫌っているのに・・放っておけばいいのに
だけど、どうしても放っておけないんだ
どうして君がナイトメアに乗っているのか
純血派を黙らせるほどの地位を持ち、皇女殿下の信頼を得、護衛にも付けるほどの力を持っているのか
なによりも
たまに見せる、哀しみに満ちた君の横顔が僕の胸を苦しくさせる
何故そんな顔をするの?
きっと君は、僕が想像も出来ないほどの何かを抱え込んでいるんだ
その小さな背中に
たった一人で
そう思うと、居ても立っても居られない
建物から中庭へ出たスザクの目には、オレンジ色に輝く太陽とそこに咲いているかのような一輪の華
ゆっくりと近づくスザクに先に声をかけたのはシリルだった
『すまなかったな、迷惑をかけて』
ス「もう大丈夫なの? 起き上がって」
『あぁ、少し休めば治るからな』
それはまるで、今回が初めてではないと言っているようだった
しかし、それを聞くより先にシリルからの問いかけが入った
『・・お前、なぜ軍に入ったんだ?』
ス「え?」
『それだけの腕がありながら、名誉ブリタニア人になった
日本人の誇りまで捨てて、軍に入りたかったのか?』
ス「・・・・弱いことは、いけないことなんだろうか」
*あの頃、10歳の僕には世界はとても悲しいものに見えた
菌・病気・染色・腐敗・差別・戦争とテロリスト
繰り返される憎しみの連鎖
誰かがこの連鎖を断ち切らなければならない
『理想だな』
ス「もちろん、そういったものを全て無くせるとは思わない
ただ、大切な人を失くさないための・・・せめて戦争のない世界にしたい」
『・・・そのためにブリタニアの軍に?』
ス「ルールに則って僕は中から変えていきたい・・・この世界を」
胸に引っ掛かっていた違和感が解った気がする
優しさだけじゃない、その信念も、目指すものも、ユフィと同じなんだ
だから気になった
だから突き放せなかった
シリルは立ち上がり数歩歩いた
『なるといいな・・・そんな世界に』
ス「してみせるさ、きっと」
『・・・生意気な』
隣に並んだスザクに自然と笑みが零れた
『できるさ・・・スザクなら』
微笑んだシリルをスザクは目を丸くして見つめていた
何をそんなに驚くことがあっただろうかと、少し考えた
呆然とする笑いに少し腹が立つ
するとスザクは満面の笑みを向けた
ス「初めてだ」
『は?』
ス「初めて僕の名前、呼んでくれた」
『・・・・そうだったか?』
ス「うん!」
あまりの笑顔に、頬が赤く染まったのは夕陽の所為だろう
ス「ね! もう一回呼んでよ」
『・・・断る』
ス「ねぇシリル、もう一回だけ」
『しつこい男は嫌いだ』
犬のように懐いてくるスザクの鼻を摘まんでやる
鼻を押さえて潤んだ瞳で見てくるスザクは、まるで捨てられた仔犬のようだった
シリルは見るに耐え兼ね、くるっと背を向けた
『ほ、ほら! 戻るぞ! ・・スザク』
ス「・・・うん!」
・・・風邪でも引いたか?
顔が熱く、少し動悸がする
それが何なのかシリル自身が気づくのは、もう暫く先のお話
・END・
*08.10.19