哀しみの蒼に (調整中)
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あなたの温もりは
今も昔も変わらず
私を優しく包み込む
・再開・
*眩しい光がカーテンの隙間から差し込む
鳥のさえずりが心地よく響く中、スザクは目を覚ました
ス「ん・・・あさ・・」
コロンと寝返りをしてうつ伏せになり、まだ眠たいのか目が開ききっておらず、ぶらんと左手はソファーから傾(なだ)れている
頭が覚めて来たのか何かを思い出したように上半身を起こした
するっと肩から落ちる掛け布団に目を向ける
昨夜は確か・・・
シャワーを浴び終えて出てきたスザクの目には、よほど疲れていたのか無防備にスザクのベットでスヤスヤ眠っているシリルの姿が映った
一緒に寝るわけにもいかず、シリルに掛け布団を掛け、スザクはそのままソファーで寝たのだ
一人部屋のここには、来客用の布団も予備の掛け布団も無かったため、何も掛けずに眠ったはずなのに、スザクには昨日は無かった掛け布団が掛けられていた
はっとしたスザクは、すぐさまベットに目を向けた
*が、スザクの思った通りベットは蛻(もぬけ)の空
ベットに近づき敷布団に触れた
まだ微かだけど温かい・・
その温かさから、数十分前まではここにいたことがわかる
そして彼女はこの部屋には既にいないこともわかった
スザクは小さく溜息を吐いた
やはり何か怒らせてしまったのか・・
昨日のシリルは出会ったあの時とはまるで別人だった
あんな冷たい瞳をするなんて・・・
ゾクリと背中を走る悪寒は今でも覚えている
殺気を帯びたそれとは違う、怒りに似たような鋭い感じだった
考えを振り払うかのように、ふるふると頭を横に振り学校へ行くための身支度を始めた
すると、テーブルの上にあるものが目に入った
そこには、甘い香りを漂わせているホットケーキと、新鮮な野菜が散りばめられたサラダが置いてあった
それともう一つ、置き手紙が添えてあった
その手紙を見たスザクは、顔を緩ませ微笑んだ
ス「・・シリル」
”昨日泊めてもらった礼だ。 野菜もちゃんと食えよ”
と、白い紙の大きさの割に真中に一言だけポツリと書いてあった
そんな彼女の不器用な優しさが、くすぐったく感じた
*
特派のある大学院の一本道を挟んだ隣には、広大な敷地が広がっていた
かなり綺麗に整備された敷地の中心には、高級ホテルを思わせるような建物が見えるが、これは列記とした校舎だ
ここは貴族が多く通う、名門私立・アッシュフォード学園
その一室にある椅子には、不機嫌な面持ちで座るシリルの姿があった
『(はぁー・・ユフィの言いつけ(強制命令)とはいえ、なぜ今更私が高校なんかに・・・)』
シリルがふて腐れている原因は今朝のこと・・
―――――
ユ『シリルも17歳なら学校へ行くべきです!』
スザクの部屋を後にしたシリルは、急にユーフェミア皇女殿下から呼び出しを受け、何事かと思いきやそんな事を言われた
笑顔のユフィにシリルは冷静に答えた
『ユーフェミア様』
ユ『ユフィ! 2人の時はそう呼ぶように言いましたよねv』
『・・・・ユフィ、私は本国で大学院まで出ている。 今更高校へ通う必要なんて』
ユ『ダメです(^_^)』
ユフィは断りを入れるシリルの言葉をピシャリと遮り、有無を言わせない
シリルは少しふて腐れた顔をしたが、笑顔のユフィには何の効果も無い
ユ『シリル、学校は勉学を学ぶだけの所ではありません
友達と話したり、遊んだり、ケンカしたり・・・心を育んでいく場でもあるんです。 だから』
『私には、必要のないことよ』
*失礼しますと、ユフィの部屋を出ようとしたが呼び止められたシリルは反射的に振り返ってしまった
しまった・・と思った時には、自分の腕の中には大きな箱が手渡されていた
その箱には、名門私立・アッシュフォード学園の校章があからさまに付いていた
勿論、シリルはあからさまに眉間に皺を寄せユフィを疑いの目で見た
『ユフィ・・・これは何だ』
ユ『制服ですv 手続きはすでにしてあります、今日から通って下さい! 命令ですよシリルv』
『・・・はぁーー・・・ι』
この笑顔で一度言い出すと頑固なユフィは、何を言っても無駄
しかも命令だと言われてしまっては、もう拒否権は無いだろう・・・
諦めるシリルはズシンと肩を落とす
ユフィの突然の行動は、今に始まったことではないが、振り回されるこっちの身にもなってほしいものだ・・・
というわけで、渋々学校へ通うことになったのだ
一方、教室では突然の転校生の話で持ち切りだった
リ「おっ! スザク知ってるか?」
教室に入って来たスザクに、話したくて仕方がない! と言った感じで話題を振るお調子者のリヴァル
その隣では呆れた顔をしている、幼なじみのルルーシュがいた
*何の話かわからないスザクは、2人に聞き返した
ル「転校生が来るらしい」
というルルーシュの発言と同時に教室に担任の先生が入って来た
散らばっていた生徒たちは、自分の席に着いた
担任が二言三言話した後、待ち切れなかったのかリヴァルが声を上げた
リ「先生! 転校生が来るって本トですか?」
リヴァルの発言に教室中が騒ぎだした
担任は手を2回ほど叩き、しょうが無いというような顔をして教室の扉に向かい入るように促した
扉が開き中に入って来た人物に視線が集まり、所々で自由に声が上がっていた
そんな中、一際大きく目を見開き、かなりの意表を突かれていたのは、茶色の猫っ毛髪のスザク
ス「(シっ、シリル??!)」
髪を横に束ね制服に身を包んでいるが、スザクは一目でシリルだとわかった
どうしてこんな所に!? と、口を突いて出そうになるのを懸命に飲み込んだ
『シリル・グランツェだ。 よろしく』
素気ない自己紹介に担任は、シリルが軍に所属していることを付け足した
担「じゃあ、席は・・・ルルーシュの後ろだ」
『・・・・・ルルーシュ・・?』
それを聞いたシリルは、小さく呟いた
それは聞き慣れた、忘れることのない名前
まさか・・・な
同名・・・他人の空似ということも有り得る
どちらかというと、こっちの方が数倍可能性は高い
こんな所で会えるなんて、奇跡のような事が起きない限りあり得ないことだった
シリルはそれを十分知っている
考えるだけバカバカしいと思い指定された席へ向った
*
そして、一瞬だった
一瞬、アメジストの瞳と視線がぶつかった
2人の心が通じるには十分だった
ドクンッ
シリルは高鳴る鼓動を押さえ、席に着いた
そんなシリルに視線を向けてくるスザクなど、まるで眼中に無かった
休み時間になるとシリルの周りには、大勢の生徒でいっぱいだった
シリルの困り果てた様子を遠目から見ているルルーシュ
リ「なぁに熱い視線を送ってんだよ! ルルーシュ~!!」
後ろからルルーシュの首に片腕を回し、じゃれつくリヴァル
別に、とそっぽを向くルルーシュにリヴァルは得意げに口を開いた
リ「いや~、ルルーシュもお目が高い!
グランツェ家と言ったら、屈指の名門貴族ではありませんか!
軍に所属しているにも関わらず、あの容姿端麗ときたもんだ! こりゃぁ、人気出るぞ~!
そういえば軍ってことはスザク、知ってたりとかする?」
いきなり話を振られたスザクは返答に困っていた
同じ所属だと勝手に言ってしまったら、またシリルを怒らせちゃうかな・・・?
すると、ルルーシュが立ち上がった
どうしたのかリヴァルが聞くと、先生に呼ばれているからと教室から出て行った
それに続くかのように、シリルもトイレと称して人込みを掻き分け教室を出て行った
*
ツカツカと足早に廊下を歩くシリル
さっきのあれ・・・・やっぱり
ルルーシュが教室を出る時の、襟を上に摘まみ上げる仕草
傍から見れば、何てことはない日常のほんの一部にすぎないだろう
だが、その動作はシリルにとっては大きな意味をもつものだ
”屋根裏部屋で話そう”
小さい頃良く使っていた秘密の合図
シリルの足は逸(はや)る気持ちを抑えられず、いつの間にか走り出していた
学校での屋根裏・・・つまり屋上
階段を駆け上がり、屋上へ続く扉の前で一旦息を整えた
そしてゆっくり扉を開いた
ぶわっと強い風が吹き思わず目を瞑ってしまった
ゆっくりと目を開けると、黒髪に整った顔立ち、そして一際目立つきれいなアメジスト色の瞳と視線が合った
大人にはなっているが、幼い頃の面影が霞むことなく残っている
見間違えるはずがなかった
心臓が壊れてしまうんじゃないかって言うくらい鼓動が速く、胸を締め付けていた
『・・・ル・・ルーシュ・・?』
ル「・・・シリル」
ルルーシュの口から紡がれた自分の名前が酷く懐かしくシリルの耳に響き渡った
堪え切れるわけも無く、シリルの瞳からは、一粒の涙が頬を伝った
*
ル「この合図、覚えていたんだな」
シリルに近づき、頬に伝った涙を拭うように触れた
シリルも確かめるかのようにルルーシュの頬を撫でた
見上げるシリルの目には、今にも零れ落ちてしまいそうな涙が視界を遮っていた
涙で歪む目の前、はっきり見えないが確かにそこにある存在
『本・・トに・・・ルル・・・・・シュ』
ル「ぁぁ、俺だよ・・シリル」
『っ・・・ルル!!』
優しく微笑むルルーシュに、シリルの涙は零れ落ち、それが合図だったかのようにルルーシュに抱きついた
ルルーシュも小さなシリルの身体を抱きしめた
『ルル・・無事でっ・・・・良か・・・・』
ル「シリルも・・元気そうで・・・良かった」
昔と変わらない 自分を呼ぶ優しい声
別れてしまった 小さな幸せ
求めて已まなかった 半身
十数年もの時間(とき)を経て、流れ落ちる涙
しゃくり上げる声と、震える肩にそれ以上何も言葉が出なかった
もうずっと目にすることのなかった自分よりも藍みがかった髪をルルーシュは愛おしそうに優しく撫でた
ル「ずっと・・逢いたかった」
今にも泣き出してしまいそうな表情で強くシリルを抱きしめた
お互いの存在を確かめ合うように
・END・
*08.6.28