哀しみの蒼に (調整中)
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彼女の見せた表情は ほんの一部
その小さな背中に
どれだけのものを背負っているのか
僕は まだ これっぽっちも知りはしなかった
・嫌いなタイプ・
*散々な一日が漸く終わろうとしていた
業務を終えたスザクが疲れた様子で部屋に向かうため廊下を歩いている時だった
「も、申し訳ございません!」
前方で慌ただしく謝罪している太めの男がいた
軍服からすると、どこかの指揮官だとわかる
あまり気にせず、通り過ぎようとした
が、その男が頭を下げているのは、先ほど特派に新入りしたシリルだった
その光景があまりにも不自然に見えたため、思わず駆け寄りどうしたのか聞いてしまった
すると太めの男はかなりの剣幕でスザクを捲くし立てた
「貴様! 総司令官に何という無礼を!!」
『おい』
ス「総司令官?」
「シリル・シ総司令官。 皇帝直属である特殊部隊の総司令官であるぞ!
貴様のような一般兵がお声掛けして良い方ではない!!」
皇帝直属・・・?
スザクは驚きを隠せないでいた
その表情を見た太めの男は、何故か勝ち誇った顔をした
すると、太めの男の顔面をシリルの手ががっしりと掴み、後ろへと退けた
『丁度良かった、頼みたいことがあるんだ』
ス「・・・えっ」
「シ総司令官(・・;)」
『部屋の件は明日でも構わないが・・・・そうだな、あまり広くない部屋にしてくれ。こじんまりとしたのがいい』
「は・・はぁ・・・ι」
太めの男にそう告げると、シリルはスザクの背中を押し、その場を立ち去ろうと歩きだした
『あぁ、それから・・私のことをあまりベラベラとしゃべらないことだな。でないとその口、一生言葉を発せられなくなるぞ?』
目を細め有無を言わさぬ眼力に、太めの男は慌てて返事をした
*
スタスタと前を歩くシリルの背中を見つめていた
さっきのあれって・・本当なのだろうか・・・
あの人がシリルに向かって言っていた”総司令官”って・・
考えても埒(らち)があかず、それよりも聞いた方が早いと、最終的にはそこに辿り着いた
ス「ぁ・・あの、シリルさっき」
『あ、今日一晩泊めてくれないか?』
ス「えっ・・あ・・うん・・・・・・・・・・・・・・・・へっ!」
意を決して切り出したが、綺麗さっぱりと相殺されてしまった
言葉を掻き消されたことで、その後のシリルの言葉がちゃんと頭の中を回っておらず、理解しないまま承諾の返事をしてしまった
ハッと気づいた時には時すでに遅し
とんでもないことに返事をしてしまったと、焦りだけが後から溢れてきた
ス「まっ、待ってシリル! 泊まるって・・まさか僕の部屋に?!」
『それ以外、どの部屋に泊まるのにお前の承諾が必要なんだ?』
ス「それは・・・そうだけど・・」
『それとも何か? 一度引き受けたことを断ると?』
ス「あ・・いや、そういうわけじゃ・・ι」
『なら問題ないだろ。ほら、お前が先に行かないと部屋が分からないだろう?』
上手く丸め込まれたスザクは、促されるままに部屋へ向った
シリルのペースにすっかりハマってしまったスザクだった
*
シュっという短絡的な音と共に部屋の扉が開いた
どうぞと、シリルを招き入れながら部屋の灯りをつけた
パッと明るくなった空間は、決して広いとは言えないが生活するには十分な広さだ
『なかなかいい部屋だな』
ス「そうかな・・? ほとんど寝るだけの部屋なんだけどねι」
苦笑いをしながら、シリルに先にシャワーを使うように促した
シリルは素直にそれに応じ、シャワー室に姿を消した
スザクは堅苦しい軍服の上着とネクタイをはずし、ソファーに掛けシャツの第2ボタンまで外した
緩くなった服に体の疲れがどっと押し寄せた
息を吐きベットに腰掛けるスザクの耳には、小さくシャワーを浴びる音だけが聞こえていた
なんか変な感じだな
今まで一人だったこの部屋に、誰か他の人がいるなんて・・・
元イレブンで名誉ブリタニア人であるスザクは、軍でも勿論イレブンの中でも外された存在だった
軍では疎ましく思われ、イレブンでは裏切り者呼ばわりされていた
こんな風に誰かがこの部屋に訪ねてきたことなんて一度たりとも無かった
だからなのか・・シリルが泊まると言った時、焦っていた反面、嬉しさがあったのは・・・
こんな気持ちは、久しぶりだ
心が温まるような、そんな感触だった
スザクの表情は自然と緩んでいた
泣きだしそうな・・それでいて幸せそうな・・・そんな表情
*
シャワー室では、お湯の熱気で薄らと白く曇っている
カーテンを引いた向こうには、シャワーを頭からかぶり壁に手を付きながら眉を寄せ、険しい表情のシリルがいた
テレビや報告書で知らされているよりも、自分の目で実際に見て感じた日本は、まるで違っていた
ここでは日本人が無条件で虐(しいた)げられている。敗戦国と言うだけで
ならば、その敗戦国を自国として守っていくのが勝った者の義務ではないのか・・・
だからと言って、下手に出るわけにもいかない・・・か
不条理な世界だな・・・
ぐっと右肩を握りしめた
すると、コンコンと控え目に扉をノックする音の後に、スザクの声が聞こえてきた
ス「シリル着替えとタオルここに置いておくから」
『あぁ・・・ありがとう』
そう言うと脱衣所にある籠の中に、着替えとタオルを置いた
*そもそもシリルがスザクの部屋に泊まることになった理由は、先ほどの太めの男の手違いで、シリルに用意するはずだった部屋が物置になっていたのだ
どう間違えればそうなるのか、教えてほしいくらいだが・・・
丁度その時にスザクがタイミング悪く来てしまったのだ
あれでも、は少々焦っていたらしい
自分の肩書を知られまいとしていたが案の定、太めの男が口を滑らせたのだ。滑らせたというよりも、むしろ自慢げに話していたと言った方が良いだろう
部屋は明日、用意し荷物も明日届くこととなった
・・と言うことだ
ス「シリル・・・さっきのこと聞いてもいいかな?」
出ていく扉の音がなかなかしないと思ったら、そんな質問が聞こえてきた
さっき・・と言うのはあの太めの男が言っていたことだろう
『(あのブタピカリめ・・・余計な事を言いやがって・・・)』
ぐぐ・・・と手を握りしめ怒りに拳を震わせていた
悪態をついているシリルにスザクはもう一度声をかけた
『・・・聞いたままだ』
ス「じゃぁ・・本当に皇帝直属の・・・」
『ん』
カーテンの端から自分めがけて伸びてくるシリルの手
その手が意味する物が分かり、その手にバスタオルを渡す
体を拭きはじめるシリルの姿がカーテン越しにシルエットではあるが、はっきり見えた
そのシルエットにスザクは頬を紅く染めながら目線を逸らした
するとシリルは、一つ溜息をつきスザクの質問に答えた
『隠密機動特殊部隊・総司令官
それが私の本来の役職だ』
事実を知ったスザクは暫くの間黙っていた
何故だか、この沈黙がとても痛かった
*
一線を引くならそれでも構わないと思った
できれば、知らせずに接したかったが知られてしまっては仕方がない
ス「どうして・・そんな方が特派なんかに・・」
漸く口を開いたかと思えば、それだ
失望にも似た脱力感がシリルを襲った
『上からの命令だ』
ス「命令・・」
『・・余計な事を考えるな。お前には関係のないことだ』
スザクの考えていることが手に取るようにわかる
先手を打ちスザクからの疑問も反論も出来なくした
その言葉にスザクは何も言えず、顔を俯かせた
関係のないこと・・・一般兵である自分には何ら関係は無い
確かにそうだけど・・・
なら、何だろう
この胸の蟠(わだかま)りは・・・?
『おい』
俯き沈黙していたスザクは、その呼びかけにばっと前を向いた
すると、カーテンの端から顔を出しスザクをじっと睨んでいるシリルの姿が目に入った
『いつまでそこに居るつもりだ? いい加減、着替えたい』
ス「あ・・・ご、ごめん///」
慌てたスザクは足早にシャワー室から出ていった
それを確認すると、スザクの持って来てくれた着替えに腕を通した
かなり大きいそれは、たった今ここに立っていたスザクの物だった
*
・・・何故あんなに素直に答えてしまったのだろう?
先ほどみたく、関係のないことと言えばそれで終わっていたはずなのに・・
何故わざわざ肯定するようなことをいってしまったのか・・・
今までの自分には有るまじき言動だ
疑問が疑問を呼ぶように、答えなど出はしなかった
着替えを終え、シャワー室を後にした
シリルが出てくるとベットに座っていたスザクは、すっと立ち上がりシリルの目の前で片膝を付いた
いきなりの行動にさすがのシリルでも驚きを隠せず、目を見開き目の前の茶色い髪を凝視していた
ス「存じ上げなかったこととはいえ、今までの数々の無礼、申し訳ありませんでした」
この発言にシリルの驚いた表情は一瞬にして消え去った
立てという一言にスザクがゆっくりと立ち上がった
とたんにスザクの目の前の景色が、グラッと半回転した
勢いで瞑っていた目を開けると、そこにはシリルがいた
胸倉を掴まれ、そのままベットに押し倒されたのだ
そして、シリルはスザクの上に跨がっている
傍(はた)から見れば、かなりおいしいシチュエーションだが、シリルの表情はそれを思わせないほど冷たいものだった
『まさか、謝ったぐらいで今までの私への無礼を帳消しにできるとでも思っているのか?』
ス「・・・罰は受けます」
胸倉を掴まれているため、苦しさからか少し顔を歪ませながら答えるスザクに、口角を下げギリッと噛みしめた
私の肩書が知られれば、こうなることは分かっていた
だが、こいつのこのあからさまな態度は何だ!
*
『無礼なことなど何一つしていなくても、か?』
ス「・・・自分は・・軍人である前に元イレブンで名誉ブリタニア人ですから」
それを聞いた途端に、シリルはスッとスザクから手を離した
そのまま部屋に備え付けられている冷蔵庫から、先ほど買ったミネラルウォーターをぐいっと一口飲みこんだ
そんなシリルの行動を不思議に思ったのかスザクは上半身を起こした
『・・・悪かったな、先にシャワーを使わせてもらって。入ってきなよ。汗だくだろ?』
ス「ぇ・・あ・・・はい」
スザクがシャワー室に消えると、シリルの手に力が入り持っていたペットボトルがベコッと音を立てて凹んだ
そして妖笑のような笑みを浮かべ、はは・・と乾いた声を漏らした
そうか・・・
あいつも他の連中と同じだったってことか
イレブン、名誉ブリタニア人
これは、ブリタニアが日本人を差別、格付けするために付けた汚名だ
それを己自身で口にするということは、己自身を差別しているという証拠だ
差別・・・私のもっとも嫌いなモノだ
枢木スザク
『嫌いなタイプだ・・』
・END・
*08.6.15