哀しみの蒼に (調整中)
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光のない世界
始まりは あの日
光を闇が覆っていく
地に堕とされた翼は
二度と戻らない
・運命の始まり・
・
ブリタニア本国。
大きな窓ガラスが印象的な大広間。 その奥の椅子には、このブリタニア帝国・第2皇子であるシュナイゼルが頬笑みを浮かべ、静かに座っていた。
『日本…ですか?』
その少し前には、高貴を漂わせる正装に肩下までの藍みがかった黒いストレートの髪をした少女が跪づいていた。
口に出した言葉と同時に、瑠璃色の瞳を目の前にいるシュナイゼルに向ける。
シュ「クロヴィスが亡くなったことは聞いているね?
代わりにコーネリアが新総督に、ユフィが新副総督としてエリア11を治めることになった
だが、未だあそこは混乱が生じてしまっている」
少し伏せ目がちに話すシュナイゼルは、スッと目の前の少女に目線を戻した。
シュ「そこで、君にエリア11へ行ってほしい」
少女は少し驚いたように目を丸くさせた。
日本に行って私にどうしろと…
口には出さなかったが、少女の表情から読み取ったのか、シュナイゼルは続けた。
シュ「コーネリアやユフィに力を貸してやってほしいんだ
大丈夫。 君の部隊は私が指揮をする。 心配しなくても良い」
眉を潜めて俯くと、シュナイゼルは座っていた椅子から立ち上がり跪づいている少女に近づき、少女の頬に手を添えた。
シュナイゼルの微笑んだ表情を見た少女は、フッと目線を外した。
『…ずるいです。 私がブリタニアを嫌いなこと知っているくせに…』
シュ「だからだよ」
ブリタニアの軍人でありながら、ブリタニアに忠誠を誓っているわけではない。
だからこそ、ブリタニア人とイレブンが渦巻くエリア11に行ってほしいのだ。 人種差別のない、贔屓のない彼女だからこそ。
シュ「コーネリアの配下に付けとは言わない、君の判断で動いてくれれば良い」
そう言われた少女は困ったように微笑んだ。
普通言わないだろう
仮にも一軍人に好きに動いて良いなんて…
それほど信頼されているのか…。 それとも何かを企てているのか、疑いたくもなる
シュ「頼んだよシリル」
『イエス・ユア・ハイネス』
・
トウキョウ租界の上空を、甲高い音を響き渡らせながら飛ぶ一機のジェット機。
『日本…か』
そう呟いたシリルの頭には、ある人物が浮かんでいた。
数年前に生き別れになった兄と妹。 2人の行先はエリア11、つまり日本だった。
今頃、どうしているだろう…
ほんの少し、目頭が熱くなるのがわかった。
感傷に浸っているのも束の間。 地に足をつけたシリルの前方から、慌ただしく走る足音がした。
近づいてくる足音に顔を向けた途端、どっしりと何かに体当たりをくらったような衝撃があった。
実際は何者かに抱き着かれている状況だが。
ユ『シリル!!』
『ユっ、ユフィ!!?』
ユ『シリルがこちらへ来ると聞いて、いても立ってもいられなくて来てしまいましたv』
エリア11に来たシリルを出迎えてくれたのは、ピンクの長い髪が特徴の可愛らしいお姫様、ユーフェミアだった。
ニッコリとシリルから少し離れて笑うユーフェミアに、驚きを隠せないでいた。
エリア11に来る前に出迎えはいらないと、コーネリアに言っていたからだ。 コーネリアも渋ってはいたが、自分が出向くのが礼儀だと丁重に断った。
それには彼女も承諾をしてくれたが、問題はもう1人の姫君。
シリルがエリア11へ来ると聞いたら、必ず出迎えに来るに決まっている。 シリルが断ろうともそれを押し切ってくるだろう。
だから、敢えてユーフェミアには何も伝えなかった。 だが、どこから漏れたのか、しっかりとユーフェミアの耳に入っていた。
『…ありがとうユフィ』
小さな溜息をつき、笑顔でユーフェミアに返した。
叱りつけようかとも思ったが、こんなにも嬉しそうな顔をされては怒るに怒れない
それにわざわざ出迎えに来てくれたユフィの心遣いを無下にしたくない
素直にお礼を言うと、本当に嬉しそうに笑うピンクのお姫様。
ユーフェミアはここ数年、シリルに会えなかった分の穴埋めをするかのようにシリルにベッタリだった。
腕を組んで歩いていると不意に、ユフィが口を開いた。
ユ『あのシリル、この後お時間ありますか?』
恐る恐る伺うかのように聞いてくるユーフェミア。
コーネリアに会うのは夕方頃。 それまでは、まだかなりの時間がある。
ユ『じゃあ! 私に付き合って下さいな♪』
『? ユフィ?!』
ニコッと笑うユーフェミアに手を引かれて行った。
――
―――
『あの~…ユフィさん?』
ユーフェミアは静かにと言う意味で、自分の人差し指を口に当てた。
その仕草に、大きな溜息を出すシリル。
嫌な予感がする…;
今日はユーフェミアが学生でいられる最後の休日。 ということもあり、夕方まで付き合うことになったのだが…。
ユ『じゃぁ、行きますよ♪』
『行きますよ♪ って、ちょっ! ユフィ!!』
そう言うやいなやユーフェミアは、あろうことか窓から飛び降りてしまった。
さすがに焦ったシリルだが、重力の力には勝てず、シリルの伸ばした手がお姫様に届くことは無かった。
『ユフィ--!!!』
慌てて窓から下を覗くと、下にはユーフェミアともう1人、茶色の髪をした少年らしき人物がいた。
シリルは窓の縁に手をかけ、躊躇することなく窓を飛び越え、窓から飛び降りた。
下に着地したシリルは、すぐさまユーフェミアに駆け寄った。
その光景に周りの人もそこにいた少年も、シリルに目を向けていたということはどうでも良かった。
『ユフィ! 怪我は?』
ユ『大丈夫です、この方が受け止めて下さったから』
『…ったく、なんて無茶をするの! 今回はこの人がたまたま受け止めてくれたから良かったものの、もし怪我でもしていたらどうするつもりだったの!!』
ユ『……ごめんなさい』
俯くユーフェミアの頭を、ぽんぽんと撫でてやる。
『無事で何よりよ』
シリルの心配そうな笑顔に、ユーフェミアは泣きそうな顔でシリルに抱きついた。
自分のことを本気で心配してくれて、叱ってくれる唯一の人物。
だからユーフェミアは、シリルが大好きなのだ。
・そんな2人をぽかんと見ていた少年に気付いたのか、シリルは眉を下げ困ったような顔で微笑んで見せた。
『ありがとう、助けてくれて』
?「あ、いえ…僕も咄嗟でしたので……怪我が無くて良かった」
あれ…この人確か……スザク…枢木スザク…?
ユフィを助けてくれた少年に見覚えのあるシリル。
そう思ったのと同時に、ユーフェミアが疑問の声を上げた。
ユ『あら?』
スザクの顔を今初めて視界に入れたのか、その顔をまじまじと見た。 当然、スザクは頭に?を浮かべる。
少し考えるかのように視線を下げたユーフェミアに、シリルは嫌な予感がした。
『……ユフィ…;?』
ユ『あの! 私たち悪い人に追われていて…助けていただけますか?』
キョトン顔のスザクと、溜息を吐くシリル。
嫌な予感的中。
こういう時のユーフェミアが、唐突にとんでもないことをし出すことは、重々承知の上だ。
シリルは内心あきらめモード。
スザクもその話を鵜呑みにしたのか、一緒に来ることになった。
なんだか、彼を不敏に思う…
ユ『そういえば自己紹介がまだでしたね! 私は…』
ちらりとシリルの方を見たユーフェミアに、真剣な瞳を向けた。
こんなところで自分の身分を明かすほど、ユーフェミアもおとぼけさんではない。 シリルのその瞳の意味を理解しているユーフェミアは、少し間を開けて愛称だけを言った。
その後、シリルの紹介も名だけを教えた。
しかし、スザクが自分の自己紹介をしようとした時、それをユーフェミアは止めた。
ユ『だめですよ! あなたは有名人なんですから』
そう彼は枢木スザク一等兵。 日本最後の首相、枢木ゲンブの息子。
そして先日の事件であるクロヴィス殿下殺害疑惑をかけられた男。
これが彼の有名な理由。 もちろんユーフェミアやシリルも知っている。
スザクは2人に背を向けた。
ス「ウソなんでしょ? 悪い人に追われてるって」
ユ『にゃ~』
スザクが振り返るとさっきまでそこにいたユーフェミアの姿は無く、少し離れたところにいる野良猫とじゃれ合っていた。
ちらりとシリルの方を見るスザク。 その視線に気付いたのか、シリルも一瞬だけ視線を合せたが、すぐにユーフェミアに戻した。
『どうして、そう思うの?』
ス「全然追われている感じがしないから…
それに、シリルがいれば僕に助けを求める必要は無いだろ」
『……なぜ?』
ス「え? …だって、普通の女の子は、平気であんな高さから飛び降りたししないでしょ?」
クスクスと笑うスザクに、少し睨みを利かせる。
すべてお見通しというわけか……
ただの一等兵じゃないみたいだな
勘ぐるシリルに、スザクは初めの質問に戻った。
ス「どうしてウソを?」
『…さぁ。 本人に聞いてみたら?』
そう言って、シリルはユーフェミアの元に歩いて行った。
心なしかシリルはユーフェミアと違い、自分に冷たい感じがした。
会って間もないこともあり、仕方のないことだがユーフェミアが人懐っこいせいか、余計にそう思ってしまう。
スザクに見せようとユーフェミアは、野良猫を抱き上げて見せた。
目の周りのブチがとても愛嬌があり、可愛らしい。
スザクはサングラスを頭の上に掛け、嬉しそうに微笑んで、猫を撫でようと手を出した。
ス「う”っ…;」
ユ『あら』
『…プッ』
案の定、指を思いきり噛まれました。
繁華街は多くの人で賑わっていた。 その一角にある階段に、仲良く並んで座る3人。
先ほど猫に噛まれたスザクの手を手当てしているシリルは、何やら笑いを堪えているようだ。
『……はい…できたよっ』
ス「ありがとう……って、いつまで笑ってるのさ」
いつまでも笑いを堪えているシリルに、スザクはいいかげん口を開いた。 口元に手を当て、ごめんごめんと謝るシリルだが、全く悪びれた様子は無い。
『まさか仮にも軍人が、あんなにも無様に猫に噛まれるとは思わなかったから…』
ス「ム…」
いくら温和なスザクでも、これだけバカにされてはさすがにムッとする。
そんな2人の会話を知ってか知らずか、猫の手当てを終えたユーフェミアが会話に割って入った。
ユ『スザクさんは、猫苦手なんですか?』
ユーフェミアの質問にムッとしていた顔を緩め、シリルの向こう側にいる彼女に目を向けた。
ス「僕は好きなんですけど…」
シリルとユーフェミアの間にいる黒の野良猫に再び手を伸ばすが、かなりの剣幕で威嚇されてしまう。 手を引っ込めるスザクは、寂しがり屋の小犬みたいな顔をした。
ス「片想いばかりで…」
ユ『片想いって、優しい人がするんですよ!』
手当てをしてもらった猫は、ぴょんぴょんと階段を降り、その場から去って行ってしまった。
少し残念そうに見つめるユーフェミアに、スザクが先ほどの質問をした。
ス「ユフィ、さっきはどうしてあんなウソを?」
ユ『私のコト気になりますか?』
問いを問いで返されたスザクは少し戸惑った。
シリルもユーフェミアの方を見ると、何やら嬉しそうな表情だった。
・
ユ『じゃあ、もう少し私に付き合って下さいな♪』
ニッコリと微笑んだユーフェミアはスザクの腕を引き、嬉しそうに歩いて行った。
シリルも、ユーフェミアに呼ばれ、早く行こうと促す。 溜息を一つつくシリルだが、その表情は笑みを浮かべていた。
――
―――
トウキョウ租界を見て回り、観光気分を満喫した。
ちょうど小腹が空いてきた頃、ゆらゆらと風に乗りいい匂いが鼻先を掠(カス)めていった。
ユ『わぁ~…。 スザクさん、これは何ですか?』
街角にある出店に、ユーフェミアは駆け寄った。
そこでは、丸い鉄板の上にクリーム色の生地状のものを垂らし、棒のようなもので薄く伸ばしていくと丸くて薄い物が出来あがっていた。 なんともいい匂いだ。
ス「これは”クレープ”って言うんだ
あの生地の上に、生クリームやフルーツを乗せて巻いて食べるんだよ」
ユ『へぇ~』
ユーフェミアにとって、初めての食べ物。
興味津々な彼女に、食べてみるかい? と聞いてみる。
すると、目を輝かせてコクコクと首を縦に振っている姿は、まるで小さい子供のようだ。
クレープを3つ注文し、がさごそと財布を探すスザク。
『これで』
ス「えっ! シリル…あっ、待って! 僕が」
シリルが店員にお金を払うと、スザクは自分が出すから! と慌てて財布を探すが、中々見つかってくれない。
そんなスザクを、目を細めて見ていたシリルは小さく溜息を吐いた。
『別にいいよ』
ス「いやっ、でも僕の分まで」
話をしながら会計をしたシリルは、クレープを作っている工程に釘付けになっているユーフェミアに目を向けた。
『ユフィが…楽しそうだから』
ス「え…?」
『あなたのおかげで…
だから気にしなくていい』
ユフィに向けたシリルの瞳はとても柔らかで、優しいものだった
彼女にだけ向けるその表情に、僕は不覚にも見惚れてしまっていた
そんなスザクを現実に引き戻したのはユーフェミアだった。
ハッと我に返ったスザクの目の前には、両手にクレープを持ち1つを自分に差し出しているユーフェミアの姿。 シリルはというと、我先にといわんばかりにクレープを頬張っていた。
出会った時と同じような、クールなシリルだった。
それからスザクとユーフェミアは、いろんな事を話ながら街を見て回った。
ユ『スザクさん、もう一ヶ所だけ案内していただけますか?』
ス「何なりとお申し付けください お姫様」
かなりユーフェミアと打ち解けたスザクは、彼女の前に出て、持っていた自分の荷物をその場に落とすと、まるで姫をエスコートするナイトみたいに畏(カシコ)まった。
そんなスザクにユーフェミアは、真剣な面持ちで言った。
ユ『では、私にシンジュクを見せて下さい。 枢木スザクさん』
ス「え!」
『…』
当然スザクは驚きの声を上げた。
そこはまだ生々しい記憶の残る地。 まだ、危険なその地に行きたいと言い出したのだ。
ユーフェミアの真意を察したシリルは、敢えて何も口に出すことはしなかった。
・END・
08.5.31
16/2/1(修正)