貴方と私の生きる道 (調整中)
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『バルバットへ…ですか?』
お茶の誘いを受けたフィアは、ティーカップを持ったまま驚きの声を上げていた。
向かいに座っている煌帝国・第八皇女、練 紅玉。
明日、バルバット王と結婚するべく、煌帝国を立つのだという。
バルバットは、南海の貿易の要。 煌帝国が西方へ進出するための、重要な拠点となる国だ。
つまりは、本人達の意志など関係なしの政略結婚ということだ。
だが、紅玉の瞳はらんらんと輝いていた。
婚姻の儀まで、相手と会ってはいけないという仕来りがある。 まだ見ぬ結婚相手に思いを馳(ハ)せているのだろう。
玉『バルバット王って、どんな人かしらぁ
素敵な人だったらいいなぁ~』
『…そうですね』
ずず…、とお茶を口に含む。
今のバルバット王って、確か……
背が低く、豚みたいな容姿…だったような…;
とは、死んでも口にはできない。
玉『でも、そうなると
こうやって、フィアとのんびりお茶も飲めなくなるわねぇ』
『それは、寂しくなりますね』
本当にしょんぼりしてくれる紅玉。 それが内心、嬉しく思う。
一介(イッカイ)の従者である自分と、こうして雑談相手に選んでくれるのだから。
だが、それは逆とも言える。
紅玉は母が遊女であるが故に、他の皇女達と比べて、肩身が狭かった。 周りの女官や武官達からの扱いも微妙だった。
しかし、フィアだけは違った。
彼女は、皇女として接してくれた。
そして、紅玉の”友達になってほしい”という願いも、できる範囲で叶えてくれたのだ。
こうして一緒のテーブルに座り、お茶を楽しむなど、フィア以外してはくれなかった事だ。
だから、煌帝国を離れることも寂しく思えた。
玉『そうだわ、フィア!
この後、じかんあるかしらぁ?』
『この後ですか?
今日は、特に何もありませんが…』
玉『城下町へ行きましょう!』
『町へ…ですか?
しかしそれは、許可がなければ…』
夏「そうであります。 姫様
それに危険だし、目立ち過ぎます。 遊びに行くのなら許可など下りないでしょう」
玉『お忍びで行くのよ! 少しの間なら、大丈夫よぉ~
それに、フィアが一緒なら危なくないわよ。 ね、フィア』
『…そうですね』
夏「おい貴様! 賛同するんじゃない!
姫様を危険に晒すわけにはいきません」
ジュ「おもしろそーだな
俺も行くぜ!」
玉『ジュダルちゃん!?』
『…神官殿……なぜここに?
(っていうか、どこから湧いてきたんだ…)』
にょきっと、何の前触れもなくフィアの背後から顔を出したジュダル。
神出鬼没の神官に驚くのは、純粋な姫様と下心を持つ従者だけ。 慣れているフィアは、呆れ顔。
ジュ「俺も一緒にバルバットへ行くからな」
『へぇ~』
ジュ「寂しいなら、添い寝でもしてやるぜ?」
『陣中見舞いに、その煩(ワズラ)わしい髪を剃って差し上げますよ! 神官殿』
ジュ「……つれねぇな~」
こいつの冗談は、冗談に聞こえない
本当にやりかねないから、油断ならない
夏「とにかくダメです!」
玉『いいじゃないのよぉ
最後に、フィアと遊びたいわ』
『紅玉様…』
夏「フィア! 貴様も止める立場であろう!
主を危険に晒すとは、従者として失格だ!」
『主の命令も柔軟に聞けない従者も、どうかと思いますが?』
夏「なんだと!」
『危険から主を守るのも、我らの役目でしょう?』
夏「時と場合によるだろう!」
『そうカッカする程の事でもないでしょう? 夏黄文殿
目の下の隈が濃くなりますよ?
あ、顔全体にありましたね』
夏「隈じゃない! 何度言えばわかるんだ!
これは、シャレだ! シャレ!!」
と、夏黄文の言い分を無視し、町へ行くことになった。
『行くのは良いのですが、紅玉様』
玉『どおしたのよぉ?』
『私が同行するとなると、一度白龍様に許可を戴かなくてはいけません
お忍びなら、尚のこと』
玉『そうねぇ
じゃ、白龍ちゃんに許可をもらいに行きましょう』
らんらんと音符を飛ばしながら歩いていく紅玉。 その後ろについて行くフィア。
さらに後ろでは、夏黄文が何やら葛藤をしている模様。
・
コンコン。
玉『白龍ちゃ~ん、入るわよぉ』
龍「義姉上!?」
読書をしていた白龍は、珍しい来訪者にかなり吃驚していた。
玉『これから町に降りるから、ちょっとの間フィアを貸してもらえないかしら?』
龍「町へ?」
突拍子もない申し出に、更に驚く白龍。
しかし、紅玉が訳を話すと、白龍も最後ということで許可を出した。
『ありがとうございます。 白龍様!』
ジュ「フィアも行けることになったのか?」
『わっ!』
玉『そぉよ』
フィアの後ろから、抱き付きながら顔を出したジュダル。
彼の登場により、思いもよらぬ展開になった。
龍「…もしかして、神官殿も同行されるのですか?」
ジュ「そうだぜ! なぁ、フィア」
『ぁ…あの…白龍様』
龍「俺も行く」
『……え?』
――
―――
―――――
城下町。
目立たぬようにと、庶民の服装(ジュダル以外)で歩く一行。
玉『でも、まさか白龍ちゃんまでついてくるなんてね』
ジュ「珍しいこともあるもんだな、白龍」
龍「…」
ムスッとした顔で後をついていく白龍。 その一歩後ろを歩くフィアは、どきどきものだ。
ま、まさか白龍様が一緒に行くというなんて…
ジュダルだ
絶対、あいつのせいだ
あぁ……白龍様、怒ってらっしゃるのかな…;
斜め後ろでどんよりしていると、白龍に腕を引かれた。
『白龍…様?』
龍「普通に横を歩けばいいだろう」
『いえ、それは…』
龍「悟られぬように変装までしているんだ
これでは、不自然だろう?」
『で…ですが;』
いくらお忍びでも、主君の隣を歩くなど、烏滸(オコ)がましいにも程がある。
困っていると、紅玉からのお助け舟が。
玉『白龍ちゃんの隣がダメなら、私と歩きなさい!』
と、笑顔で腕を引かれ、先頭へと連れていかれた。
『紅玉様』
玉『私とは”友達”なんだから、一緒に歩くのに問題はないわよぉ』
嬉しそうに腕を絡ませ、歩いて行く。 その表情にフィアも笑みを浮かべた。
置いてけぼりの野郎共は、微妙な空気に包まれることとなった。
町には、至る所に露店が並んでいた。 祭りでもやっているのかと思うほどに。
その中で、紅玉が最初に選んだ店は…。
玉『私、あれがやりたいわぁ』
『…占い…ですか』
後ろの3人に伝え、胡散臭そうな占い師に声をかけた。
ここの占いは、水瓶(ミズガメ)に顔を映した者の運命の相手を水面に映し出すというものらしい。
占「順番に何人か映りますが、最後に映ったのが運命の相手となります」
ジュ「やるのかよババア。 くだらねぇ~」
玉『いいじゃないっ!!
本当に結婚しなくてはならない人のお顔は、どうせもうすぐわかってしまうのだから……
せめてそれまでは、好きに想像していたいわ』
黄「姫君……」
ジュ「かわいいとこあんなぁ、ババア~」
玉『ババアじゃないっ! まだ17歳よ!!』
『神官殿、紅玉様に失礼ですよ』
ジュダルのいつもの紅玉いびりが終わったところで、占い師は水瓶に手をかざし、占いを始めた。
期待を胸に、紅玉も水面に映った自分の顔を見た。
すると水面がゆらりと波打つと、水面に映った紅玉の顔が変わり始めた。
頭に角が立った人。 長髪で丸いイヤリングをした人。 どこかの従者に似たような人。
皆が驚く中、次に移った人相。
はっきりとした映像ではないため、”誰”とは判別できないが、確実にわかることが一つある。
それは、豚に似ている。 ということだ。
玉『………次は?』
占「終わりです」
玉『次の運命の人は?』
占「これが、あなたの運命の人です」
玉『……』
ジュ「くっ…」
大爆笑する神官に、発狂する皇女。 それを宥めようとする従者の傍ら、フィアは思った。
今の人相
まさしく、バルバット国王の顔にそっくりだ…
まぁ…これは、あくまで占い
絶対ではない
発狂している紅玉にそう伝えると、一先ず落ち着いてくれた。
・
元気を取り戻したお姫様は何を思ったのか、フィアにもやるよう勧めてきた。
『いえ。 私は運命の相手など興味はありませんし…』
玉『フィアは興味なくても、私が興味あるのよぉ』
ジュ「フィアなら、俺も興味あるな~」
玉『なによ。 私の運命の相手は興味ないっていうのぉ~?』
ジュ「だって、ブタじゃねーか」
玉『キィーーー!!』
紅玉で遊ぶジュダルに、呆れた顔をしたフィアは、ずっと黙って見ているだけだった白龍に視線を向けた。
龍「いいんじゃないか。 ただの遊びだ
それに……俺も、少し気になる」
『…白龍様が、そうおっしゃるのなら…』
周りが騒がしかったが、最後の独り言のような台詞は、はっきりとフィアの耳に届いていた。
今までにない不意打ちに、顔を俯けたフィアは、占いをするため白龍に背を向けた。
…やっぱり
白龍様ったら、天然のタラシだわ
恥ずかしげもなく、さらっと言ってしまうなんて
親は違えど、血は争えない。 ということだろうか
どこかの赤髪の皇子達もそうだった…
なんてことを思いながら、占い師に紙幣を渡す。
水瓶に顔を映すと、紅玉同様、水面が揺れ出した。 もやもやとしたシルエットは、何やら見覚えのある人物もいたようだが、次々に変わっていくので気にもしない。
ジュ「おっ! これ俺じゃねーか!?」
玉『でもぉ、フィアの運命の相手じゃないみたいよぉ?』
ジュ「…」
ジュダルが歓喜を上げた時には、ゆらゆらとジュダルらしきシルエットは形を崩していた。
占「次が運命の相手ね」
全員「……」
何故だか本人よりもギャラリーの方が喰い付いていた。
フィアの背後から、食い入るように水面に注目する。
ゆらゆらと次第に形を形成していくシルエット。 皆の期待が最高潮に高まったその時。
『っ!!?』
突然フィアが立ち上がった。
水面に映していた顔が無くなったため、映っていた運命の相手のシルエットは、瞬く間に崩れていき、ただの水面に戻ってしまった。
ジュ「何やってんだよフィア」
玉『もう少しでフィアの運命の相手がわかったのにぃ』
『申しわけありません
足元にムカデが這っていたので、びっくりして…』
黄「虫なんぞに脅かされるなど、気が緩んでいるんじゃないか」
結局、再度占いはしなかったため、運命の相手はわからずしまいになった。
町を堪能し、満足した紅玉と共に、一行は城へと戻っていった。
―――
――
少し涼しくなった夜風が吹く中、淡く灯る明かりが並ぶ廊下に白龍とフィアの姿があった。
部屋へと向かう白龍の一歩後ろを歩いて行く。
すると、静かに白龍の声が響く。
龍「フィア」
『はい』
龍「あの占いの時、何故立ち上がったんだ?」
『足元にムカデが』
龍「フィア」
立ち止まり、こちらに振り返る白龍。
その表情は、自分の言葉が偽りであると見抜いているものだった。
龍「お前は、いつからムカデなんかに驚くようになったんだ?」
『そ…それは』
龍「水面に映った最後の人物。 誰かわかったから、立ち上がったんじゃないか?
皆に知られないように」
『…』
図星をつかれたフィアは、顔を俯かせた。
いつものフィアなら、決して白龍に悟られぬよう上手く流すのだが、今回は虚言を見抜かれ真意を当てられた。
生真面目なフィアには、これ以上、主に嘘をつくことはできないのだ。
少々焦るフィアを知ってか知らずか、さらに追い打ちをかける白龍。
ゆっくりフィアとの距離を縮めると、白龍はフィアの顔の横の壁を叩いた。
びっくりしたフィアは、思わず顔を上げてしまう。 瞳に映った白龍は、思ったよりも近かった。
龍「あれは、紅炎殿じゃないのか?」
『…え?』
思いもよらない人物の名前が出てきたので、一瞬止まってしまった。
紅炎…様……?
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていると、反応のない従者に、怪訝そうな顔をぐっと近寄せた。
我に返ったフィアは、咄嗟(トッサ)に要らぬことを口にしてしまった。
『あれは、紅炎様ではなくっ…!』
龍「…」
『…』
龍「なく…なんだ?」
あぁ…私のバカ……;
口元を手で押さえ、後悔の念に苛(サイナ)まれる。
・
紅炎様ではないことを肯定しただけではなく、あのシルエットが誰か知っていることまで…
言うべきだろうか……
でも、言っても良いことだろうか
いくら占いだとしても…
何か閃いたフィアは、口元を押さえていた手をおろした。
『白龍様は、私の運命の相手がそんなにも気になりますか?』
龍「気になる」
『(わぁ~、即答…;)』
ふーっと一度、息を吐いた。
柔らかい表情で、白龍の視線と自分の視線を合わせた。
『白龍様、これはただの占いです
こんなもので本当に運命の相手が決まってしまうのであれば、人を愛するという感情は不要となってしまいます
信じないわけではありませんが、そういう未来の選択もあるのだと知り得るのが占いであって、必ずしも、その相手と結ばれるということではないと思います』
にっこりと微笑んだフィアに、何と返そうか悩む白龍。
なんだか、上手く丸め込まれたようでスッキリしない。
『さ、行きますよ。 白龍様』
白龍の壁ドンをいとも簡単にすり抜けたフィアは、何事もなかったように白龍に笑いかけた。
龍「…はぁ」
何気についたそのため息の意味を、知らないまま、フィアと共に部屋へと戻って行った。
・END・
おまけ↓
龍「…で、結局あれは誰だったんだ?」
『それは、乙女のヒミツですよ♪』
龍「……」
あれは、紅炎様ではなく…
一歩前を歩く主の後姿を見て、微笑んだ。
15/9/23