神に見放された土地・マテール

人の寄りつかない街





綺麗な歌声


でも　悲しい歌





第６夜
　【切ない・・・ね】






「（ど、どうしよう…迷った）」




神田たちの元へ急いでいるはずのアレンとユイは、狭い通路を四つん馬で進んでいた。　蜘蛛の巣まみれのアレンを先頭に、突き進んでいるはずなのだが…。




『お～い、何止まってんだ？　アレン。　早くユウたちと合流しなきゃいけねぇんだぞ

…てか、この道あってんのか？』

「…ユイ、お尻叩かないで下さい…；
（女の子なんですから…）」




馬をあやすように、アレンのお尻を叩くユイ。　セクハラにも見える行為だが、まんざらアレンも嫌ではなさそうだ。




『もしかして…迷ったのか？』

「…」

『図星か』

「だって！　ここ迷路みたいなんですよ～！」




案の定、道に迷ったアレン。　困りに困ったアレンは、今にも泣きそうだ。




やはり、アレンに任せたのは間違いだったか…
黒の教団へ行くにも、真逆の汽車に乗ってたしな




しまったと、今頃気づくユイだった。
こんな時にティムキャンピーがいてくれたらなぁ…などと、神頼みではなくゴーレム頼みになっているアレン。　残念なことに、ティムキャンピーはトマと共に神田の元にいる。

引き返そうかと思っていた時だった。　ちょうど、アレンの横の壁がモコッと盛り上がった。　次の瞬間、勢いよく何かが飛び出して来た。
一瞬の出来事にアレンは避けられず、出て来た物体をもろ顔面にくらっていた。　そりゃあもう、めり込むぐらいの勢いで。

尻尾と羽根をパタパタと苦しそうにしている物体(アレンも苦しそう)の尻尾を掴み、アレンの顔から引っ張り出した。




『ティム！！』




神田の所にいるはずのティムキャンピーだった。
どうやらティムキャンピーには、主の居場所を察知する機能が付いているらしい。




アレンより頭いいかも…




ティムキャンピーに感心しているのか、アレンを貶(ｹﾅ)しているのか、そんな事をつい思ってしまった。




「と、とにかく！　ティムキャンピー、神田たちの元に案内してください」




了解したかのように羽根を羽ばたかせて、アレンの前を飛んで行った。








その頃
神田達の前には、アレンの姿があった。　だが、何か様子がおかしい。

よく見てみると、顔の傷や団服のデザインが左右逆になっている。
レベル２のアクマの能力は、写し鏡のように相手の姿形を写し取ること。




「どうやら、とんだ馬鹿のようだな」




アクマの能力を知っていた神田は、目の前にいるアレンがアクマだと即座に判断した。　そして、六幻でアクマに斬りかかる。

しかし神田の攻撃は、大きな壁によって防がれてしまう。　当然、驚いた神田は防いだ壁を凝視した。
横の狭い穴からは、別行動していたアレンとユイの姿があった。
どうやら、神田の攻撃を防いだのは壁ではなく、アレンのイノセンスだったようだ。

今の衝撃でアレンモドキ(？)が倒れた。




『！？』

「キミは…？」




倒れたアレンモドキ(？)に寄り添う２人。　それを目の当たりにした神田から、かなりの檄が飛んだ。




「モヤシ！！」

「神田…」

「どういうつもりだテメェ…！！　なんでアクマを庇いやがった！！！」




すごい剣幕で怒鳴る神田。　怒るのも無理はない。　エクソシストがアクマを守ったのだから。
その神田の怒りに少し怯むアレンだが、ここで食い下がってしまえば、余計な争いが生じてしまう。




「神田、僕にはアクマを見分けられる”目”があるんです
この人はアクマじゃない！」

「…ウォーカ……殿」




確かにそう聞こえた。
ユイはアレンモドキ(？)を見た。




『（顔に…切れ目……！？）』




不審に思ったユイは、その切れ目に指を入れ、一気にはぎ取った。




『トマ！！？』




中から出て来たのは、今神田の後ろにいるはずの、ファインダーのトマだった。
瞬間、アレンの左目が反応した。




「そっちのトマがアクマだ、神田！！！」




アレンの叫びも虚しく、アクマの拳は無警戒な神田に直撃した。　そのまま壁を突き破り、アクマに締め上げられる。

アクマは神田と合流した時には、すでに入れ替わっていた。
トマの格好なら写して左右逆になっていても、まず気付かれない。　そして本物のトマに、アレンの姿を被せていた。
レベル２に進化しただけあり、自分の能力の弱点を知り、逆にそれを利用したのだ。

アクマは、アレンから盗んだ対アクマ武器で神田をひと思いに切り裂いた。
しかし、死んでもおかしくないほどの傷を受けたはずの神田は、倒れる事なく立っていた。




「俺は…あの人を見つけるまで、死ぬワケにはいかねェんだよ…」


それに、俺には‥あいつを…

あいつを守る義務が…




神田はそのまま意識を手放した。

高笑いするアクマの後ろから、アレンの怒声が響き渡った。




「お前ええぇえぇええ！！！」




アレンの一撃により、アクマの上半身は下半身から引き千切られ、壁に叩きつけられた。




『ユウ！！　わっ』




神田の安否を心配し、駆け寄るユイ。
肩に触れると神田が倒れかかって来た。　当然、支えきれるはずもなく、そのまま尻もちをつく。




「ユイ！　神田は！？」

『大丈夫、ちゃんと生きてる！』




暫くして這い出てきたアクマの目の前には、エクソシストの姿は無かった。　すでに場所を移動した後だった。








――
―――
―――――




『アレン、とにかくどこか手当てできる場所を探さねぇと』

「でも、ここがどこなのか全く見当もつきませんよ」




神田とトマを担ぎながら、全く地理のわからないマテールをさ迷う２人。



どこか手当てできる場所
早くしないとユウが…



その時、２人の耳に微かだが、風に乗って何かが聞こえてきた。




『…アレン、何か‥聞こえる』

「ええ…これは…歌？」




２人は顔を見合せた。
人がいるはずもないこのマテールで、歌が聴こえるなどあり得ない。

ひとまず負傷した２人を連れて、歌の聴こえる方へと歩いて行った。




なんて悲しそうに歌うんだろう
まるで泣いているみたいだ…



『なんか…切ない‥ね』

「えっ…」




それ以上は、何故かアレンも俺も何も言わなかった。
お互い、この歌を聴いて想うところがあったのかもしれない。






しばらく歩いていると、徐々に歌がはっきりと聞こえるようになった。


それは
ひどく美しい旋律の、造花の子守歌。


広場の真ん中には、ララとグゾルの２つの影があった。




「グゾル、どうして自分が人形だなんてウソついたの？」

「私はとても…醜い人間だよ‥ララを他人(ひと)に壊されたくなかった
ララ…ずっと側にいてくれ
そして私が死ぬ時、私の手でお前を壊させてくれ…！！」

「あ…ごめんなさい。　立ち聞きするつもりはなかったんですけど…」

『（…アホ）』




こちらに気付いたララは、ばっと振り向いた。
慌てるアレンと、呆れるユイ。

２人を見るやいなやララの目つきが変わり、近くにあった柱に指をめり込ませ持ち上げた。
さすが人形…でもララって快楽人形じゃなかったのだろうか？


話を一向に聞こうとしないララに、少々手荒だがアレンは対アクマ武器で、ララが投げた柱を掴み止め投げ返した。　ブーメランのように回転しながら、周りにある柱を破壊した。




「もう投げる物は無いですよ
お願いです。　何か事情があるなら教えてください。　可愛いコ相手に戦えませんよ」




キザな台詞を吐くアレンの下から、ひょこっと顔を出したユイ。
ララと同じ目線でしゃがみ込んだ。




『やっぱり。　ララが人形だったんだな』

「ユイ…気付いてたの？」

『なんとなく』




大人しくなったララは、自分たちの生い立ちを話し出した。
グゾルと出会ってからの８０年間を…。







・ＥＮＤ・
†あとがき†
ヒロインがセクハラオヤジに…(ｷｬｯｖ
でも、まんざらでもないアレン
むしろ触られて嬉しかったりして？



次でマテール編最後(にしたいι)の予定です！


それでは、失礼します