選挙・アルカ編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カシスの意識が戻った
嬉しいはずなのに
あんなに 声が聞きたかったのに…
足が 前に進まねェ…
前を行くイカルゴは、足早に歩いていた。
その後姿を見つめるキルア。
…イカルゴ
そんなに…急がなくても いいぜ
まだ
心の準備が できてねェから…
エレベーターの前に着いたイカルゴは、すぐさま上のボタンを押した。
ふと、後ろを振り向くと、いるはずのキルアの姿は思った以上に自分から離れていた。
その歩みは、目を覚ました大切な人の元へ急いでいるとは思えない程、重い足取りだった。
驚いたイカルゴだが、急かすことはしなかった。 黙ったまま、キルアが来るまで待った。
それは、俯くキルアの表情が余りにも浮かないものだったから。
一刻も早く駆け付けたいはずなのに、キルアの中の何かが、それを邪魔しているかのように。
ゆっくりとした足取りでエレベーター前に着いたキルア。
すでに扉が開いていたエレベーターに、イカルゴは漸く乗り込んだ。 続けて、キルアもエレベーターに足を進める。
初めてだ…
アイツに会うのが 怖いなんて……
・
ゆっくりと開いた目は、酷く久しく思えた。
見覚えのない白い天井と、心配の表情をしたキメラアントが目に映った。
「カシスちゃん!!」
『………パー…ム…?』
姿は変わっているが、パームだとわかった。
そして、自分が病院のベットの上にいる事も理解できた。
あれから、どれくらい経ったのだろうか。
起き上がったカシスは、意識を失っている間の出来事をパームに説明してもらった。
キメラアントとの闘いの終結。
ネテロ会長の死。
自分の中にあった王の卵。
それを、キルアが取り除いてくれた事。
「…大丈夫?」
『うん。 大丈夫だよ、パーム』
微笑むカシスは、いつもの彼女だった。
もっと
辛そうにしてくれたら、いっそ声をかけやすいのに
思うパームも笑顔を返した。
辛くないわけない
王の卵が体内にあった。 という事は、王にそういう行為をされたって事
自分が望まないその行為は、恐怖と嫌悪でしかないのに…
そんな事を微塵も感じさせないカシスに、パームは先ほどのキルアを重ねていた。
本当に、似た者同士なんだから…
「今、イカルゴがキルアを呼びに行ってるから
もうすぐ来ると思うわ」
『うん…』
キルアの名前を聞いた瞬間、心臓に針を刺された様な痛みを感じた。
足の上にある手に少し力が入る。
キルアが卵を取り除いたって事は、キルアも知ってるって事…だよね
私が…王に、何をされたか……
あの時の光景が、頭にちらつく。
それが、カシスの心を酷く掻き乱す。
キルアは
どう思ったんだろう?
汚された 私を…
一線を引く?
壁をつくる?
距離を置く?
嫌いに…なる…?
きゅっと唇を噛みしめ、少し眉を下げた。
…キルアに会うのが
怖いな……
そんな思いとは裏腹に、病室の扉が開いた。
先にイカルゴが入ってきて、それに続いてキルアの姿も見えた。
・
「カシス」
『…キルア』
キルアに向けるカシスの表情は、いつも通りの変わらないものだった。
それにキルアも少し安心したのか、目尻が和らいだ。
「じゃあ
私は先生に呼ばれているから。 行くわね」
『うん』
そう言うパームにつられ、イカルゴも病室を出て行った。 気を使ってくれたのだろう。
一瞬静まり返った病室内。
「……体、平気か?」
『うん。 平気』
「…キメラアントの事は?」
『さっき、パームから聞いた
ネテロ会長のことも…』
「…そっか」
お互い、いつも通りのはずなのに、どこか違う。 そんな空気を感じつつ、気付かないフリをする。
手元に視線を落した。
嫌な鼓動に、緊張が増す。
キルアは どう思ってるんだろう…
そればかりが気になって仕方がない。
王宮に潜入する前は、キルアの心はカシスの心に寄り添っていた。
しかし、今はまるで状況が違う。
あの時には、戻れない。
もし、キルアが距離を取るのであれば
きっと
もう、隣には…いられない
会話が続かない現状に、余計な事を考えてしまう。
『…ありがとね』
「…?」
『王宮から、助け出してくれたって』
「そんなこと…」
『…私の中にあった卵を取り除いてくれたのも、キルアだっ…て……』
俯き、自分のお腹を右手で摩(サス)った。
その姿に、握った拳に力が籠る。 歯を食いしばり、カシスから視線を逸らした。
何も出来なかった自分が腹立たしい。
『…ねぇ、キルア
ぎゅってして』
思いがけない言葉に目を丸くしたキルアは、逸らしていた視線を再びカシスに向けた。
そこには両腕を広げて、キルアに抱擁を求めているカシスがいた。
「…っ」
いつものキルアなら、現状を理解し、思考を巡らせ、すぐに行動に移すことができる。
しかし、それが出来ないでいるのは
目に映ったカシスが
とても儚くて、綺麗だったから。
今の自分が、彼女に触れても良いのか。
触れたら、消えてしまうんじゃないか。
そんな想いが、キルアの行動を抑制してしまった。
一瞬、躊躇したキルアに気付かないわけもなく。
……あぁ…やっぱり
キルアが、どう思っているのか。
その一瞬の戸惑いで理解してしまった。
心臓を 抉(エグ)られたような感覚
これは 前にも感じた
あの時の…感覚
違う……それ以上に
裏切られた愛情
だから 嫌だった
気付かなければ よかった
こんな想い…
返答の無いキルアに、いつもの笑顔を張り付けて笑った。
『なんてね! 冗談、じょうだん…』
言いながら、広げた腕を下ろした。
思いの他、上手く笑顔を張り付けられた自分に嫌気がさす。
やばい……泣きそう…
・
そう思った時だった。
ぎゅっと、優しく何かに包まれた。
……ぇ?
それがキルアだと気付くのに、時間はかからなかった。
「他には?
オレに、してほしいこと」
カシスにも予想外の行動。
耳元で囁くキルアに動揺した。
この行動の意味は?
上手く働いてくれない頭で必死に考えるも、どれも疑うものばかり。
キルアは 優しいから
安易に突き放すことはしない
だから これは
キルアなりの 最大限の優しさ
けど
その優しさは 今の私にとって
とても 残酷なもの
滲み出てくる涙が瞳に溢れてくる。
縋りつくように、キルアの服を握りしめた。
………いやだ
距離を置かないで
離れていかないで
置いていかないで…
『…キライに…ならないでぇ』
涙を堪えた、震えた声。
その声に、キルアは唇を嚙み締めた。
オレは…バカだ
なぜ、戸惑ってしまったのか
なぜすぐに、抱きしめてやれなかったのか
その一瞬の行動で、カシスの心を、これほどまで傷つけてしまう事になるなんて
自分の行動に、酷く後悔した。
カシスを抱きしめる腕を、一層強くする。
「…っかやろう
嫌いになんか、ならねぇよ
オレは……」
――――
―――
「助けてやったかわりに、ちょっと聞きたい事あるんだけどさ」
『恩着せがましいわね
それに、助けてくれなんて、一言も言ってないんだけど』
―――
―――――
あの時から…きっと…
「お前の事が、好きだから!
頼まれたって、キライになんか‥なれねぇよ…」
耳を疑った。
目を丸くして、聞き間違いではないか。
そんな事を考える余裕は無かった。
キルアは
嘘でも、そんな事は言わない
仲間としてじゃなく
友達としてでもなく
想いを寄せる 特別な人(ひと)にだけ告げる言葉
『っ…』
涙で溢れていたカシスの瞳からは、大粒の涙が次から次へと頬を伝い、キルアの肩に落ちていった。
溢れ出してしまった涙も想いも、堪えることは出来ず、とめどなく溢れてきてしまう。
『…ぅ……ぁぁああああ』
不安と安堵。
恐怖と喜び。
色んな感情が渦を巻いて
どうにもならなくなった。
声を上げて泣くカシスに、キルアの頬にも一筋の涙が伝った。
そして、それは
病室の外にいたパームとイカルゴに、安心と微笑みを与えた。
・END・
23/3/5
◇お互いの本当の気持ちが、強く強く交差して…最後に寄り添えることが出来ました。
キルアの告白が、めちゃくちゃカッコイイ!
UPする前に何度も読み返して、修正して。
その度に、胸を締め付けられる思いで…(´;ω;`)
この思いを、少しでも共有して頂けたのなら幸いです。 感想など頂けたら嬉しいです。
おまけ↓
顔を見合わせ微笑み合うパームとイカルゴの元へ、ナックルとメレオロンがタイミングよく来ていた。
「カシスちゃんの意識が戻ったって聞いたからよ」
「今はダメよ。 後にして」
「はぁ? 何でテメェに、んな事言われなきゃならねェんだ」
パームを無視して通り過ぎようとするナックル。
しかし、それを阻むパームとイカルゴ。
「おい。 喧嘩売ってんのか?」
「そう言うわけじゃねぇんだけど…とにかく今は立入禁止だ」
「…」
「だから、何でっ…」
ナックルの耳にも、その声は小さく聞こえた。
それに気付いたパームは、敢えて口にする。
「今、カシスちゃんに必要なのはキルアよ」
あなたじゃない。 そう言われているようで。
俯くナックルは、背を向け、その場を立ち去った。 その肩にメレオロンは、ポンっと手を置いた。
何も言わずに。 何も聞かずに…。
・おわり・
◇ナックルは、いい奴だ…。