キメラアント編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何…だ?
体が…
思うように 動かねェ
起き上がろうにも、手足はおろか、体全体に全く力が入らない。
キルアの体は、そのまま地面へと突っ伏した。
そこで気付いた、生温かい液体。
うわ…マジで…
これ全部 オレの血かよ
何か
風呂入ってるみてーに あったけ…
いや
そんな事 考えてる場合じゃねェよ
行かなきゃ……
そう思っているのに、体は言う事を聞かない。
目はぼやけ、息をするのも精一杯。
血を流し過ぎたせいで体温が下がり、寒気から体が震え出す。
だめだ…動けねェ…
オレ ここで死ぬのか…?
死に直面しようとしているキルアの目に、ある人物が映り込んだ。
……カシス
自分の瞳に映り込んだカシスは、酷く動揺したような表情だった。
すぐに駆け寄ってきたものの、何を言っているのか、キルアには何も聞こえてこない。
名前を呼びたくても、声が出ない。
手を伸ばしたくても、動かない。
本当に 死ぬのか…?
カシスに…何も 伝えられないまま
待ってくれ…
少しでいいから…あいつに 伝えたいことが…あるんだ
カシスに…
オレは…お前が……
薄れゆく意識に負けじと、瞼に力を入れるが、それに抗うことは困難で。
いくら待ってくれと懇願しても、それを叶えてくれることはなく。
無情にも、キルアの意識は途切れていった。
・
赤い血溜まり。
微動だにしない、見慣れた人物。
綺麗な銀色の髪は、所々赤く染まっている。
状況を把握するのに時間はかからなかった。
だけど、理解するまでのほんの数秒が、私には途轍(トテツ)もなく長い時間に思えた。
理解したくない頭と、まるで氷漬けになったような身体。
「俺が殺ってやったさ!
あれは滑稽だったなァ! お前にも見せてやりたかったぜ
あのガキの、泣き叫ぶ様をよォ、ぶがァっ!!」
キャンキャン騒ぐキメラアントの頭を、思い切り蹴飛ばした。 並んでいた女の頭とぶつかり、一緒に壁へ激突した。 そのまま潰れた頭は、湖に落ちて行く。
カシスは、直ぐさまキルアの元へ駆け寄った。
『キルア!! キルっ…!!?』
膝をつき、キルアに触れた瞬間だった。
カシスの動きが止まった。
…つめたい
キルアに触れた手の平は、とても冷たく感じたのだ。
そんなわけがない。 思いながら、肩甲骨の辺りに耳を押し当てた。
そこからは、生きている証である心音が、確かに聞こえてきた。
それだけで、目頭が熱くなる。
生きてる…
まだ、生きてるよ……っ
嬉しさが込み上げてくる。
しかし、ここで泣いている場合ではない。 このままでは、いずれキルアの心臓は止まってしまう。
服の袖口で、目元を拭った。
大丈夫
キルアは死なない
私が、死なせない!
キルアの心臓がまだ止まっていなかったことに感謝する。 生きててくれさえすれば、自分が何とかできる。
そう思ったカシスは、紺碧の瞳を発動させようとした。
焦りと不安と嫌な心音を押し殺しながら。
『……』
しかし、カシスの瞳は、美しい紺碧には変わらなかった。
それどころか、次第にカシスの体が小刻みに震え出した。
…だ…だめだ
こんな…動揺した状態で、紺碧の瞳は使えない
紺碧の瞳の発動条件は、冷静沈着であること。
自分の何倍ものオーラをコントロールするため、全神経を集中させなければならない。 心に僅かな動揺があろうものなら、紺碧の瞳の暴走に繋がり兼ねないからだ。
綱渡りを、命綱無しで渡っているようなものだ。
一か八か、暴走しないかもしれない。
そんな甘い考えは持ち合わせてはいない。 いや、持ってはいけない。
紺碧の瞳は、言わば諸刃の剣。 安易に使ってはいけないモノなのだ。
そんな危ない橋は渡れない。
それほど今のカシスは、動揺しているのだ。 冷静だと思い込んでも、己の心は誤魔化せない。
紺碧の瞳は…使えない
病院も医者もいない
でも
早くしないと…キルアが
焦る気持ちから、心音が有り得ないくらい大きく脈を打つ。 嫌な鼓動に、目眩がする。
どうしよう…
どうしよう
どうしようっ
どんな状況下でも冷静な判断をしてきたカシスだったが、これ程まで判断が出来なかったことがない。
ネフェルピトーの強襲の時でさえ、冷静な判断ができていたのに。
何とかしないと。 思うも、何も考えられない。
そんな時だった。 窮地に陥っていたカシスの瞳に、あるモノが映り込んだ。
ソレは横たわっているキルアに、そっと触れた。 同時に聞こえた、初めて聞く声。
「モグリだが医者を知ってる
こいつを助けたい
ついて来い」
声のする方へ顔を向けると、いつの間にいたのか、一匹のキメラアントがすぐ隣にいた。
真ん丸な目に、きりっとした太眉毛。
赤色の体に、手が8本。 その手には、丸い吸盤が無数についている。
そのキメラアントがタコであることは、今は気にも留めない。
カシスはキルアを抱き上げ、タコのキメラアントの膨らんだ頭に乗った。
2人が落ちないように、手を2本巻き付け、タコは走る。
激流の川に飛び込み、医者がいるところへ急いだ。
激流の振動に、キルアを強く抱きしめる。
死なないで…
キルア
・
タコに案内されたそこは、確かに正規の病院とは随分掛け離れた面持ちだった。
急患だと、直ぐにキルアの処置が行われた。
キルアが入って行った扉の前で、カシスとタコは立ち尽くしていた。
暫くして冷静さを取り戻したカシスは、自分の判断を卑下(ヒゲ)していた。
結果だけを見れば、良かった。
だがそれは、偶然で運が良かっただけ。 決してカシスの判断が良かったからじゃない。
あの時。 キメラアントであるタコが、手を差し延べてくれた時。
何故疑いもせずに、その手を取ってしまったのか。
キメラアントは倒すべき相手。
疑うのは当たり前だ。
動揺していたとはいえ、無警戒にもほどがある。
卑下しつつも、このキメラアントが一体何を考えているのか、目的は何か。
そんな疑念を、目の前にいる名も知らないキメラアントにぶつけた。
『ねぇ、なんでキルアを助けてくれたの?
あなたは、キメラアントでしょ?』
振り返るタコは、なんだか複雑な表情だった。
「確かに
オレはさっきまで、あんた達に銃口を向けてさえいた奴だ
でもな
あいつはそんなオレに、違う形で会ってたら友達になれた
そう言って、敵であるオレを助けてくれたんだよ
そんな事を言ってくれたヤツを、オレは見殺しになんてできなかっただけだ」
その言葉に、カシスは耳を疑った。
仲間を裏切ってまでキルアを助けた。
今まで出会ったどのキメラアントとも違う。
しかし不思議と、カシスの中で疑いや疑念は、なくなっていた。 というより、納得したと言った方がいいだろう。
初めから、わかっていたのかもしれない。
声をかけてくれた時から。
目を見た時から。
だから
何も疑わずに、ついて来たんだ。
俯くカシスは、膝を付いてタコの手を両手で握った。
『ありがとう…』
それは
心の底から、溢れ出た言葉だった。
・END・
14/11/1
23/1/15(修正)
◇タコだけどイカルゴ、出て来ました!
いいヤツですよね。 彼は(>_<)