ゾルディック家編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふかふかなベットに、並んで腰かける2人。
カシスの涙は、漸く止まったようだ。
『……はぁ…』
「止まったか?」
『ん…ありがと』
恥じらいも無く、思い切り鼻をかんだカシスは、キルアの持つゴミ箱にティッシュを入れた。
ゴミ箱を床に置き、早速問い質してみる。
「んで、何で急に泣き出したんだ?」
『それは…』
「オレに会えたのが、そんなに嬉しかったわけ?」
『あ~…うん。 それもあるけど……ん? 違うか…
いや、違わない…のか?
あ、でも泣いたのは別の理由』
何だか、素直に喜べないキルア。
「カシス」
『ん?』
「それって
四次試験の時と、同じ理由?」
『………うん』
「…」
『聞きたい?』
正直、聞きたい
カシスの事を、もっと知りたい
他人の事を知りたいなんて、初めてだ
だけど
聞いてもいいのか?
話せるなら、四次試験の時にでも良かったはずだ
それをしなかったのは、話したくなかった
あるいは、知られたくなかった
どちらにせよ
話をして、カシスが辛い思いをするのは嫌だ
だから 答えに困った
だけど
訳を 知りたい
返事が無く、困ったような表情をしていたキルア。
自分に気を使っているのだろうと、安易に想像できた。
『キルア
昔話をしようか』
「カシス…」
『少し、長くなるけど…いい?』
お前が いいなら…
・
少し深呼吸をしたカシス。
ちらりと瞳をキルアに向ける。
何だか悲しそうな…そんな表情
ほんの少しだけど
そう見えた
一呼吸おいて、カシスは話し出した。
『捨て子なんだ。 私』
「捨て子?」
『と言っても、捨てられたのは五つの時だけど
私は、両親と兄の4人家族で
何処にでもある、ごく普通の仲の良い家族だった
でも…
両親は、私の事で喧嘩が耐えなかった
私は、望んでできたわけじゃなかったみたい』
五つになったある日
母に、密林の奥深くに連れて来られた
繋がれた手は、とても冷たくて不安が募っていくばかり
不意に離された手に振り返ると、母の背中は既に、小さくなっていた
必死に追い掛けた
怖くて怖くて、堪らなくて
いくら泣き叫んでも
母が戻ってくる事は…なかった
空が暗くなっても、母の幻影を追い続けた
そして、立ち止まった私は漸く気付いたの
”捨てられた”って
『今まで何の不自由もせず、温かい家庭でぬくぬく育った子供が、密林の奥深くで生きていけると思う?
知識も体力も無い、ただの子供が』
過去を嘲笑うかのように言った。
死を感じるのに時間はかからなかった
水も食べ物も無く
身を守る術も知らない
悲しみ
苦しみ
餓え
恐怖
絶望
全てが
私に死を教えてくれた
枯れ果てた涙が、流れる事は無かった
だけど
胸を突き刺すような痛みは、消えなかった
心が
痛くて痛くて、堪らなくて
もう、いいか
そう思った時だった
『手を差し伸べてくれたのが、師匠だったってわけ
めでたし、めでたし』
「全然めでたくねーし」
話してはくれた
けど、肝心な事は話していない
そんな感じだ
納得はしたが、別の疑問が浮かび上がった
捨てられた理由
カシスは、”両親は喧嘩が耐えなかった”と言った
だけど、”温かい家庭”とも言っていた
話さないってことは、それが根源だと思う
オレにも、話せないような事……
・
『あの時の光景が、重なったからかな』
「?」
『泣いちゃった理由』
理由を聞いたキルアは、浮かない表情。
そんな顔させるつもりで、話したんじゃないんだけどな
もっと楽に受け止めてくれると思った
”お前も苦労してんな~”くらい、言ってくれたら良かったのに
やっぱり
優しいね…キルアは
『そんな暗い顔しないでよ
こっちまでシラケちゃうでしょ?』
「別に…してねーよ」
そっぽを向くキルアに苦笑い。
『…ありがと』
「なにが」
『話し、聞いてくれて
この話したの、キルアで2人目』
「2人目?」
『うん
もう1人は、私の兄弟子』
「ふ~ん…」
なんだかムカついた
2番目っていうのが…
でも
クラピカより先だったから…まぁいいか
そんな事を思っているキルアの横で、腕を上に伸ばして体を解(ホグ)すカシス。
『でもね
今は、捨ててくれた事に感謝してるんだ』
「?」
『だって捨ててくれなきゃ、今の私はいなかったし
ハンターになろうとも思わなかった
それに
キルアと、こうして出会う事もなかったんだよ?
だから、感謝してる』
そう言って笑うカシスに、キルアの心臓はトクトクと、いつも以上に脈を打っていた。
こんなことは、初めてだった。
自分の心臓なのに、落ち着かせる事が出来ない。
オレの心音…こんなだったか?
キルアの中でのカシスの存在が、何か別の物に少しずつ変わってきている。
その事にキルアが気付くのは、もう少し後のこと。
友達以上。
恋人未満。
未完成なこの距離に
戸惑いながらも、心地良いと感じる。
・
『あ! そうそう
一つ聞きたい事があったんだけど』
「な、何だよ」
『キルアがホテルから出る前に、言ってた事って、どういう意味だったの?』
「あぁ…
ほら、お前さ
前に言ってただろ?
オレが人を殺すところ、あんま見たくないって
だからかなぁ…」
『ふ〜ん…なら良かった』
「?」
『だって
”さよなら”に聞こえたから』
…本当は
そのつもりで言った
もう カシスには会えない
そう 思ったから
でも
お前は 会いに来た
こんなところまで…
『さ~てと!』
徐(オモムロ)に立ち上がるカシスを、不思議そうに見上げる。
『そろそろ30分たつし、帰るよ』
「30分?」
『ゼノのおじいちゃんとの約束
それに、ネテロさん達に何も言わずに来ちゃったから、戻らなきゃ
……怒られるかなぁ』
「お前…ホントにオレに会うためだけに来たんだな」
『だから、そう言ったでしょ』
そのために、こんな所まで来るなんて
やはり、どこか変わっている
キルアも立ち上がり、2人して部屋を出た。
「帰り道、わかるのか?」
『大丈夫! 来た道覚えてるから』
じゃあ、と背を向けて歩きかけた。
だが、何かを思い出したかのように声を上げた。
『忘れるとこだった
キルア』
と、キルアの前まで戻ったカシスから出されたのは、右手だった。
何を意味しているのか分からないキルアは、カシスを見遣る。
すると、無理矢理キルアの手を取り握手した。
「何?」
『”また会いましょう”のおまじないだよ! 知らないの?』
「知らねェよ」
握手なんて初めてしたキルアは、照れ隠しからか、視線を少し逸した。
何だか今日は、初めてづくしだ。
繋いだ手から、カシスの暖かい温もりが伝わってくる。
「…また、会えるよな」
『キルアが、会いたいと思うなら』
会えるよ
離れた手は、少し淋しさが残った。
具体的な約束など していない。
だけど
確信の様なモノがあった。
絶対に 会える
・END・
12/2/18
22/12/12(修正)