霞と氷と雨宿り
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厚い雲に覆われた深夜の森の中。
鬼殺隊が人々を守る為、鬼と戦っていた。
「うわああああっ!!」
「くそっ! なんで、こんな大量に鬼がっ!」
「耐えろ!! きっと、もうすぐ柱が来てくれる!」
その森の中には、情報にあった数以上の鬼が潜んでいた。
応援に駆け付けた隊士含めて十数名。 その半分以上が再起不能状態だ。
もう、ダメだ…っ
そう思った瞬間だった。
目の前にいた鬼の首が次々と地面に転がっていった。
その剣技の美しさに、隊士は皆目を見張った。
「は…柱だ!」
「柱が来てくださった!!」
「氷柱様! ありがとうございます!」
隊士達が、駆け付けた柱に口々に感謝の言葉を述べた。
今夜は月明りが無く、闇が深い。 にも拘わらず、長い銀色の髪は目を奪われるほど美しいものだった。
安堵した隊士達に振り返る。
『無駄口叩いてる暇があるなら、さっさと怪我した隊士の応急処置でもしなさい
隠がすぐ来るから、蝶屋敷へ』
その物言いは、けして優しいものではない。
怯む隊士だが、この隊の隊長だろうか。 1人が現状を彼女へ端的に説明した。
情報以上に鬼が潜んでいた事。
まだ、この奥で別の隊が鬼と戦っている事。
動ける者は、共に加勢に行く事。
最後の言葉に反応したのか、再び凛とした金色の瞳が隊長を務める隊士に向いた。
柱に対して物申すなど、無礼極まりない事。
顔を強張らせた隊士に、金色の瞳が柔らかく微笑んだ。
『良い心掛けだ
でも、あなた達には怪我をした隊士と隠の護衛を頼みたい
良いですね』
「…は、はい!」
瞬く間に目の前にいた氷柱・不知火雪華の姿は、消えていた。
森の奥へと走ると途中、何人かの隊士が、すでに息を亡くして転がっていた。
あそこだ
鬼を目で捉(トラ)えたと思った時には、鬼の首が宙を飛んでいた。
霧のようなモヤが晴れると同時に走っていた足を止めた。
『無一郎』
「…」
長い黒髪に、無機質だが綺麗な翡翠の瞳がこちらを向いた。
良く知った顔だ。
『無一郎も救援に来てたんだ』
「……………雪華…?」
顎の下に手を当て、思い出そうと天を仰ぐ。
その姿に笑みを浮かべた。
『当たり。 同じ柱の不知火雪華』
「あぁ…」
前に彼に会ったのは、珍しく一ヶ月以上も前になる。 忘れられてもおかしくないくらい、間が空いてしまっていた。
それでも、頭の片隅で覚えてくれていた事を嬉しく思う。
森の奥にいた鬼は、無一郎が全て片付けたようだ。
隠が手際よく怪我人の手当てや後片付けをしていく。
『無一郎は、この後任務?』
「任務が終わって帰る所だった」
『なら、一緒に帰ろうか』
他愛無い話をしながら森を下って行く。
ぐっと腕を上へ伸ばし、欠伸を一つ溢した。
「…雪華も任務帰り?」
『うん…』
返事をするなり、雪華は徐に空を見上げた。
先ほどより分厚くなった雲を見るなり眉を潜める。
『早く森を出た方がいいかも…雨降りそう』
「…本当だ、今にも」
同じように空を見上げた無一郎の言葉を遮るかの様に、突然の滝のような雨が2人に降り注いだ。
急いで森を下るも、人里まではまだ距離がある。 走って行くにもずぶ濡れは確定だ。 しかしながら走らないわけにもいかず。
どこか雨宿り出来る所があればと、雪華は周囲に目配せをした。
すると何かを見つけたのか無一郎の手首を掴み、方向転換する。
突然の事に、少し驚く無一郎。
『無一郎、こっち!』
「っ?」
言われるまま手を引かれて行った先は小さな祠。 人2人、雨宿りするには十分だった。
『はぁ~…。 通り雨ならいいけど…』
「凄い雨だね…」
打ちつける雨音に古い祠が崩れてしまいやしないか心配になる程、雨足は強かった。
雨がせめて小降りになるまで、この小さな祠で待つしかない。
「別に…あのまま走って帰っても良かったけど」
『文句言わないの
それで風邪でも引いたら困るでしょ? 周りが』
言いながら、懐に入れていた手拭いを無一郎の頭に被せ、わしゃわしゃと濡れた髪を拭いてやる。
されるがまま拭かれていた無一郎。 自分の髪と手拭いで前が見えなかったが、その隙間から見えた銀色の髪も、自分と同じように濡れていた。
自分の髪を拭く雪華の手首を掴んだ。
その行動を不思議に思う雪華は小首を傾げ、無一郎の顔を覗き込む。
「雪華も濡れてるんだから、拭きなよ
…ていうか、雪華の手拭いなんだから先に自分が使うべきでしょ?」
目を丸くする雪華の手から手拭いを奪い取り、同じ様に彼女の髪を拭いた。
…驚いた
言ってることは、ごく自然な事だけど
そんな事、全く思っていないと分かってても
無一郎が他人に気を使っている
そんな風に感じてしまった。
口元が自然と緩むのがわかった。
自分の事のように嬉しくなる。
わしゃわしゃと、加減を知らない無一郎の手に自分の手をそっと重ねた。
『ありがとう』
「…え? なんでお礼?
僕、何もしてないけど」
『ふふ』
「??」
手を離した無一郎は、1人笑っている雪華を不思議そうに見つめていた。
森に降り注ぐ雨足は、弱まることなく未だ小さな祠の屋根を叩いていた。
あれから、どれくらい経っただろうか。
両開きの扉の前にある階段に座り、雨が弱まるのをひたすら待っていた。
すると、銀色の頭が前に後ろにと、ゆらゆら揺れ始めている。
小さな祠の為、2人並んで座ると間の隙間など無いに等しい程。 その為、そんな動きをすれば、すぐに気付かれるというもの。
「……眠いの?」
『っ!』
その声掛けに一瞬、目が覚める。
しかし、睡魔が吹っ飛ぶわけもなく、再び重たくなる瞼と葛藤する事に。
『あ~~…うん。 …2日徹夜は……キツイ…』
「…そう」
『…いや…今夜で3日だ』
早く屋敷に戻って、ふかふかな布団で眠りたい。
思うも、雨が止んでくれる気配は全くなく。 だからと言って、寝るわけにもいかない。
何か…眠気を覚ます方法……
コクリ、コクリと舟を漕ぎながら、目を覚ます方法を考えていると、不便に思ったのだろうか。 隣から声が掛かった。
「そんなに眠いなら、眠りなよ
僕が起きてれば、問題ないでしょ?」
『!?』
「もし鬼が来たとしても、今の君の状態じゃ、足手纏いになるのが目に見えてるし
それなら、少しでも寝られる時に寝といてよ」
呆れられているのは、表情と言葉の棘で分かる。 最もな事を言われ、恥ずかしさが込み上げてきた。
鬼殺入隊から柱をやっている年数は、自分の方がずっと長いというのに。
しかし、これは裏返せば、今の彼なりの優しさだ。
今は、それに甘えさせてもらいたい。
『じゃぁ、少しだけ寝かせて…もらいます……』
「…」
言うのと同じくして、無一郎の肩に少しの重みがかかった。
隣を見てみると、自分に寄り掛かっている雪華の姿。
「…雪華?」
その顔を覗き込むと、すでに眠りに落ちていた。
寝るの早…と思いながらも、暫くの間、その寝顔を眺めていた事に気付かなかった無一郎だった。
・END・
23/7/9
むいの分かりにくい優しさを書くのが難しい!
夢主の性格も、まだ少しフラフラしてて定まってない感じです。 なんたって見切り発車で載せちゃってますから。
という事で、この話は長いので続きます。
後半は糖度高めで。 むい君そこまでしちゃうの!?