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交わらない視線



テヒョンが目を潤ませながら作業室にきたあの日からもう数日が経った。あの日からテヒョンは夜になると必ず作業室を訪れるようになった。初めはジミンとは少しぎこちないようだったが、なんせこいつらだ。
何日かすれば今まで通り仲良く楽しそうに話している姿を見かけるようになった。
2人を見る度に心が痛むのはきっと、嫉妬ではない。
嫉妬の痛みではなく、別の痛みだ。
俺はきっと大丈夫。だからもうあいつを…。

今日もいつもの様にシャワーを浴びて、
作業室に入ってくるテヒョン。

「ユンギヒョン!コーヒー持ってきたよ〜。」

「おう、ありがと。」

「うん、えへへ。」


頭を撫でると嬉しそうにする。
俺の隣の椅子に座り自分用に持ってきたココアに
口をつけている。


「なあ、テヒョンア。」

「ん〜?なあに?」

「俺ら、別れよ?」

「……え?あ、はは、なんの冗談?」

「…。」

「…本気、なの?」

「…ああ。」

「…なん、で?」

震えた声でそう言ったテヒョンの目には
涙の膜が張られていた。

「お前の隣はあいつじゃないと駄目なんだよ。」

「あいつって、」

「そう。ジミン。」

「…なんで、急に、」

「急なんかじゃない。
ずっと前から思ってたんだ。お前を笑顔にできるのはあいつしかいないって。それに俺の前であんなに笑ってるお前を見たこと1回もないんだよ。」

「それは、」

「いいんだよ、もう気使わなくて。
俺はもう覚悟出来てるから。」

「何言ってるの、?」

「あいつのとこに、行きな。」


そう言ってまだ固まっているテヒョンの腕を引き作業室の外へ連れ出す。


「っ、ヒョン!まってまだ「テヒョンア」」

「好きになってごめん。」

「今まで無理させてごめんな…」

「ユンギヒョン!!」

テヒョンを腕を離そうとすると、
次はテヒョンが俺の腕を掴んできた。

「っ、」

「ヒョンは誤解してる。」

「…は?」

「俺は無理してヒョンの隣にいたことなんてないし、
俺の隣はヒョンじゃないと駄目なの。」

「…嘘だ。」

「嘘なんかじゃない。
ジミナと話してる内容は全部ヒョンの事だもん。
それにヒョンの作った音楽を聴きながら、
ヒョンの大きな手に撫でられながらじゃないと
俺、眠れなくなったんだよ?」

「俺には、ヒョンが居ないと駄目なんだよ。
だから、別れるなんて言わないで…。」

「…テヒョンア。」

「それとも、ヒョンはもう俺の事必要ない?」

「そんなわけないだろ?
ただ俺がやっぱりお前の幸せの邪魔をしているんじゃないかって。そう思って。」

「俺はねヒョンとヒョンの作ってる曲を聴きながら
のんびり過ごすこの時間が1番幸せなの。
俺の幸せを思うなら俺と別れないで。
この時間を無くすなんて事しないで?」

「本当に、それでいいのか?」

「うん、それがいいんだよ。」

「…そっ、か。」

「ふふふ、ヒョン?」

「ん?」

ちゅっと唇に柔らかいものが触れる。


「愛してるよ。」


俺が1番見たかった笑顔でそう言ったテヒョン。


「俺の方が愛してるよ。」


そう言うと幸せそうに笑うテヒョンが俺の瞳に映る。
そしてテヒョンの瞳の奥には嬉しそうな顔をしている自分がいる。


ふたりの交わった視線。
そこにはただただ幸せそうな互いの姿が映されていた。

fin.
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