交わらない視線
ドアがしまると同時に、さっきまで彼がいた場所に顔を埋める。
あいつから連絡が来た時から決めていた。
もう今日で終わりにするんだって。
あいつが幸せならそれでいいやって。
なのに、ねえ。テヒョンア。
なんで嬉しそうじゃなかったの?
なんでジョングクに嫉妬したの?
なんで、触ってほしそうな目で俺を見つめたの?
期待、しちゃうじゃん。
もしかして、お前は俺の事が、
いや、そんな事ある筈ない。
諦めが悪い自分に鼻で笑う。
ベットの上で仰向けに寝転がり目を閉じる。
どうしても浮かんでくるのはテヒョンの顔ばかりで、どうしようも出来ず、水でも飲もうとベットからおり、ドアに近づくと、ボソボソと話し声が聞こえてきた。
…テヒョンア?
まだ、そこに居るの?
ドアを開けようと腕を伸ばす。
─どうしたんですか、ユンギヒョン。
伸ばしかけた腕を下ろした。
ズキン
胸が、苦しい。
─…行きます!
ズキンズキン
まって、テヒョンア。行かないで。
俺、まだお前の事諦められないよ。
お前の事大好きなんだよ。
お前を愛してるんだよ。
再びゆっくりとドアに手を伸ばすと同時に切ない声で名前を呼ばれた。驚いて固まっていると、耳を疑うような言葉が聞こえてきて、遠ざかる足音を追いかけることが出来なかった。
─愛してたよ、
嘘、だろ?
そこではっとする。
最後にあいつからユンギヒョンの相談を受けたのはいつだった?
思い出せない。それぐらい前の話だ。
それならなんであいつは俺の部屋に来てた?
…もしかして、俺に抱かれに来てた?
そう考えると今日の昼間のユンギヒョンに抱きしめられていた時に、幸せそうな顔とは正反対で何かを訴えるような視線をしていた事。
ユンギヒョンと付き合えたのに、思っていたより嬉しそうにしていなかった事。
俺とジョングクの関係に嫉妬してた事。
指一本触れない俺に対して、寂しそうな視線を向けていた事。
全部俺の事が好きだったからだとしたら、辻褄が合う。
追いかけようとして足を止めた。
あいつは俺じゃなくて、ユンギヒョンを選んだんだ。
そんなの分からないって?
俺には分かるんだ。
さっきのあいつの言葉が、あの日のテヒョンを諦めるために口にした「愛してたよ。」の言葉と重なってしまったから。
これで、いいんだよな?
溢れてくる涙を止めることなく、
その場に座り込んだ。
「テヒョンア。」
「愛してたよ。」
「…さよなら。」