交わらない視線
ふぅ、と深呼吸をしてジミンの部屋の前に立ち尽くし、心の中で何度も大丈夫。と唱える。
「……よし。」
ドアをノックしようと手を伸ばすと、急に扉が開いて伸ばしかけた手を反射的に引っ込めた。
「ふふ、何してんの?」
「や、あの、」
「早く入ったら?」
「…うん。」
ジミンはいつもと変わらないようにそう言って
俺を部屋に招き入れる。
いつもと変わらないはずなのに
何かが違う気がする。
そんな違和感を胸に部屋へと足を踏み入れた。
いつもの様にジミンの横に座り、どう話せばいいか分からず、膝の上でぎゅうっと手を握っていると、テヒョンアと名前を呼ばれた。
「ん?」
「おめでとう。」
「えっ、」
「ユンギヒョンと付き合ったんでしょ?」
「…………うん。」
「なんか、あんまり嬉しそうじゃないね。」
「…っ!!」
「…なーんてね。そんな訳ないよね。」
「ジミナ…」
「あーあ、これからちょっと寂しくなるな〜。
俺、お前の体温温かくて好きだったのに。」
「っ、それなら、
なんで今日一緒に寝てくれなかったの?」
「あの後ちょっと用があって。」
「………ジョングクと?」
「え?」
「ジョングクと何かしてたの?
ねえ、俺が知らないところで2人で何してたの?」
昼間聞いた"好きだよ"と言うジミンの言葉が頭の中で繰り返される。なんで、俺以外のやつにそんなこと言うの。イラついている俺とは裏腹に、不思議そうな顔をしているジミン。
「ねえ、テヒョンア。
もしそうだとしても、お前には関係ないでしょ?
なんでそんなに怒ってるの?」
「だって、お前は!俺の、」
…ものじゃない。
そうだ。俺だけのジミンじゃない。
なのに、なんでこんなにイラついてるんだろう。
「…テヒョンア?」
「…なんでもない。ごめん、俺もう寝るね。」
そう言って立ち上がる。
そのまま部屋を出て、ドアの前でしゃがみ込む。
俺を引き止めない彼が
俺に1度も触れなかった彼が
"もうお前との関係は終わったんだよ"
そう言われた気がして、再び胸が傷んだ。
ああ、俺はやっぱりお前が好きなんだ。
本当は気付いていたんだ。
初めはユンギヒョンに避けられたり、冷たい態度を取られて、悲しくて相談に行っていたのに、いつからか、ジミンの温もりが恋しくて、ジミンに抱いて欲しくて、悲しいということを言い訳に部屋に行っていた事。
俺がお前にちゃんと愛を伝えてたら、こんなに悲しまなくて済んだの?ドアの向こうの彼にそう問いかけても答えなんて返ってくるはずもなくて。それでも、あの温もりが恋しくて、あの優しい空間が恋しくて、再びドアに触れようとすると、それを阻止するかのようにポケットの中の携帯が震えた。
[起きてる?]
…ユンギヒョン。
そうだ。俺にはユンギヒョンがいる。
[起きてますよ。]
[どうしたんですか、ユンギヒョン。]
[今から作業室に来れるか?]
[…行きます!]
涙をふいて、ジミンの部屋に背を向ける。
「ジミナ。」
「愛してたよ、」
誰にも聞こえないようにそう呟いて
ユンギヒョンの待つ作業室へと向かった。
コンコンとノックをすると、直ぐに扉が開かれ、それと同時に俺の大好きな温かい匂いに包まれる。
「ヒョ、ン…?」
「ん…?」
「どうか、したんですか?」
「いや、ただ顔が見たくなって。」
「っ、!」
「はは、真っ赤だな。」
ふわふわと頬を撫でられる。
「む、やめてくださいよ、」
口ではそう言うけれど、撫でられている手を退かさないことから、本気で嫌がっている訳では無いのはバレバレらしく、暫く撫でられた後に軽く触れるだけのキスをされた。それからどちらともなく引き寄せられるように体を重ねた。