交わらない視線
「おい、どこまで行く気だ。」
その一言にハッとして、足を止める。
気づくと楽屋からは程遠い場所に来ていた。
「ご、ごめんなさい。」
「まぁいいけど。
お前なんか飲む?俺喉乾いた。」
「え、あ、大丈夫です。」
「……。」
「……コーラで。」
「ん。」
はい。とコーラを渡され、
有難く受け取り喉に流し込む。
「…で?何かあったのか?」
「…ヒョンは好きな人いますか。」
「唐突だな。…居るけど。」
「えっ、」
「なに?」
「あ、いや、」
「それがなんか関係あんの?」
「ヒョンはさ、その人のことを思って胸がぎゅうって締め付けられたりする?」
「うん、する。」
「その人に避けられたりしたら悲しくなる?」
「うん。」
「そっか。」
「ちなみにそいつが他のやつと仲良くなんてしてたら嫌になる。」
「っ、」
「だから、お前とジミナを見ていて俺はずっとイライラしてたし、胸が苦しくなった。」
「…へ?」
「お前に目を逸らされるだけでムカついた。」
「…ヒョン?」
「どういうことか分かる?」
「分からないよ…」
そう言うとふわりと抱きしめられた。
「お前が好きだって言ってんの。」
「…へ?」
俺、ユンギヒョンに告白されてる…?
「お前の心の中に俺が入る隙間が1ミリでもあるなら、俺の気持ちを受け入れて欲しい。」
「……はい。よろしく、お願いします。」
大好きなユンギヒョンからの告白を断るわけがない。
なのになんで、こんなに虚しくなってるの?
なんでずっと胸は痛いままなの?
その理由を分かりたくなくて、
力強く抱きしめ返した。
「本当に?」
「…うん。」
俺が頷くと、ユンギヒョンは今まで1番の笑顔を見せた。これで良かったんだよね?
ずっと好きだったユンギヒョンに告白されて嬉しいはずなのに、なんで俺は今視線の先にいるジミンから目が離せないんだろう。
そのまま俺達に背を向けて歩き出すジミナ。
追いかけようとしたけど、辞めた。
追いかけてなんて言うの?
ユンギヒョンと付き合ったよって?
お前はジョングクのことが好きなのって?
俺はお前のことが好きなのかもしれないって?
いや、いいんだよ。これで。
また辛い恋をするのは嫌だ。
もうあの優しい声で俺の名前を呼ぶことも
あの優しい腕に包まれて眠ることも
大好きな匂いに包まれることも無いんだろうな。
そう考えると、また涙が溢れてきた。
ごめんね、ユンギヒョン。
今だけはジミンを思って泣かせて。
その想いが伝わったのか、ヒョンは何も言わず
ただただ俺を力強く抱きしめてくれた。
******
仕事が終わり宿舎に戻るバンの中。
疲れたらしいユンギヒョンは
俺の肩に頭を預けるようにして眠りについている。
ヒョンを起こさないように、ゆっくりと携帯を取り出しきっとまだ起きているであろう彼に連絡を入れる。
[今夜話したいことがある。]
[部屋に行ってもいい?]
そう送信する。
直ぐに携帯が揺れ
メッセージが届いたことを知らせる。
[分かった。]
断られなくてよかった。と安心して、俺もユンギヒョンに少し寄りかかるようにして目を閉じた。
後ろで誰かの鼻を啜る音が聞こえてきたような気がした。