僕達の関係
"俺がジョングクに嫌われればいいんだ"
そう決意したところで、「テヒョンア?」と名前を呼ばれた。繋がれている手からゆっくりとジミナの顔へと視線を向ける。
そこでふと思った。もしジョングクとジミナが付き合い始めたら、今まで通りでは居られないんだ。それならジミン離れする準備もしなくちゃいけない。
そんな事を考えていると、ジミナが口を開いた。
「ねぇ、俺今日さ行きたい所があって。」
「ん?何処?」
「ふふふ、着いてからのお楽しみ。」
そう言って助手席のドアを開けてくれる。こういう所がさぁ…。折角お前から離れようと思ってるのに、なんで優しくすんの。そうは思いながらも、折角開けてくれたんだし。と自分に言い訳をして乗り込む。それを見たジミンは満足そうに微笑み、反対側の運転席へ移動した。
たわいもない話をしながら目的地へ向かっていると、突然俺の携帯が鳴った。画面を確認すると〈ジョングク〉と表示されていた。焦った俺は思わず通話を切ってしまった。そして一言、何。とだけメッセージを送る。すぐ既読が付き、なんで出ないの。と送られてくる。
「あれ?電話じゃなかったの?」
「すぐ切れちゃった。」
「何それ、変なの(笑)」
ジミンと居るから出ないよ。そうはっきりと否定をする。ごめんな、ジョングク。こんな最低な奴の事は嫌いになって、早くジミンと幸せになって。そう願っていると、「着いたよ〜。」と、やけに上機嫌な声が聞こえ、携帯から顔を上げると、俺が行きたいと行っていたカフェに到着した。
「え、なんで、」
「ふふ、この前ユンギヒョンと話してたでしょ?丁度行きたいお店の近くだったから、寄ってみようかなって。」
そう、ここはこの前ユンギヒョンにしつこく話していたカフェだった。内装が可愛くて、ケーキも飲み物もお洒落でとても気になっていた。まさかすぐ来れるとは思いもしなかった。しかも、好きな人となんて、これ以上に幸せなことってある?
そう思ったけど、なんでユンギヒョンと話してたのを知っているんだろう。
ねぇ、ジミナ。あの時周りには誰もいなかった筈なのに。ジョングクから最後に送られてきた"ジミニヒョンには気を付けて"という言葉がやけに不安にさせる。
「なんで、知ってるの、?
お前あの時出掛けてたじゃん。」
「…ん?ユンギヒョンから聞いたんだよ?
テヒョンアが行きたがってるって。」
「そ、っか、そうだよね!」
「ふふ、相変わらず変な奴。」
「もー!いいから入ろう?」
「はいはい。」
カフェで暫くくつろいだ後、今日の本題だった場所へと向かった。着いたのはジミナがよくネットで見ているアクセサリーショップだった。
「ここに最近出来たみたいで、絶対来たかったんだ。」
楽しそうに話している様子から、本当に来たかったんだと思った。そんな場所に俺と来てくれた事を嬉しく思った。
「あ!これこの前見てたやつじゃん!」
なんて楽しそうにはしゃぐジミンをよそに、目の前の綺麗なピアスを見る。
「ふふ、これグガ好きそう…」
って、何考えてるんだろう。
1人で頭を横に振りながらその綺麗なピアスの前から離れた。
「テヒョンア、何かいいのあった?」
「俺は今日はいいかな、」
「…そう?じゃあ俺買ってくるね。」
会計をしているジミンを待っている間に、ゆっくりと店内を見ていると、店員さんに話しかけられた。
「そのピアスって、」
「え?」
「…あの、僕の勘違いだったら申し訳ないんですけど。もしかしたら、とう「テヒョンア!お待たせ。どうかしました?」あっ、いえ。」
割り込むように入ってきたジミン。そんな事するような奴じゃないないのに、おかしい。何も言わずジミンを見つめる。
「なあに?テヒョンア。」
「いや、何でもない。」
「そう?じゃあ帰ろっか。」
「…うん。」
こいつは何か隠している。そう思った。
*****
宿舎に戻り荷物を置いてくる、と自分の部屋に向かったジミナの背中を見送り、俺はある人の所へ向かった。
コンコンとドアを叩くと、迷惑そうな顔をしたヒョンが出てきた。
「…なに。」
「…ユンギヒョン。
ちょっといいですか。」
俺の顔を見て大事な話なんだろうと察してくれたヒョンは、入れ、と中に入れてくれた。
「…なんかあったのか?」
「俺がこの前ヒョンに行きたいって言ったカフェあるじゃないですか。」
「あぁ、あれは今度って話で終わっただろ?」
「そうですよね。」
そのまま会話を続けながら携帯に文字を打ち込む。
"その話他に誰かに言いました?"
何かを察したユンギヒョンは、返事をしながら俺の携帯を手に取り、文字を打ち込む。
"言ってないけど?"
"ジミナが知ってたんですよ。
ユンギヒョンと話してるって所まで。"
"は?なんで?"
"俺も分からないんです。"
"そっか、弟を疑うなんてしたくないけど…"
ゆっくりと鍵がかかっている引き出しを開けて、機会をひとつ取り出した。それをゆっくりと俺に近づけ耳の所で反応を示した。
「やっぱりか、」
「…どういう事?」
「もうすぐ分かる。」
そうユンギヒョンが呟いたと同時に、作業室のドアが開かれた。
「あーあ。
ユンギヒョン何してくれてんの。」
「お前こそなにやってんの?」
「ふふ、俺はただテヒョンアに悪い虫が付かないか心配で。」
「…どういう事?」
1人話がついていけずユンギヒョンを見つめる。
「盗聴器ですよ、ヒョン。」
「…っ、グガ?」
声がする方に目を向けると、ジョングクが立っていた。いや、その前に盗聴器って、ジミンが?
「お前も気付いてたんだな。」
「まぁ、薄らとですけど。」
「…なんで、俺に盗聴器なんか、」
「ああ、テヒョンアはまだ信じてるんだっけ?
俺がジョングクを好きだって事。」
「…何、言ってるの。」
「俺はね、ずっと前からお前が好きだったんだよ。テヒョンア。」
「う、そ、」
「本当だよ。」
「なんで、あんな嘘、ついたの。」
「純粋なお前は、俺の気持ちを知ったら、どうせ自分がジョングクに嫌われて、俺と幸せになって欲しい。なんて考えるだろ?」
「…っ、」
「そしたら必然的にお前とジョングクには距離が出来るわけで、俺の邪魔者はいなくなる。お前が俺に抱いている感情が恋愛じゃないってことに気付く前に、俺のモノにしようと思ってたのに。くそ、あの店員のせいで、全部台無しだ。」
「恋愛感情じゃない…?」
「お前はね、ジョングクの事が好きなんだよ。」
「…え?でも、俺はっ、」
「ジョングクに好きだと言われてキスをされてすぐ断れなかったのはなんで?何回も顔を洗うほど真っ赤になったのは?手を繋いでるのを見られて咄嗟に離そうとしたのは?ねえ、ピアスを見て思い浮かんだのは?誰だった?」
「…っ、」
「自分でも分かってたんだ。こんな事してもどうせ虚しくなるだけだって。だから今日で全て終わらせようと思って、お前を連れ出したんだ。ごめんな、テヒョンア。」
そう言って背を向けて部屋から出ようとするジミンを呼び止めた。
「俺、今日楽しかった。
お前といれて楽しかったよ。」
「うん、俺も。」
「また連れてってね。」
「…え、」
「またジミンと行きたいよ、俺。」
「…ふふ、ありがとう。」
そう言って去っていたジミン。
「…で?
ヒョンは本当に俺のことが好きなの?」
「っ、!」
今まで黙って俺たちの話を聞いていたジョングクが口を開いた。
「…好き、だと思う。」
「ふふ、なにそれ。」
「だって、俺も今気付いたんだし。」
「可愛いね、本当に。」
「ば、馬鹿にするな、」
「してないしてない。
ね、キスしていい?」
「おい、俺を忘れちゃいねぇか?
この筋肉ウサギ野郎。」
「ユンギヒョン。てかなんで俺だけ。」
「いちゃつくなら他所でやれ。」
そう言って作業室から追い出された。
「じゃあ俺の部屋行きましょうか?」
そう言って繋がれた手は暖かかった。
*****
「おい、ジョングガ。」
「なんですかジミニヒョン。」
「俺が口出しすることじゃないと思うけど、付き合って1日目からヤるのはどうかと思うよ?」
「えっ、なんで知って、あ…」
「うん、お互いいいことないから、早くあいつの耳から外してきて。」
「てかヒョンが聞かなきゃいい話では?」
「そうなんだけどさあ…
男なら好きな奴がどんな声して抱かれてんのか、気になるじゃん?」
「速攻外してきます。」
fin.
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