winter cherry
「話があります。」
そう呼び出されて、20分が経とうとしていた。
何を言われるかなんて分かりきっていたから、このまま電話でいい。と言ったのに、直接じゃないと意味が無いの一点張りで埒が明かず、結局俺が折れた訳なんだけど。
それにしてもあいつがこんなに遅れるのはおかしい。
何かあったんだろうか。
そう思い携帯を取り出すと、丁度マネヒョンから電話がかかってきた。
はい、と出た後に告げられた言葉に俺は思わず携帯を落としてしまった。
「ジョングクが事故にあった。」
----------------------------
「…ぁ、テヒョンア!」
ジミンに名前を呼ばれてハッとする。
顔を上げると、ヒョン達が心配そうに俺を見ていた。なんだかいたたまれない気持ちになって、窓の外に視線を逸らすと、聞いたことのある病院の名前が見えた。
そうだ。マネヒョンから電話があった後、皆と合流してジョングクが運ばれた病院に向かってたんだっけ。
「…着いたよ。」
「…テヒョンア、大丈夫?」
「うん、ありがとう。」
「…行こうか。」
ずっと握ってくれていたのであろうジミンの手に引かれながら、車を降りジョングクの元へと向かった。
コンコンとドアをノックすると、いつも通りの明るい声で「どうぞー!」と聞こえ、その場にいた全員がほっと胸を下ろした。
ドアを開けると頭や腕、足の所々に包帯が巻かれているジョングクが、ベットに腰をかけていた。
「お前、起き上がって大丈夫なの?」
「生きててよかったよジョングガァ〜!」
「本当に心配したんだぞ?」
そう言いながらヒョン達がジョングクの傍に駆け寄る中、俺は少し違和感を覚えた。
何に対してなのかがハッキリと分からず、ヒョン達と笑いあってるジョングクを遠くから眺める。そんな俺に気づいたジミナが、「テヒョンア?どうした?」と声を掛けてきた。
「いや、なんでもないよ。」
「そう?」
そんな話をしていると、コンコンとドアがノックされ、マネヒョンが呼ばれ、先生から話を聞く為部屋を出たのと、入れ替わりで看護師さんが部屋に入ってきた。
「失礼します。
ジョングクさんが事故にあった時に、ずっと握りしめてあった物をお渡しし忘れていました。」
そう言って小さい紙袋をジョングクに渡し、部屋を後にした。
メンバーが俺の方を見る。
そう、今日は俺たちの別れ話をする日でもあり記念日でもあった。別れ話をするなんて知る由もないメンバー達が、気をつかって部屋を出ようとドアに足を向けた途端、ボソリとジョングクが呟いた言葉によって全員の動きが固まった。
「え、これなんだっけ…?」
う、嘘だろ?なんてヒョン達が固まっている中
俺は違和感の正体に納得した。
おかしいと思ったんだ。
皆の前では俺しか見えていない素振りを徹底していたのに、1番に俺の名前を呼ばなかったジョングク。記憶が無いのなら納得だ。
最近二人きりだとそんな態度ばかりだったからか、すぐには気づけなかった。
でも、なんでプレゼント?
俺と別れ話をしたかったはずなのに…
「あっ!これ、テヒョニヒョンが好きなブランドじゃないですか?」
記憶はなくても、お前へのプレゼントに違いない!
そんな事を言いたげな瞳で皆が俺を見る。
ジミンに繋がれていた手を離して、
俺はゆっくりとジョングクに近づいた。
「思い出した。
これ、俺がお前に頼んでたやつなんだ。」
「ふふ、そっか。
形が変形してないといいですね。」
…どういうことだ?
まるで中身が分かっているかの言い方。
本当に記憶がないんだよな?
「中身、覚えてるの?」
「いえ?アクセサリーショップなので、そう思っただけですけど、何かおかしかったですか?」
キョトンと、純粋な瞳で俺を見てくるジョングクに少し罪悪感が生まれた。
そんな感情を振り払うように、にっこりと微笑んでジョングクに近づく。
「…今までありがとう。」
みんなには聞こえないように伝えた。
「…ぇ、」
一瞬彼の目が憎悪に満ちていたが、すぐに不安げな瞳で見つめてくるジョングク。
気のせい、だよな?
何も覚えていないなら、俺も忘れるよ。
お前からの告白も、俺だけにみせてくれた顔も、肌を重ねた時の体温も全て。
安心させるようになんでもないよ、と呟いて頭を撫でた。
皆が混乱して重たい雰囲気のなか、ユンギヒョンがボソリとつぶやいた。
「…なんか喉乾いたな。」
その言葉にジンヒョンが賛同する。
「確かに!
ユンギとテヒョンアで買ってきてよ。」
ジンヒョンがそう言って
俺とユンギヒョンの手を引いた。
助かった。俺はこんな形で終わるなんて思ってはいなかったけど、覚悟していたことだからそこまでダメージはない。
みんなの同情の視線が痛くて、一刻も早くこの場から離れたいところだった。
珍しく抵抗しないユンギヒョンをいいことに、そのままドアに向かおうとすると反対の手を引かれた。
「っ、どうしたの?グガ。」
「…いや、僕コーラがいいなって、」
「あ、うん。分かった。」
返事をしたはずなのに、一向に手が離される気配がしない。その意図が分からずさらに混乱する。
「…グガ、離してやらないと行けないだろ?」
「…あぁ、うん。」
ユンギヒョンがそう言うと、握られていた手が名残惜しそうに離れていった。そのままユンギヒョンに引かれるようにドアへ向かうと、不安そうなジミンと目が合った。大丈夫、の意味を込めてにこりと笑うと、更に泣きそうな顔になったけど、話す間もなくドアの外まで手を引かれた。
引かれるまま販売機まで着いたけど、このままあの部屋に戻るなんて出来ない。なにか引っかかる事もあるし…。
ヒョンには申し訳ないけど、1人で先に帰らせてもらおう。そう思って口を開こうとすると、ヒョンの足が止まった。
「ヒョン、?」
くるりと振り返ったヒョンの目には、悲しみ、そして怒りの色が見えた。
悲しみは分かる。
でも、怒りはなぜ?
混乱している頭では何も考えられず、ヒョンが何か言うのを待つことにした。
「…このまま俺と帰るか?」
「えっ、」
「そのつもりだったんだろ?」
帰ろうとは思ってたけど…
まさかヒョンも一緒とまでは思ってなかった。
確かに今一人でいたくはないけど。
上手な返しが見つからず、視界に入ったヒョンが買ったコーラを指さす。
「…でも、飲み物は?」
「それなら心配ない。…なあ?ジョングガ。」
「えっ」
ヒョンの視線の先を辿ると、ジョングクが立っていた。俺たちを見つめる瞳からものすごく殺気を感じるのは気のせいだろうか。
「ヒョン達が遅いから待てなくて。」
そうやってにっこりと笑うジョングクはまるで、昔に戻った様だった。違う。何か見落としている気がする。それに、俺たちの様子を見に来るだけだったら、ジミンとかに頼めば良かったのになんでわざわざジョングクが来たんだ?
そんな事を考えている間に、俺の目の前にジョングクが来ていた。
「早く戻りましょう?テヒョニヒョン。」
そう差し出された手を取ってはいけない気がして、戸惑っているとユンギヒョンがコーラを置いて渡した。
「…お前何を企んでる?」
「ははっ、どういう事ですか?」
「テヒョンアに近づくな。
もう<記憶がない>んだろ?
まさか、それを利用してまたあいつに愛されようとでも思ってんのか?」
「…っ、」
2人で何かをボソボソと話している。
ニコニコと笑っていたジョングクの顔が一瞬で真顔になった。その表情は事故に遭う前の彼がよく俺に向けていた表情だった。
「ねえ、テヒョニヒョン。」
その表情のままユンギヒョンから視線を逸らすことなく、俺の名前を呼んだ。
怖くて思わずユンギヒョンと繋いでいた手に力が入った。そんな俺の手を大丈夫、と言っているかような強さで握り返してくれた。
(ありがとう、ヒョン)
1度深呼吸をしてジョングクと視線を合わせると、にっこりと可愛い笑みを浮かべた。
「また来てくれますか?」
そう呼び出されて、20分が経とうとしていた。
何を言われるかなんて分かりきっていたから、このまま電話でいい。と言ったのに、直接じゃないと意味が無いの一点張りで埒が明かず、結局俺が折れた訳なんだけど。
それにしてもあいつがこんなに遅れるのはおかしい。
何かあったんだろうか。
そう思い携帯を取り出すと、丁度マネヒョンから電話がかかってきた。
はい、と出た後に告げられた言葉に俺は思わず携帯を落としてしまった。
「ジョングクが事故にあった。」
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「…ぁ、テヒョンア!」
ジミンに名前を呼ばれてハッとする。
顔を上げると、ヒョン達が心配そうに俺を見ていた。なんだかいたたまれない気持ちになって、窓の外に視線を逸らすと、聞いたことのある病院の名前が見えた。
そうだ。マネヒョンから電話があった後、皆と合流してジョングクが運ばれた病院に向かってたんだっけ。
「…着いたよ。」
「…テヒョンア、大丈夫?」
「うん、ありがとう。」
「…行こうか。」
ずっと握ってくれていたのであろうジミンの手に引かれながら、車を降りジョングクの元へと向かった。
コンコンとドアをノックすると、いつも通りの明るい声で「どうぞー!」と聞こえ、その場にいた全員がほっと胸を下ろした。
ドアを開けると頭や腕、足の所々に包帯が巻かれているジョングクが、ベットに腰をかけていた。
「お前、起き上がって大丈夫なの?」
「生きててよかったよジョングガァ〜!」
「本当に心配したんだぞ?」
そう言いながらヒョン達がジョングクの傍に駆け寄る中、俺は少し違和感を覚えた。
何に対してなのかがハッキリと分からず、ヒョン達と笑いあってるジョングクを遠くから眺める。そんな俺に気づいたジミナが、「テヒョンア?どうした?」と声を掛けてきた。
「いや、なんでもないよ。」
「そう?」
そんな話をしていると、コンコンとドアがノックされ、マネヒョンが呼ばれ、先生から話を聞く為部屋を出たのと、入れ替わりで看護師さんが部屋に入ってきた。
「失礼します。
ジョングクさんが事故にあった時に、ずっと握りしめてあった物をお渡しし忘れていました。」
そう言って小さい紙袋をジョングクに渡し、部屋を後にした。
メンバーが俺の方を見る。
そう、今日は俺たちの別れ話をする日でもあり記念日でもあった。別れ話をするなんて知る由もないメンバー達が、気をつかって部屋を出ようとドアに足を向けた途端、ボソリとジョングクが呟いた言葉によって全員の動きが固まった。
「え、これなんだっけ…?」
う、嘘だろ?なんてヒョン達が固まっている中
俺は違和感の正体に納得した。
おかしいと思ったんだ。
皆の前では俺しか見えていない素振りを徹底していたのに、1番に俺の名前を呼ばなかったジョングク。記憶が無いのなら納得だ。
最近二人きりだとそんな態度ばかりだったからか、すぐには気づけなかった。
でも、なんでプレゼント?
俺と別れ話をしたかったはずなのに…
「あっ!これ、テヒョニヒョンが好きなブランドじゃないですか?」
記憶はなくても、お前へのプレゼントに違いない!
そんな事を言いたげな瞳で皆が俺を見る。
ジミンに繋がれていた手を離して、
俺はゆっくりとジョングクに近づいた。
「思い出した。
これ、俺がお前に頼んでたやつなんだ。」
「ふふ、そっか。
形が変形してないといいですね。」
…どういうことだ?
まるで中身が分かっているかの言い方。
本当に記憶がないんだよな?
「中身、覚えてるの?」
「いえ?アクセサリーショップなので、そう思っただけですけど、何かおかしかったですか?」
キョトンと、純粋な瞳で俺を見てくるジョングクに少し罪悪感が生まれた。
そんな感情を振り払うように、にっこりと微笑んでジョングクに近づく。
「…今までありがとう。」
みんなには聞こえないように伝えた。
「…ぇ、」
一瞬彼の目が憎悪に満ちていたが、すぐに不安げな瞳で見つめてくるジョングク。
気のせい、だよな?
何も覚えていないなら、俺も忘れるよ。
お前からの告白も、俺だけにみせてくれた顔も、肌を重ねた時の体温も全て。
安心させるようになんでもないよ、と呟いて頭を撫でた。
皆が混乱して重たい雰囲気のなか、ユンギヒョンがボソリとつぶやいた。
「…なんか喉乾いたな。」
その言葉にジンヒョンが賛同する。
「確かに!
ユンギとテヒョンアで買ってきてよ。」
ジンヒョンがそう言って
俺とユンギヒョンの手を引いた。
助かった。俺はこんな形で終わるなんて思ってはいなかったけど、覚悟していたことだからそこまでダメージはない。
みんなの同情の視線が痛くて、一刻も早くこの場から離れたいところだった。
珍しく抵抗しないユンギヒョンをいいことに、そのままドアに向かおうとすると反対の手を引かれた。
「っ、どうしたの?グガ。」
「…いや、僕コーラがいいなって、」
「あ、うん。分かった。」
返事をしたはずなのに、一向に手が離される気配がしない。その意図が分からずさらに混乱する。
「…グガ、離してやらないと行けないだろ?」
「…あぁ、うん。」
ユンギヒョンがそう言うと、握られていた手が名残惜しそうに離れていった。そのままユンギヒョンに引かれるようにドアへ向かうと、不安そうなジミンと目が合った。大丈夫、の意味を込めてにこりと笑うと、更に泣きそうな顔になったけど、話す間もなくドアの外まで手を引かれた。
引かれるまま販売機まで着いたけど、このままあの部屋に戻るなんて出来ない。なにか引っかかる事もあるし…。
ヒョンには申し訳ないけど、1人で先に帰らせてもらおう。そう思って口を開こうとすると、ヒョンの足が止まった。
「ヒョン、?」
くるりと振り返ったヒョンの目には、悲しみ、そして怒りの色が見えた。
悲しみは分かる。
でも、怒りはなぜ?
混乱している頭では何も考えられず、ヒョンが何か言うのを待つことにした。
「…このまま俺と帰るか?」
「えっ、」
「そのつもりだったんだろ?」
帰ろうとは思ってたけど…
まさかヒョンも一緒とまでは思ってなかった。
確かに今一人でいたくはないけど。
上手な返しが見つからず、視界に入ったヒョンが買ったコーラを指さす。
「…でも、飲み物は?」
「それなら心配ない。…なあ?ジョングガ。」
「えっ」
ヒョンの視線の先を辿ると、ジョングクが立っていた。俺たちを見つめる瞳からものすごく殺気を感じるのは気のせいだろうか。
「ヒョン達が遅いから待てなくて。」
そうやってにっこりと笑うジョングクはまるで、昔に戻った様だった。違う。何か見落としている気がする。それに、俺たちの様子を見に来るだけだったら、ジミンとかに頼めば良かったのになんでわざわざジョングクが来たんだ?
そんな事を考えている間に、俺の目の前にジョングクが来ていた。
「早く戻りましょう?テヒョニヒョン。」
そう差し出された手を取ってはいけない気がして、戸惑っているとユンギヒョンがコーラを置いて渡した。
「…お前何を企んでる?」
「ははっ、どういう事ですか?」
「テヒョンアに近づくな。
もう<記憶がない>んだろ?
まさか、それを利用してまたあいつに愛されようとでも思ってんのか?」
「…っ、」
2人で何かをボソボソと話している。
ニコニコと笑っていたジョングクの顔が一瞬で真顔になった。その表情は事故に遭う前の彼がよく俺に向けていた表情だった。
「ねえ、テヒョニヒョン。」
その表情のままユンギヒョンから視線を逸らすことなく、俺の名前を呼んだ。
怖くて思わずユンギヒョンと繋いでいた手に力が入った。そんな俺の手を大丈夫、と言っているかような強さで握り返してくれた。
(ありがとう、ヒョン)
1度深呼吸をしてジョングクと視線を合わせると、にっこりと可愛い笑みを浮かべた。
「また来てくれますか?」
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