短編集
~♪♪
予め掛けておいたアラームを止める。
「もうそんな時間か、」
作業をしていた手を止め、そのまま腕を上に伸ばし大きく欠伸をした。
ヘッドホンを外しベッドに座ると、ピッピッピッとリズムよくロックが解除される音が聞こえてくる。それだけで誰が来たかわかってしまう俺は重症だろう。
ニヤけそうになるのを我慢して、甘めに作られた珈琲に口を付けると、ガチャリとドアが開かれた。
「ヒョーン!」
くるりと振り向くと、風呂上がりで髪が濡れているテヒョンが立っていた。
9時になったらテヒョンが濡れた髪の毛とともにドライヤーを片手に、俺の作業室を訪ねるようになったのはいつからだろうか。
気づけば当たり前のように俺のところに来て、たわいもない話をして、一緒に眠る。
ただそれだけの事なのに、幸せだと思ってしまうのはテヒョンだからだろうか。
そんな事はもちろん口に出す訳もなく、今日もいつもの様に出来るだけ優しい声で彼の名を口にする。
「おいで。」そう笑いながらテヒョンを自分のほうに手招きすると、嬉しそうに近づいてきた。
本当に素直で可愛いなこいつ。
背を向けられているのをいい事に、つい緩んだ口元をそのままにして、肩にかかっているタオルで、濡れている髪の毛を優しく拭いていく。
「ねぇー、ひょーん。」
「ん?」
「質問なんですけど〜、俺って果物に例えたらなんだと思います?」
「んー、いちご、とか?」
「へ、へぇ〜!」
「…なんだよ。」
「い、いや!なんでもない!」
「なんか意味あんの?」
「っ、内緒!」
「ふは、なんだそれ。」
次はドライヤーに切りかえ、慣れた手つきで風邪を当てていく。
気分が良くなったのか鼻歌を歌っているテヒョンを他所に、俺は数日前のジニヒョンとの会話を思い出していた。
「え〜!!そんなのテヒョンもユンギのこと好きなんじゃないの〜?」
「いや、でもただの気まぐれかもしれないじゃないですか。」
ジニヒョンはメンバー内で唯一俺のテヒョンへの想いに気付いている人だ。
同じ部屋ということもあり、よく相談をしていた。
最近テヒョンがよく作業室に訪れて、そのまま一緒に寝たりしていると話すと、さっきのセリフを吐かれた。
もし本当にテヒョンも俺の事が好きなのだとしたら、これ以上嬉しいことは無い。
だけど、相手は人懐っこいテヒョンだ。
ただの気まぐれで俺のところに来ている、というのも有り得る。
テヒョンの事になるとどうも自信を無くしてしまう俺を見かねて、ジニヒョンがある提案をしてきた。
「じゃあ、心理テストでもしてみたら?」
「……は?」
正直馬鹿なんじゃないかと思った。
そんなガキみたいなのを俺がする訳ないじゃないか、と。
そんな思いも乗せてジニヒョンを見るけど、当の本人は至って真剣な表情をしていたため、諦めて話を聞くことにした。
「好きな人にする心理テスト…
うーん、あ!これなんかどう?」
そう言って提案されたのが、まさにさっきテヒョンが俺に言ってきたものだった。
「それで何が分かるんですか。」
「えっとね〜
選択肢が4つあって、
リンゴは肉体関係になりたい。
メロンは尊敬。
ぶどうは友達。
そしてイチゴは…」
テヒョンがこの質問をしてきたということは、自惚れてもいいのだろうか。
さっきの鼻歌も俺の答えを聞いたからだとしたら?それなら、俺は…
乾かし終えた髪の毛をサラリと撫でると、それに気づいたテヒョンが、くるりと振り返る。
「へへ、いつもありがとヒョン。」
「ん。」
「じゃあ俺ドライヤー戻してくるね。」
そう言って立ち上がったテヒョンの腕を掴む。
「待って。」
「…ん?」
「俺もお前に質問があるんだけど。」
「うん?何ですか?」
「もし俺がお前の事好きだって言ったらどうする?」
「……へ?」
一気に顔が赤くなるテヒョン。
「ははっ、真っ赤だな。」
「〜!ヒョンからかわないでよ。」
「からかってない。」
「え?」
掴んでいた手を引くと、俺の膝の上で向かい合わせになる。
「好きだよ。テヒョンア。」
「…本当に?」
「うん。」
「へへ、嬉しい。
俺もずっとヒョンのこと好きだった。」
「付き合ってくれる?」
「うん!喜んで!」
そう言って笑うテヒョンの唇に、自分の唇を重ねた。
初めてのキスはイチゴの味がした。
『イチゴは恋愛感情がある。って意味らしいよ。』
******
「ジニヒョーン!」
「お、テヒョンア。どうだった?
って聞かなくても分かりそうだけど。」
「えへへ。お陰様で付き合うことになりました!本当にありがとうヒョン!」
「やー!良かったな!」
「ふふ、本当にありがとう!
あ、じゃあ俺行かないと!」
バタバタと嵐のように去って行ったテヒョン。するとピコンと携帯にメッセージが届いた。
「はは、あいつらしいな。」
[テヒョンアと付き合いました。]
[ありがとうヒョン。]
お祝いにご馳走でも作ろうかな、なんて思うソクジンだった。