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短編集




俺の好きな人は厄介だ。

恋愛ドラマや映画でたまに見かける台詞。
"好きなのに好きだと伝えられなくて辛い"
今まではなんとも思っていなかったその台詞が、ようやく理解できる。
あの時の主人公もこんな気持ちだったのかな。

そんなことを思いながら、俺の気持ちを知らずに楽しそうに話をしている彼を見ていると、俺の視線に気づいたようで視線をこちらへ向けた彼と目が合う。

やばい。直ぐに逸らすも、手遅れのようでスキップでもしているかのような軽い足音が近づいてくる。


「グーガ♡」

「……なんですか。テヒョニヒョン。」

「んふ、今俺の事見てたでしょ?」


満面の笑みで聞いてくる彼は、控えめに言ってめちゃくちゃ可愛い。
今すぐ抱きしめて、好きだと伝えたい。

まあ、そんなことできる訳もなく、視線を逸らして冷たい態度を取る。


「見るわけないでしょう?
俺、ジミニヒョンに用があるんで、離れてくれます?」

「…グガ。」

「…なんですか。」

「今日一緒に映画見ない?」

「あー、俺今日はちょっと疲れてるんで。」

「…最近俺に冷たくない?」

「普通だと思いますけど。」

「…そう。」

「…じゃあ、行きますね。」


少し悲しそうな顔をした彼の横を通り過ぎ、はぁ、と溜息をつきながら部屋のベッドに寝転がる。

俺がテヒョニヒョンに冷たくするのには理由がある。

テヒョニヒョン自分は好き好き言うくせに、相手がその気になって同じように好きだと返されると、一気に嫌いになってしまう。そういう人なんだ。

そしてこれが、俺が悩んでいる彼の厄介なところだ。

このことを知ったのは数日前、ジミニヒョンの部屋から聞こえてきた2人の話し声をたまたま聞いてしまったのだ。


「そういえばさあ、最近ミンジェと会ってる?」

「会ってないよ。」

「ふぅん。何かあったの?
前まであんなに仲良くしてたのに。」

「だって、告白されてさ。」

「…え?」

「はは、ビックリするよね〜。」

「や、でも、お前ミンジェのこと好きって言ってなかった?」

「うん、友達として好きだったよ。」

「…はぁ、なるほどな。
勘違いされちゃったって事か。」

「そういう事。」

「確かにそれは会うの気まづいな…」

「それもあるんだけど、なんか俺告白されて、こんなこと言ったら最低だと思うけど…」

「なに?」

「なんか、なんて言ったら良いのかな。」

「ん?」

「自分でもよくわからないんだ。
それまでどうも思わなかったのに、好きだって言われた瞬間、あ、無理。ってなっちゃって。」

「…なんか分かるかも。」


そこからどうやって自分の部屋に戻ったのかは覚えてないけど、気が付いたら今みたいにベッドの上に寝転がっていた。

混乱する頭の中で俺が出した答えは、何があってもヒョンに好きだと言わないこと。
そう自分に誓い、眠れない夜が明けるのを待った。



あの日から俺はテヒョニヒョンと必要最低限は関わらないようにしていた。


これ以上好きにならないように。


それなのに、俺が離れようとすればするほど、ヒョンは俺に構ってくる回数が増える。そのお陰で日々すきが募るばかりだ。


「はぁ、」


もう、自分でもどうしたらいいのか分からない。なんて途方に暮れていると、コンコンと部屋のドアがなる。


「はい?」

「俺、テヒョン。」

「え?」

「入っていい?」

「ど、どうぞ。」


さっきまでの明るい姿とは裏腹に、なんだか元気のなさそうなテヒョニヒョン。


「急にごめんね?」

「いや、何かあったんですか?」

「うん、あの、グクに聞きたいことがあって。」

「聞きたいこと?」

「うん。
あのね、グクは…」

「…」

「…」

「?俺がなんですか?」



「俺のこと嫌い?」


え?
予想もしていなかったことを言われ、思わず固まる。
俺がヒョンを嫌いだって?
そんなこと絶対にあるはずがないのに。

いや待てよ。
もしここで勢いに任せて好きだと伝えてしまったら?俺もミンジェさんと同じになってしまう?それだけは絶対嫌だ。

そらなら、俺は…


「…グガ?」

「あっ、すいません。
ビックリしちゃって。」

「ううん、で?」

「ヒョンは馬鹿だね。
ヒョンを嫌いなはずないでしょう?」


「っ!じゃあ俺の「大切なメンバーだもん。嫌いになんてなるわけないじゃないですか。」ぇ、」


そう、これでいいんだ。
貴方への想いを隠したままで。
その方が嫌われるよりずっとましだ。

想いがバレないように急ぎ口で伝えた言葉に、ヒョンからの反応がなく、ちらりと顔を見る。え、なんで。


「…な、いてるの?」

「っ!ごめん、今の話無かったことにして。」

「え、ちょ、ヒョン?」


バッと立ち上がりそのまま俺の部屋を後にするヒョン。
なんで?なんでヒョンは泣いてた?
俺はなにか間違えてしまったの?
あなたを好きと伝えたら何か変わっていたの?

そんなことを考えて動けずにいると、入れ替わりで誰かが入ってきた。


「おい!グガ!!」

「ジミニヒョン…」

「お前テヒョンアになにした、
って、なんでお前まで泣きそうなの?」


もう藁にもすがる思いで、今までの出来事を全てジミニヒョンに話した。



「はあー、なるほど。」

「俺、どうしたら良かったんですか。」

「お前俺らのあの日の会話最後まで聞いてなかったろ?」

「多分聞いてないと思います。」

「だろうね。聞いてたらこんな事にはなってなさそうだもんね。」

「さっぱり意味がわからないんですけど。」

「じゃあ問題。
テヒョンアがミンジェに告白されて無理だって思った理由はなんでしょう?」

「性格的な問題じゃないんですか?」

「はは、残念。
やっぱりアイツじゃないと無理って思ったんだって。」

「?」

それって、どういうこと?
ヒョンには好きな人がいた?

「次の問題。
最近そのアイツが自分にだけ冷たいんだと落ち込んで、俺に相談しに来ました。
そのアイツとは誰のことでしょう?」

「っ!!」

「俺の予想ではそのアイツもテヒョンアのことが好きなんだと思うけど…
なあ?ジョングガ?」

「っ、俺行ってきます!」

「うん、頑張れ。」



宿舎を飛び出して、走りながらヒョンに電話をかける。

しばらく流れる呼び出し音に、やっぱり出てくれないか、と諦めて切ろうとすると、呼び出し音が止まった。

「……………なに。」

「ヒョン!俺、ヒョンに伝えたいことが!!今どこですか!」

「俺とお前の好きな場所。」

そう言って切られた電話。

俺とヒョンの好きな場所…
そうか!あそこか!

急いでヒョンの所へ走って向かう。


******


ベンチに座る人影が見えて、直ぐにそれがテヒョニヒョンだと気づいた。
ゆっくり近寄り後ろから抱きしめる。


「覚えてたんだ。」

「…ヒョンとの思い出を忘れるわけない。」

「大切なメンバーだ「メンバーだからじゃない。」…え?」

「今まで冷たい態度とってすいません。
俺、怖かったんです。」

「怖かった?」

「うん。
いつかヒョンのことを1人の男として好きなことがバレて、ミンジェさんと同じようになってしまうんじゃないかって。」

「えっ、なんで知って…
それに俺の事好きって、え?」

「あの日ジミニヒョンと話してるの聞こえちゃって。盗み聞きしてごめんなさい。
でも最後までは聞いてなくて、だから、ヒョンに質問があるんです。」

「…なに?」

「ミンジェさんを無理って思ったのはなんでですか?」

「…っ、知ってるんでしょ。」

「ジミニヒョンから聞いたんですけど、やっぱりテヒョニヒョンから聞けないと信じられなくて。ねえ、ヒョンなんで?」

「お前じゃないと嫌だったの!
付き合って手を繋いだり、キスしたり、そういうのは全部お前とじゃないと無理だって、……そう思ったの。」

「っ、ヒョン。」

「…なに、」

振り向いた顔が可愛くて、外だとか関係なしに唇を重ねた。


「っ!グガ!?」

「愛してます。
俺と付き合ってくれますか?」

「…うん。よろしくお願いします。」

そう言って微笑んだテヒョニヒョンは、今まで見てきた中で1番綺麗だった。
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