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短編集

みんなで夕食を食べている時、ユンギヒョンの指先がちょこんと触れた。

"作業室に来い"

の合図だ。

ちらりと横を見ると、向こうもこちらを見つめていた。恥ずかしくなり慌てて逸らすと、横からふっと笑ったような気配がした。そんなヒョンにときめいてるなんて、知らないでしょ?いや、知られたらいけないんだ。

だってヒョンには好きな人が居るもん。


だから俺に悲しむ権利はない。
俺達はただのセフレなんだから。


ヒョンの欲がたまった時だけ呼ばれる。
身体を重ねて満足したら終わり。
事後の恋人らしい甘い雰囲気や、イチャイチャなんてない。ましてやキスなんてした事ない。

もしかしたらそういう人なのかと思って、前に1度セックスが終わり、着替えている途中でナチュラルに聞いてみたことがある。

「ヒョンって好きな人いるの?」

一瞬驚いた顔をしたけど、直ぐにいつもの表情に戻り、少し不機嫌そうに答えた。

「そりゃあいるけど。」

「そっか、」

「好きなやつがいる俺とはヤりたくない?」

「ううん、俺も好きな人いるから。」


あ、何言ってんだ。そう思った時には遅くて、ちらりとヒョンの顔を見ると、先程よりも不機嫌そうな顔をしていた。あ、良かった。ヒョンが好きだってバレた訳じゃなさそう。なんて別の方で安心していた俺は、なんでヒョンが不機嫌なのかは特には気にしなかった。


「…………あっそ。」

「…じゃあ行くね。」


そう言ってユンギヒョンの作業から出たとん、涙が止まらなくなったのは今でも覚えている。
俺、失恋したんだ。


その日を境に忙しくない日はほとんど毎日のように、作業室に呼ばれている気がする。不思議に思いながら湯船に浸かっていると、ガラリと浴槽のドアが開いた。


「…え?」

「あ!ヒョン入ってたの?」

「お前ちゃんと確認してから入ってくれない?」

「パジャマ置いてた?」

「…………あ、れ?」

「…。」

「ご、ごめんって。
ほら、久しぶりに一緒に入ろ?」


こてんと首を傾げながらジョングクを見つめる。(俺のこの仕草に弱いとジミナが言っていた)

「もう。」

なんて起こった口調ではあるけど、顔がにやけてるのみえてるからね。それをかき消すかのようにシャワーを浴び、ぎゅうぎゅうに2人で湯船に浸かる。


「「…狭いね。」」


そう言って笑い合う。するとジョングクの視線が俺の首元へと移動した。なんだろう。ちらりとジョングクの視線をたどると、赤い跡が付いていた。


「…これ、」

「っ、え、あ、違うの!」

「何が、?」

「っ、近いよ、」

「…ねぇ、俺も付けていい?」

「……へ?」


反対側の首元にピリッとした痛みを感じた。
そのまま視線だけを俺へと向けたジョングクの顔が近づいてきて、そのまま唇が重ねられた。


「ん、やっぱりヒョンの唇は甘いね。」

「…な、にそれ。」

「あはは、真っ赤だよ。」

「…っ!逆上せただけ!もう上がるから!」

「じゃあ俺も上がろ〜。」


そう言って後ろから付いてくるジョングク。
綺麗に畳まれているパジャマに着替える。あれ?


「俺のパジャマあるじゃん。」

「…えへ。」

「おい。」

「たまにはいいでしょ?
ほら髪の毛乾かしてあげるから許して?」

「…全く。丁寧にしてよね。」

「はいはい、お姫様。」


ふわふわと頭を撫でられるように扱われ、思わず眠ってしまいそうになる。あぁ、もう今日はこのまま眠ってしまおうか。どうせヒョンの所へ行っても辛くなるだけだし。うん、そうしよう。『今日は行きません。』そう送信して、ゆっくり目を閉じる。


「ふふ、眠くなったの?可愛い。」

「んー。」

「一緒に寝る?」

「んー。」

「ふふ、もう1回チューしていい?」

「んー。……ん?」


ドライヤーを片付けて再び俺に近づいて来るジョングク。そのまま目を閉じていると、ぐいっと腕を引っ張られる。明らかにジョングクの男らしい手とは違い、綺麗な手が視界に入り、一気に目が覚める。


「…何してんの。」

「あーあ、テヒョニヒョン取られた。」

「っち、」

「はいはい、俺は部屋に戻りますよ。
ヒョン一緒に寝るのはまた今度ね?」

清々しく去っていったジョングク。
今の状況をよく把握出来てない俺と、明らかに怒っているユンギヒョン。何がどうしてこうなった?


「…あいつなの?」

「…え?」

「好きなやつ、」

「………それ聞いてどうするの。」

「…。」


ユンギヒョンは都合が悪くなると黙り込む。
まぁ、分かってたけどね。
小さくため息をついて、口をひらく。

「もうやめよう俺達。
こんなのお互いのためにならないよ。」


掴まれていた腕を下ろそうとすると、さらにぎゅうっと力強く握られた。


「いっ、」

「ふざけんなよ…」

「っ、」

ぐいっとヒョンの顔が近づいたかと思うと、唇に柔らかいものが触れた。俺、ヒョンにキスされてる…?


ぐいっと肩を押しても鍛えてない俺の力ではビクともせず、角度を変えて何度も唇を重ねられる。さすがに息が出来なくなって、酸素を求めるために開いた口の隙間から、舌が滑り込んできた。やっと唇が離され、肩で息をする。

「なんで、こんな、、」

「後は?」

「へ、?」

「あとは何された。」

「…。」

「キスマーク、ねぇ、」


ぐいっとパジャマのボタンを外され、先程ジョングクが付けたのであろうキスマークの上を、指でなぞられる。その上に唇を這わせるヒョン。


「っや、」

「っ、んでだよ、」

そう言って俺を床に押し倒すと、今までに見た事のない表情をしていた。まるでなにかに苦しんでいるような、辛そうな表情。

「何回お前を抱いたら、俺はあいつに勝てんの。どうやったらお前は俺を好きになってくれんの。なぁ、俺はどうしたらいい?」

「…ぇ、」

「テヒョンア、好きなんだよ。お前が。」

「嘘、だ、」

「こんな嘘つかねぇよ。」

「だって、好きな人いるって…」

「お前のことだけど。」

「今までにチューして来なかったのは?」

「ちゃんと付き合えてからしようと思って。」

「セックスの後、いつもすぐに追い出すのは?」

「それは…」

「何…?」

「もう1回したくなるから。」

「っ!!」

「ふ、真っ赤だな。」

「!!!」

「…可愛い。」


そう言って今度は触れるだけのキスを落とされる。ああっもう!

「っ好き!」

「…へ?」

「俺好きなの!」

「…ああ、ジョン「ユンギヒョンが!」…え?」

「俺ずっとヒョンが好きだよ。」

「……は?え?嘘…。」


未だに動揺しているヒョンが可笑しくて、お返しにちゅっと触れるだけのキスをすると、みるみる顔が赤くなった。


「え、ヒョン顔「見んな。まじで。」え?」

「や、今本当にやばいから。
まじで見ないで。頼むから。」

「え?え?」

戸惑いつつもちらりと見えたヒョンの口元がいつも以上に上がっていたので、嬉しいんだと捉えることにした。


暫くして落ち着きを取り戻したヒョンが、真剣な顔をして俺の方を振り返った。

「テヒョンア、俺の恋人になってくれるか?」

「…っ!喜んで!」

そう答えると嬉しそうに微笑み、ゆっくりと腕を広げられ、その腕の中に飛び込むと、パチパチパチと拍手音が聞こえてきた。え、なんで?


「いやぁ、良かった良かった。」

「本当に良かった。」

「ジョングクナイスアシスト!」

「まぁ俺の手にかかればこんなもんですよ。」

「まぁテヒョンアにチューしたことに関しては、後で俺の部屋な。」

「お前のじゃねえ「あ"?」全力で行きます!」


「や、待って、なんでみんな居るの…?」




「「「「「ここ風呂場。」」」」」


「「…あ。」」


こうして、メンバー公認のカップルになりました。



fin.
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