短編集
「今日はここまで!」
その一言と共に皆一斉に床にへたり込んだ。
ここ最近悩みの種のせいで寝不足になっていた俺は、1人静かに壁に寄りかかり、寝不足の原因である人物を遠くから眺める。
少し遠くでタオルで汗を拭いている彼に、2人分の水分を手に取ったジョンハニヒョンが自然と彼の横に座り、ウジヒョンがいつものように背中から抱きついている。
その流れでウジヒョンに抱きつこうとして、激しく拒否されて床に転がったホシヒョンを見て、隣にいるチャニと爆笑している。
続いてミンギュヒョンが彼の前髪を整えたり、スンチョリチョンからおやつをもらったり、それをジュニヒョンにもあげたりと、気づけば彼の周りにはいつも人が集まっている。
メンバー同士仲がいいのはとてもいい事だし、彼と話したり近くにいるだけで落ち着くのも分かる。
なんたって自分がそうなのだから。
それなのに、彼が自分以外の誰かと楽しそうに話をしているこの光景に、毎回黒い感情を持ってしまう自分がいる。これが最近の悩みだ。
彼が関わっている時だけこの感情が顔を出す。
ホシヒョンと距離近すぎるんじゃない?
なんで俺といる時より楽しそうに笑うの。
なんで俺が居なくても平気なの。
そんな感情に飲み込まれそうになっていると、「スングァナ!」と明るい声が聞こえてくる。
ハッと顔を上げると、ニコニコしながら俺を手招きしている彼。先程の黒い感情が消え、その綺麗な手に吸い寄せられるように、みんなの輪の中に入った。
「どうしたの?ドギョミヒョン。」
「口開けて??」
「…っえ?」
思いもよらない言葉にぽかんとしていると、そのまま口に何かを入れられる。
えっ、なに?一瞬驚いたけど、直ぐに甘い味が口いっぱいに広がる。これ凄く…
「お前が好きな味、でしょ?」
「っ、うん。よくわかったね。」
「ふふ、少しは元気出た?」
「…へ?」
「最近元気なかったから…」
気付いてたんだ…
ぶわぁ、となんとも言えない気持ちが溢れてくる。
ああ、やっぱりこの気持ちは…
「…こい、」
「えっよく分かったね!」
ボソリと出てしまった言葉に慌てて口を抑えると、急に隣にいたジュニヒョンが大きい声を出して、さっき食べたのだろうお菓子の袋を見せてくれる。
「ほら、これ【甘い恋の味】なんだよ!」
キャー!青春!!なんてジュニヒョンが騒いでいるけど、それどころじゃなかった。
ちらりとドギョミヒョンを見ると
一瞬キョトンとした顔をして、ニコリといつもの微笑みをくれた。
胸いっぱいにさっきのお菓子の味が広がった気がした。
-おまけ
黒い感情の正体を自覚し、悩みも解決された為、そのままみんなの輪の中で休憩をすることにした。
「恋の味!?ドギョマ!俺にも!」
「ん?」
「あーんして!」
「ホシ調子乗んな。
お前はこれでも食っとけ。」
「うげっ、なにこれ、まっず!」
「ふん、そういえばドギョマ、今日の夜暇?
お前が好きそうな店見つけたんだけど。」
「えー!!ウジヒョン昼も行ってたじゃん。
それより、ドギョマここ行きたいって言ってたろ?
予約取れそうなんだけど今日行かない?」
「ミンギュ邪魔すんな。」
そうだった、忘れていた。
ここにはライバルが多すぎるのだ。
よし、と意気込んで争いに参加した。
「ヒョン、久しぶりに✗✗✗店に行かない?」
そう言った俺を見て、驚いたあと嬉しそうに頷いた。
実は両思いだったことに気づくのはもう少し先のお話。
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