短編集
綺麗な夕日の写真を眺めながらため息をついた。
「ボノニも同じ写真撮ってたんだ〜!」なんて嬉しそうにしているスングァンに、「実は俺もその写真撮ってたんだ。」なんて言えなかった。
その場所に居るのがなんだか辛くて、自分の部屋に戻りベッドにそのままダイブした。そのまましばらくして携帯を取り、撮っていた写真を削除しようとした手を掴まれる。
「っ、!?」
「なんで消すの?」
「ウ、ジヒョン、居たんですか。」
「消すぐらいなら俺に頂戴。」
「や、でもスングァンとかの方が綺麗に取れてると思いますよ?」
「俺はお前のが良いって言ってんの。」
「?」
「ほら貸して。」
「…あっ、ちょ、」
手に持っていた携帯を奪われ、勝手に操作をされる。写真を送信しているだけだろうと思い、特に気にせず終わるのを待った。数分後に「出来た。」そう言って差し出された携帯を受け取る。
「そう言えばヒョン何か用事があったんですか?」
「あぁ、夜食外に食いに行かね?」
「え!!行き、…あ、やっぱりいいです。
皆で楽しんできてください。」
「皆って誰だよ、お前しか誘ってないのに。」
「へ、」
「ほら行くぞ。」
「あ、はい。」
俺しか誘ってないってどういう事?
…俺何かやらかしちゃた?
「あ、別にお前が何かやらかした訳とかじゃないから。」
「………エスパー?」
「馬鹿なこと言ってると置いてくぞ。」
「あ、ヒョン、待って!」
慌ててヒョンを追いかけると、「あれ?2人でどこか行くんですか?」とスングァンの声が聞こえた。今はあまり話したくなかった俺はヒョンの後ろに隠れた。
「ん、ちょっと出掛ける。」
「…こんな時間に?」
「すぐ帰ってくる。」
「…そう、ですか。」
「じゃあ行ってくる。」
「…はい。」
歩き出したヒョンについて行くように、スングァンの方を一切見ずに宿舎を出た。
「案外涼しいな。」
「夜だからですかね?」
「かもな。」
「なんで今日は俺だけなんですか?」
「んー?何となくだよ。」
「そうですか。」
そこからは深く追求せずにヒョンとの食事を楽しんだ。少しお酒も飲んで、いい感じに酔っ払ってきた俺は、さっきまで悩んでいた事を口にした。
「ねぇ、ヒョン俺、スングァナと別れた方がいいのかなぁ?」
「…なんで?」
「だって、スングァナ、絶対俺より、ボノナのことが、好き、だもん。」
「そう?」
「そうだよ、だってずっとボノナばっかり、」
「なら俺と付き合う?」
「……へ、?」
「俺なら絶対にお前を泣かせたりしないけど。」
「あ、はは、ヒョンも酔っ払ってるの?」
「俺コーラしか飲んでないけど。」
「え、」
「まあ考えといて。」
「ヒョンは、俺の事好きなの?」
「じゃなきゃ告白しないだろ。」
「あ、そっか、」
「弱ってるところに漬け込むのはずるいって分かってるけど、今しかチャンスないだろ?」
「っ、」
「お前次その顔したらキスすんぞ。」
「へっ!?」
「なーんてな、流石にそこまではしない。」
「も、からかわないで下さいよ…」
「お前が好きなのは冗談じゃないから。」
「…。」
「それだけは覚えといて。」
「…うん。」
そう返事をした所で、ヒョンの携帯にメッセージが届いた。
「はは、そろそろ帰らなきゃだな。」
携帯の画面を俺に見せるヒョン。
メッセージの相手はスングァンだった。
[ヒョン。]
[ちょっと遅いんじゃないですか?]
そんなスングァンのメッセージにも驚いたけど、ヒョンの待ち受けの方にもっと驚いた。
「ヒョンそれ、」
「ああ、綺麗だったから。
ついでにお前のも変えといた。」
「え!」
そう言って携帯を見ると自分の方にもスングァンから、起きて待ってます、とだけメッセージが来ていた。
いつもはこんなこと言わないくせに、なんで今日に限って。急に心臓の音が早くなり始めた。そのメッセージに焦りすぎて、待ち受け画面の事なんて忘れていた。
時間も時間だったため、お会計をしてお店から出ると、酔って転びそうになった俺の手を掴んだウジヒョン。
宿舎に着くまでその手は離されることはなかった。たったそれだけの事なのに、心臓が早く動いているのはお酒のせいだろうか。
手を繋いだままリビングのドアを開けると、スングァンが立っていた。そして視線が俺たちの繋がれた手へと移動する。慌てて離そうとする俺と、逆に力を入れてぎゅうと握りしめてくるウジヒョン。
「そんなに心配しなくても、ちゃんと帰ってきただろ?」
「…手、いつまで握ってるんですか。」
「あぁ、忘れてた。」
そう言って手を離して、そのまま俺の頭を優しく撫でるヒョン。
「ソクミナ、返事考えといて。」
「…あ、はい。」
「んじゃ、俺は寝るわ。」
「お休みなさい。」
「お休み。」そう言って去っていたウジヒョン。そしてリビングには俺とスングァンのふたりきりになる。
「…返事ってなに?」
「…お前には関係ないから。」
「…そうですか。
でもヒョン僕に言うことがあるんじゃないですか?」
「…っ、」
気付いてたの?俺がお前との関係を終わらせた方がいいかもしれないって思っている事に。そっか、それなら話は早い。ゆっくりと口を開いた。
「…俺たち別れよ?」
「………え?」
「え?」
「今、なんて言ったの?」
「だから、別れようって。」
「あはは、なんの冗談?」
「俺、本気だよ?」
「…なんで?急にそんな事言うの?」
「急じゃない。ずっと思ってた。お前は俺よりもボノニの事が好きなんだろうなって。でもなかなか言い出せなくてごめんね。でももう大丈夫だから。もう無理して俺と付き合わなくていいから。だから、「ヒョンはなんにも分かってない。」…え?」
「もちろんハンソラの事は好きだよ?でも友達としてであって、キスしたいとか触れたいとか思ったこともないし、他の人と2人で食事に行ったってなんにも思わない。ヒョンだから遅くまで待ってたんじゃん。それにもう大丈夫ってなに?もうヒョンは僕の事好きじゃなくなったの?ウジヒョンの方が良くなった?もう僕はいらないの?」
上手く言葉が見つからず首を横に振る。するとふわりと抱きしめられた。
「お願いだから別れようなんて簡単に言わないで。僕ヒョンがいないと死んじゃう。」
「…俺だって、お前がいないとっ、」
「うん、ごめんね。
そんな答えになっちゃうぐらい、ヒョンに辛い思いさせてたんだね。」
「ぅ、スングァナ、」
「ヒョン好きだよ。」
「俺も、大好き、」
******
「あの、ウジヒョン、」
「ん〜?」
「この前の、」
「なんかあったっけ?
俺酔ってて覚えてないんだけど。」
「あ、そうですか。
(あれ、お酒飲んでたっけ)
ならいいです。」
「んで、お前ら仲直りしたのか?」
「はい!」
「良かったな。」
そう言って頭を撫でられる。その裏で誰かにメッセージを送っているヒョン。
[次泣かせたら、本気で奪うから。]
すると、いきなりスングァンがこっちに近づいてきて、俺の隣に腰を下ろした。
「望むところですよ。」
俺を挟んで微笑みあってる2人の空気が何だか怖くて、「あの、俺トイレに行ってくるね。」と声を掛けてその場から離れた。
「てかウジヒョンもだったなんて…」
「…"も"って事は、」
「モテる恋人持つと大変ですよ。」
「あいつは大丈夫なわけ?」
そう言って指をさした先には、ホシがドギョムを後ろから抱きしめていた。
「大丈夫じゃない!!
あーもう!ホシヒョン!!」
そう言ってまた走っていくスングァン。
そんなモテる恋人はお前しか見えてないのにな。そんな事を思いながらウジはクスリと笑った。