MiR
「っ、てめぇ、調子にのんなよ!!」
そう言って俺の顔をめがけて伸びてきた腕をするりと交わし、鳩尾に拳をねじ込んだ。
「ぐはっ、」という声に混じって、俺の顔にビチャッと汚いものが飛んできた。
それが気に食わず更に何発か蹴りを入れると、大人しくなったそいつは、ゔぅ、と呻き声をもらし地面に跪いた。
「お前の方が調子にのんなよ?」
そう言ってそいつの頭を足で地面に押し付ける。
「あ゛、ゔ、、、」
「はは、なんて言ってんの?」
「た、た、、す、け、、」
「あんた馬鹿なの?
周り見てみなよ。周りの奴らも誰一人意識ないよ?あーあ、今回もつまらなかったなぁ。次はもっと楽しませてよ?
まああんたに次があるか分かんないけど、ね。」
そう言って足を高く振り上げ、頭を思いきり踏みつけた。また小さく呻き声をもらし動かなくなったのを確認して、この場を後にした。
「あー、くそ、」
返り血が所々着いている制服を見る。
新学期早々こんな格好で行ったら、また周りになんて言われるか…
たまたまポケットに入れていたハンカチで拭いてみるも、既に乾いた血はあまり取れそうにない。それでも何もしないよりはいいだろう。そう思い、必死に返り血と戦っているうちにいつの間にか学校の近くまで来てしまったようだ。
結局あまり落ちずこのまま今日はサボってやろうかと思ったけど、その事を知った教育熱心な父親が怒るとあとが面倒なので、諦めてそのまま校舎の中にはいった。
教室に入ると、一気に視線が向けられ、まじまじと頭からつま先までみられる。この瞬間だけは未だに慣れない。視線から逃げるようにして一番奥の窓側の席に座る。
「うわぁー、新学期早々朝から喧嘩?」
「やっぱりパク組の息子だよね。」
「怖ー。」
そんな声がボソボソと色んなところから聞こえてきて、はあ、と溜息を着くとピシャリと話していた声が止まった。
暫くして誰かが口を開くと、周りもなんともなかったかのように、休み中の課題やったかだの、テストがやばいだのたわいもない会話を繰り広げていた。
そんな光景をに少し羨まく思いつつ窓の外を眺める。
俺がもし、ヤクザの息子じゃなかったら皆と同じように過ごせていたのだろうか。
もし、普通の家庭で育ってれば楽しい高校生活を送れていたんだろうか。
まあそんな事って考えても無駄なだけだけど。
ふと窓に映る自分の顔に視線を移すと、頬に少し血が付いていた。ゴシゴシ擦るけどこれまた乾いてしまってるため、なかなか落ちない。これぐらいなら水で濡らせば落ちるだろう。そう思ってちらりと時計を見るとまだ時間に余裕はあったため、トイレで落とそうと教室から出ると、誰かにぶつかった。
「わ!ごめん!」
そいつは本当に申し訳なさそうな顔をして俺の方を見たかと思えば、途端に驚いたような表情に変わった。まあ、いつもの事だ。そのまま通り過ぎようとすると、グイッと腕を掴まれた。
「…え?」
「血!!ほっぺから血が出てるよ!!
大変!!保健室!あ、でも俺場所わかんないや。どうしよ。」
「いや、大丈夫だから。」
「っで、でも!!」
「大丈夫。俺の事は気にしなくていいから。それよりそっちは?怪我ない?」
「うん、俺は大丈夫!
あの、ぶつかっといてこんなこと聞くの失礼だと思うんだけど…」
「…何?」
「俺、今日からこの学校に通うことになったんだけど、職員室がわかんなくて…」
「…職員室?」
「うん!」
「この下の階の左から2番目だよ。」
「一個下の階だったか!ありがと!」
ふんわりと笑うそいつに何故かドキリとした。何だこれ。とりあえずこのままここに居たら危険だと思い、「じゃあ…」と誤魔化すように背を向けると、グイッと腕を掴まれた。
「ま、待って名前は??」
「いいから早く行きなよ。
先生とか待たせてるんじゃないの?」
「は!そうだった!
また次会ったら名前教えてね!金髪君!」
そう言って手を振り走っていった背中を見送る。
「はは、金髪君って、」
そう呟いてトイレへと向かった。
鏡の中に映った自分の口角が上がっているのを見てないふりをして、頬に付いていた血を洗い落とした。
綺麗に落ちたのを確認して、再び教室に戻る。再び窓側の一番奥の席に座ると同時に、ガラガラと教室のドアが開く音がした。
「はーい、みんな席に着いて。
今日は転校生を紹介します。」
転校生と言う言葉にまさかと思い視線を向けると、先程見たふんわりとした笑顔を浮かべたあいつが立っていた。女どもがキャーキャー言っている横で、俺は開いた口が塞がらなかった。
そんな事ってある?
ぽかんとして見ていると、俺に気づいたのかあー!!と声を上げて嬉しそうに近寄ってきた。
「金髪君!!さっきはありがと!!
俺キムテヒョン!
これからよろしくね!!!」
未だにぽかんとしている俺と
嬉しそうに俺の手を握るキムテヒョン
そしてその光景を不思議そうに見ている周り
この出会いが俺の人生を変えることになるだなんて、俺はまだ気付く由もなかった。
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