畑短編
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野良猫2
ガイに飲み屋に誘われ、ほろ酔いて家に帰ってきたら野良猫に窓ガラスを割られて侵入されていた。ガラスの破片はそこら中に散らばり、数日前に出ていったはずの野良猫はベットの上で好き勝手やっていてどうやら先日の俺への仕返しのような有様だった。案外リリーが図太くて安心した。
五代目によれば寄宿先の家族は父方の里へ引っ越すことになっていて、それをきっかけにリリーは一人暮らしを始める…予定だった。寄宿先の家族にはそう伝えてあるが実際は一人暮らしどころか、家も決めておらず、家なき野良猫は他人の家を転々としてたわけだ。数日間の間荷物も靴も置きっぱなしだったのにどこに行ってたんだか…報告の結果そこまで1人に干渉するのはもう止めた方が良いと仰る。確かに任務でも何でも無いのに干渉し過ぎるのもおかしな事だ。不安定なリリーを見ていると何故か自分が父を亡くした時の不安定な自分と少し重なったのを頭の隅に追いやった。
『また来たの』
「……」
無視
ああ、そう。
『家に上がるのは良いけどね、家に入ったからには俺の…』
ー…、男臭い匂いがする
リリーの匂いとは全く違う特有の男臭い匂いがカカシの鼻を突き無意識に顔を歪めた。それはリリーが纏っていたものでガソリンや煤の匂いにも似ている。その匂いで無意識にもカカシは嫌な想像をしてしまった。…分かってる。干渉するなって。ここで今すぐ荷物を持たせて追い出したって良いんだ。
『…とりあえず風呂入れば?臭いよ』
「…!」
それを聞いて顔を真っ赤にしたリリーはカカシを睨むと立ち上がり、ドタバタと苛立ちを足音に変えながら風呂場の方へ向かった。数秒後にシャワーの音が聞こえる。また言い方が嫌味になってしまい頭をかいた。リリーが置いて行った荷物には汚れた衣類や雑貨しかないのを思い出し適当なTシャツと短パンをタンスから取り出すと洗面台の所に置いて扉を閉める。今日だけ。今日だけは置いて…明日は追い出してもうこれ以上関わるのはよそう。
割られた窓ガラスを粘着テープでとりあえず補強し、破片を拾っているとリリーが置きっぱなしにしていた開かれたイチャイチャバイオレンスが目に入る。手に取って見るとちょうどガイが読んで鼻血を出した一番いい箇所だった。もうここまで読んでたのか。
ペラペラと読んでいると、風呂から上がったリリーはカカシの大きめのTシャツをワンピースのように着て下の短パンは履いていなかった。Tシャツの裾から伸びた白い脚が目に入る。髪が濡れたまま当たり前のようにカカシのベットへ潜り込んだ。
『…ちょっと、風邪引くよ』
「……」
次にカカシが風呂に入ろうとする時には風呂場はえらいことになっていた。あちこち脱ぎ捨てられた衣類に濡れた床に放置されたバスタオル。カカシの家は物がそんなに無いはずだが散乱し過ぎて酔いが覚めた。ここまで酷いと逆に構って欲しくてイタズラをしていたナルトを見ているようで笑ってしまう。
『…明日やろう、明日』
シャワーの後とっちらかってる風呂場を後にして寝室を見てみると、こんもりした布団が生き物のように呼吸で上下している。頭まで布団を被ったリリーが寝ているようだった。カカシはそれを確認して自分はソファで寝ようと通り過ぎようとすると脚の裾を引っ張られる。
「…寒い、こっちで寝て」
『いや、ダメでしょ』
「ガキは興味ないんでしょ。背中向いてれば」
『あー…ハイハイ』
もうなんだっていい、なんだって。早く寝てくれさえしたら、その後ゆっくり抜けてソファで寝よう。抗うのも疲れてリリーの距離をとって背中を向いて布団に入ると、俺のベットなのに生温くて変な感じ。1時間くらいしたら抜ければ良いかと目を閉じた。
何かの物音で目を開けると表情は見えないがリリーが泣いている声が聞こえた。寝返りを打って様子をみると夢にうなされて泣いている。リリーの肩を揺らすとピタリと静まり、カカシの方へゆっくり寝返りを打った。さっきまでの反抗的な尖った表情なんて何処にもない。弱々しい姿。
『なに泣いてんの』
「夢見てた」
『怖い夢でも?』
「私のパパね、私を抱き締めて死んだの。その夢ばかり見る。悪夢なんかじゃないの。私は…嬉しくて泣いてた」
九尾のあの事件の時里が一部崩壊した時に丁度家が崩れて家族は下敷きになった。下半身が潰された父は私を守ろうと抱き締めてくれていたが救助が遅れてそのまま冷たい石みたいになって呆気なく死んでしまった。当時は幼くて記憶も朧気なのに何故か数年経った今でも時々あの腕の中でただ強く抱き締められたいと思ってしまう。リリーは静かに泣きながらポツポツと話し始めた。無意識に父親を求めるけれど、他人には性的な目でしか見られない。分かっていてそれも利用した。それでも埋まらない心の穴。埋めようとすればするほど周りの状況が悪化していく。
「寄宿先のお母さんにね、あなたは夫を誘惑する悪い子だって…だから」
『…おいで』
夜空の雲が開け、月の光が頬を濡らしたリリーを照らした。カカシはリリーを抱き寄せて強く強く抱き締める。ベットが大きく軋んだ。痛いくらいのはずなのにリリーはもっとと求めるように強く抱き締め返した。体温が一緒に溶けて身体がくっ付いたような感覚になる。吐息とシーツが擦れる音が響いた。
「……ごめんなさい」
『いいよ』
リリーはしばらくカカシの腕の中で泣いていたが眠りについたのを確認するとカカシも一緒に目を閉じる。そんな夢見なければいい。そう思って強く抱き締めた。2人だけの穏やかな世界がそこにあった。
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