畑短編
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野良猫
コンコン、コンコンコン
夕暮れ、カカシはベットで横になりながら愛読書のイチャイチャタクティクスを読んでいた。待ちに待った3年ぶりの最新作でナルトから受け取った時はいても立っても居られずその場で読んでしまったが、まだ世に出回ってないこともあり次の日を半休にして家でゆっくり1人で読む事にした。やはり3年待った甲斐があり見応えのある内容で次から次へと展開が進み、読む手が止まらない。キリのいい所でトイレや飲み物を取りに行きたいことも無いが次のページをめくろうと指をかけたその時、窓の外から何やら物音が聞こえた。本から窓辺へ顔を上げるとリリーが窓外からガラス戸を叩いている。カカシは突然の来客に驚きつつも本を閉じ、起き上がって窓を開けると冷たい夜の風がリリーの匂いと一緒に吹き込んできた。
『……どうしたの』
「先生、今日泊めて」
リリーは寒いのか指先や頬が赤くなっているのにいつもよりニコニコ笑っていた。そういえばこの子は先日もそうやって作り笑顔で笑っていたっけ。
『ラーメンありがとう!カカシ先生ー』
『また明日ー!』
『おう、またな』
久しぶりにナルト達と一楽に行った後、冷蔵庫が干からびた野菜ばかりで殆ど空なのを思い出した。食材を買いに1人で商店街を歩いて八百屋で野菜を眺め、ふと人混みの向こうにリリーとどう見ても父親に見えないがそのくらいの歳の男が歩いていくのを見かけた。男は楽しそうに話し掛けているのをリリーはニコニコして聞いている。
何かその張り付いた笑顔に不安がよぎり八百屋を後にして人混みを縫って駆け寄るとリリー達は路地裏に入っていく所だった。しかしその路地裏の先は……あまり子供が行っていい場所では無いことだけは分かる。人気が少ない所に行かれる前にカカシは明るく大きめでリリーに声をかけた。
『よっ!……あれ?お父さんと一緒なの?』
振り返った男がカカシを見た途端目が泳ぎ出し血相を変えてリリーを置いてさっさと路地裏の方へ行ってしまった。リリーは路地裏へ逃げた男を追いかけることもなくカカシを見上げた。ナルトとそんな歳も変わってないはずなのに作り笑顔や落ち着いた女性らしい仕草からだいぶ大人びて見える。俺に見つかってリリーから笑顔が消えた。
『あの人誰?父親じゃないよね?』
「先生は関係ないでしょ…」
『…へー、まぁいいけど。今の件は五代目に報告させて貰うよ』
「…」
リリーはナルトと同じ孤児だったが三代目火影の配慮もあり、ある一般家庭に寄宿している状態だった。この時代の孤児は少なくないがやはり年頃もあって個人的な悩みも多いようでリリーはカカシの問いかけに答えること無く人混みを掻き分けその場を立ち去った。
『俺には関係ないんじゃなかったの?』
先日の事を思い出し、再びリリーに問い掛けたがそれをスルーしてカカシの空いている脇から脱いだ靴と荷物を抱えて、窓枠に片脚からかけてするりと窓から室内へ入ってきた。
『ちょっと…』
「先生なら安全でしょ?」
安全?…やはり先日は危なかったんじゃないか
カカシの心配を他所にリリーはお腹空いたと言いながら自分の家のように冷蔵庫を開け何か食べる物がないか物色し始めた。あいにくリリーが直ぐに食べれそうな物は入ってないはずだ。調理しなければ食べれない生肉や生野菜ばかり。リリーは不満そうに腕を組み、仁王立ちしているカカシを睨んだ。ちょっと…睨みたいのはこっちなんですけど。
「なんかお菓子ないの」
『無いよ、俺甘い物嫌いだもの』
あ…無いことはない。俺が甘い物が嫌いな事を知らない近所のおばさんから貰ったお菓子を捨てるに捨てられずキッチンの上の棚に閉まってある。賞味期限が切れるまでの間はとりあえず置いてあったお菓子が。
『…無いこともないけど、まず他人の家の冷蔵庫は勝手に開けちゃダメだからね…って!』
無いことも無いと言うカカシの言葉にリリーはさらに物色を始めた。片っ端から棚を開け始める。
『コラコラコラ!もうやるから!俺がやるからそっちに座ってて』
ナルトより大人びて見えるだけで中身は躾のなってない野良猫だ。カカシはリリーをリビングの方へ脇を抱えて強引に座らせ、やかんに水を入れ火にかける。りあえずまた暴れられる前にお茶を入れておばさんから貰ったお菓子を出すことにした。それにしてもリリーの寄宿先の人達はこの状態をどのように思っているのか。思ったより深刻なのかもしれないな…三代目に相談しようとした時、お湯が沸いたのでお茶を入れてお菓子と一緒にリビングに持っていくとリリーはカカシが読みかけのイチャイチャタクティクスを開いて中身を読んでいた。
『ちょっ!!!』
取り上げようと手を伸ばすがリリーは急いで本を閉じて取られないように抱え込んだ。ニヤついた表情でこちらを見てくる。あーあ…もう本当にヤダ。
「先生こういうの好きなんだ、」
『関係ないでしょ。それに、君には早いよ』
「ふふふ、みんなに言っちゃお」
『もうみんな知ってるよ。ホラ、返しなさい』
お茶菓子をテーブルに置いて座ってる近くへさらに手を伸ばすとリリーから嬉しそうに近づいてくる。
『…言っとくけど、子供には興味ないよ』
「ホントに?ね…試してみる?」
リリーは鼻先が当たりそうな所まで近づくとカカシが何もしないのをいいことに躊躇いもなく布越しに軽くキスをした。リリーの得意げで少しバカにした顔に完全に舐められてると思ったカカシは少し怖がらせるしかないと思い、無言で無理矢理リリーを抱えると勢いで後ろのベットへ落とした。突然の事にびっくりしてリリーは手を着いて逃げようと暴れたが両腕を片手で押さえ込み馬乗りになって覆い被さった。少し殺気を出すとリリーは暴れるのをピタリと止め、ピリピリとした異様な殺気に冷や汗身動きが取れないでいる。
『じゃ…試してみよっか。そうして欲しいんでしょ?』
「…えっ…せんせ…」
『冗談だったの?言っとくけど途中で止めてって言っても痛かろうと俺はやめないよ』
真顔で見下ろすとリリーは青ざめた表情で見上げた。瞳がだんだん赤く充血し潤み始めている。その時何故かゴーグル姿のあいつを何故か思い出していた。泣いているのに真っ直ぐとこちらを見て離さない負けん気の奴
『覚悟無いんだろ』
「っ……!」
耳元で囁きパっと固く握っていた両腕を解放するとリリーは涙を拭ってカカシの胸を思いっ切り突っぱねた。開けっぱなしの窓からリリーは裸足のまま猫のように夜の暗闇へ飛び出して行く。靴も荷物もリビングに置かれたままで、揺れたカーテンがこの夜風に靡いていた。泣いても強がりな姿がオビトに似ていて、俺も大人になっても意地悪のやり方が幼少期から変わってない幼さに少し反省した。
『…ちょっと強引だったな』
そのまま脱力しベットに倒れ込む。でもこれで良いと思った…数日前までは。
『何してるの』
「本読んでる」
『だから、なんで』
俺の部屋でリリーがイチャイチャバイオレンスを読んでるの。
その数日後帰宅するとカカシのベットでイチャイチャバイオレンスを読みながらお菓子を食べてるリリーの姿があった。ベットの上で菓子、その手であの本……背後には割れた窓ガラスとその破片が床やベットに散らばっていた。完全に仕返しに来ている。そうヤワな奴じゃ無かったんだ。あれから心配してたのがバカらしく思えてきたがそれでも良かったとカカシは微笑んだ。
この手で躾てやろう、この野良猫を。
そう強く決意したカカシだった。
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