薬毒同源
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薬毒同源
山里離れた所に薬草園がある薬屋があった。辺りは栄えては無いものの、国外から様々な人が尋ねてくる。リリーはそこの薬売りとして薬草園で育てた珍しい薬草や調合した薬を売り生活していた。
早朝リリーは薬草園の作業を終えて店で珈琲を入れながら、リウマチの薬を作るため薬草園から摘んできた薬草を刻んでいると背後から声がした。
『…薬屋、附子はあるか?』
今日も来た、赤髪の少年。歳は12、13歳くらいだろうか…こんな山奥にやってくる少年というのは彼くらいだった。せっかちなのかいつもリリーが作業を止めて振り返る前に注文をしてしまう。
「…必要な量は?」
『20gの粉末だ。5gずつ分けてもらえると助かる』
「お使い?」
『フン…笑わせるな、俺が使うんだ』
だが話すとその歳の少年にとても見えない。
リリーは裏の薬剤粉に周り言われた通りに附子の粉末を薬包紙に5gずつ小分けに包んだ。
この子が買っていく薬草はどれも毒を持った薬草ばかり。附子は水で煎じて加水分解すれば神経痛や人の病を治し癒す漢方になるが 作用が不利に働けば呼吸中枢の麻痺や心臓麻痺をもたらす猛毒となるのだ。
「はい、250両」
『丁度ある』
お金を渡される際に少し少年の手が触れた。
普段は詮索なんてしないはずなのにリリーはずっと気になっていた事があった。少年が手を離す前にぎゅっと手を握り返すと少年の肩が少し揺れた。
「…とても冷たい手をしているのね」
『……』
「冷え症ならそれに合う漢方もあるけ…ど」
少年の手から顔へと視線を投げると少年は笑っていた。何もおかしな事は言っていないはずだが…
「何かおかしい?」
『いや…お前は詮索しない奴だと思ってたんだが』
ぎゅっと少年は強くリリーの手を握った。やはり冷たすぎる。死人の手みたいだ。不思議そうに眺めていると少年は口を開いた。
『この際だから言わせて貰うが実際はお前より歳は上なんだよ。お前は俺の事をガキ扱いしているが』
「へえ…そう、なの?」
『信じてねェだろ…まぁいい。おれは赤砂のサソリだ…お前の名は?』
「リリー」
『リリーか…また来る。今度はガキ扱いするな」
そう言ってサソリはするりと手を離し、附子を受け取ると早々帰って行った。
赤砂…砂隠れの人なのだろうか。サソリの名を聞いてもピンと来なかったリリーはその時はそんな考えもしないまま作りかけのリウマチの薬を思い出して作業に戻った。
数時間後にリウマチ用の出来上がった薬を小瓶に入れて包んでいると、丁度いつもそれを買うお客さんがやって来た。リリーと目が合うとニッコリと笑う。そういえばこの人も砂隠れだった気が…
『おはよう、出来てるかい?』
「おはよう、チヨさん。ねぇ…チヨさんも砂隠れだったよね?」
『それがどうした?』
「赤砂のサソリって名乗った人がここに来たの。その人知ってる?」
『サソリ……』
軽い気持ちで聞いたつもりだったのだが、普段は穏やかなチヨさんが杖を離し、突然目を見開いてリリーの肩を掴んだ。
『本当に…サソリか?そう言ったんじゃな?』
「えぇ…そうだけど…どうしたの?」
そう聞くとチヨさんはがくりと肩を落として俯いた。どうやらまずい事を聞いたらしい。サソリとチヨさんとの関係があまり良くないという事だけは分かった。
『時間があったら少しお前さんと話がしたいんじゃが…』
「分かった…いいよ、少し待ってて」
リリーはエプロンを外し、軽く店を閉めた。
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