暁短編
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兄というものは
『コラ、リリーさんお行儀悪いですよ』
「美味しいからつい…ねぇ、もっと食べたいよ」
『あなた…私の分まで食べる気ですか…?!』
鬼鮫が作った料理が美味しすぎて、足りずにお皿を舐めようとしたら鬼鮫にお行儀の悪さに怒られた。別に誰に見られるわけでもちゃんとした場でもなくアジト地下のキッチンで鬼鮫に見られるくらい何ともない。鬼鮫の分まで手をつけようとしたその時背後から声がした。
『鬼鮫の言う通りだぞ、リリー』
リリーと鬼鮫のやり取りを聞いていたのか振り返って見てみると入り口の所にイタチは寄りかかっている。外套の襟元から深く開けた懐辺りから片腕を出して、佇まいは品がある猫の様な何を考えているのか分からない人だ。
「ぃ、イタチさん!…いつからそこに…」
『皿を舐めてるくらいの所だ』
普段物静かなイタチさんが珍しく笑った。
これならいくらでも皿舐めちゃうけど。リリーは恥ずかしくなって大人しく鬼鮫の分の料理をキッチンに置いた。その素直な行動に鬼鮫は笑いながらリリーの肩をぽんぽんと叩く。
『全くリリーはイタチさんの前だと猫被るんだから…イタチさんは朝食べます?』
『俺はいい…この後甘味処行くだろ?』
「私も!私も行きたい!」
『リリーはトビとの任務があるでしょう』
「あんなやつ…いいよ、少し時間ずらすよ」
『おいで、リリー』
イタチに呼ばれリリーは嬉しそうにイタチの前まで来るとイタチは微笑みながらおでこをコツンと小突いた。
『また今度な。今日はちゃんと任務に行くんだ』
「……はい」
『ちゃんといい子にしてたらリリーさんにお土産かってきますから』
「鬼鮫……ちゃんと買ってきてね」
『はいはい…全く小さな子供ですね貴方は』
『あーー!!こんな所にリリーさん居た!集合時間にもなっても来ないからボク探したんスよーーー!』
ぜーはーぜーはーと息巻いたトビがイタチの隣に現れた。ずっとリリーを探していたのか急いでキッチンに飛び込むとそのままリリーを無理矢理荷物のように小脇に抱えて飛び出した。振り返るとイタチと鬼鮫はやれやれという形でリリー達を見送った。
『あのお調子者のトビがしっかりして見えるな』
『全くその通りです』
別の日イタチがアジト内の石畳の道の先にある吹き抜けの木漏れ日が差す静かな空間へ1人向かうと既に先客が居た。リリーが大の字で寝ていたのだ。ここはアジト内だがなんて無防備なんだとイタチは思った。近づくと胸を上下させ深い眠りについているようだった。気持ち良さそうにむにゃむにゃと何か小さく寝言の様な事も言っている。イタチは屈んでリリーの肩を軽く叩いて起こそうとしたが、起きずに足元に腕が絡み付いて来たので踏まないようにゆっくりと胡座をかいて片足にリリーの頭を乗せた。イタチは、ぽん…とふんわりリリーの頭を撫でると少しリリーが微笑んだように見えた。
『…全くお前は何故暁に入ったのか笑ってしまうな』
サラサラの髪を手櫛しているとリリーがうっすら目を覚ましてイタチだと分かると目をパチパチと瞬きをして口をモゴモゴしたかと思えば恥ずかしいのか手で顔を覆った。
『今更だ、隠しても…』
「分かってます」
貴方が好きなんて…とても言えない。
言ったら何となくこの兄の様な貴方との関係が壊れてしまいそうだった。それでも今この幸せな状況に口が滑りそうになった。
「イタチさんがお兄さんだったら良かったのに」
リリーがそう言うとイタチの目が少し陰った。リリーはイタチの表情に少しまずい事を言ってしまったとしどろもどろに口を噤んだ。
『そうか…』
「でも、本当です。そうだったらいいのにとふと思いました。すごく心地良いのです。」
『そんなに焦るな、大丈夫だ。』
ふたたびイタチの優しい手がリリーの頭へかかるとリリーは安心して微笑むと自然とまた目を閉じた。
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