暁短編
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月の子
飛段はよく血塗れになって帰ってくる。それは自分の血なのか他人の血なのかもよく分からない。川沿いで武器の整備をしていたリリーに駆け寄ると後ろから骨が軋むような強さで深く抱き締めた。
『リリー!探したぜ!どこに居たんだよ』
「ずっと作業してた…血、」
『…あぁ、悪ィ。でももう乾いてっからよ』
血、落とさなきゃな。そう言いながら名残惜しそうに離れると飛段は外套を川の岩場に脱ぎ捨て、寒い冬の川の中へ躊躇することなく入っていく。冬の川は刃物で全身を刺されるような寒さだが飛段は冬の川が一番好きだった。
『…魚でも取ってくるからそれで許してくれ』
ゲハハと笑う息が白い。筋肉で引き締まった背中には切り傷の跡があったようだが殆ど塞がっている。飛段はすでに川の中なのに、まだ抱きしめれているような感覚がじんと残った。
『うまいな、これ』
「焼いただけだけどね」
この日は野宿で飛段が取ってきた魚を焼いただけなのに飛段は喜んでそれを頬張って食べた。確かに山の中で何も取れない時は山菜か高タンパク質を含んでいる虫になってしまうことを考えると魚はかなり有難い。美味しそうに食べている姿は殺戮を繰り返しているようには見えないただの青年だった。夜明けには出発だが時間はあるので辺りに結界を張ると2人は少し横になる。見上げた木の影からは星空が輝いていて満月の明るい夜だった。
『この前よォ、なんで目ん玉は2つあんのに、見えるものは1つなのか考えたら気持ち悪くなってきてよ…』
「フフっ…」
『なんで笑うんだよ』
「見てるのは脳で見てるからだよ」
『…見てんのは目だろ…止めようぜこの話』
リリーの話は俺には難し過ぎると早々諦めた
「じゃあ……昔の神話でね、月の子って言われていた人間は2人で1人だったのに知恵をつけた人間を恐れて神は真っ二つに引き裂いたの」
『あー…痛そ。ジャシン様みてぇな』
「引き裂かれた人間は失われた片割れを探し求めてる。そしてまたくっつこうとするの。それがSEXだったり愛の起源なんだって」
『…んだよ、SEXしてぇなら早く言えよ!』
「そんなこと一言も言ってないけど」
『良いから来いって』
飛段は嬉しそうにリリーを抱き寄せた。
『なら俺たちは月の子だな』
「うん」
あなたの目も声も力強い腕も全て愛してる
そう言ってしまいそうになる前に唇を塞がれた。
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