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▽フロイド+男主(監督生視点)


「こーえーびーちゃん♡」
「ふ、ふろいおふぇんふぁい…」

突然後ろから両頬をむぎゅっと摘まれて、反射的に手元の本を閉じた。放課後の、人気のない図書室でのことである。
「あったり〜」なんて言いながら私の頬をむにむにいじくるフロイド先輩は、なんだかやけにご機嫌な様子で、上から私の顔を覗き込んだ。落ちた影の中で逆さに目が合って、にんまりと笑われる。
相変わらず、びっくりするくらい背が高い。

「よくオレって分かったねぇ」
「そんな呼び方するの、フロイド先輩くらいですもん」
「あーそっか」

こんなお茶目なことしてくるのも、大概はフロイド先輩だし。
本を棚に戻して向き直ると、意外なことにジェイド先輩もアズール先輩の姿も見当たらなかった。珍しい。フロイド先輩が一人でこんなとこにいるの、意外だな。

「なんかむつかしーの読んでたね。何の本?」
「魔法薬学の参考書を探してて。明日実験だし、ちょっと予習しておこうかと…」
「真面目だねぇ」

感心したのと呆れたのと、ちょうど半々くらいのテンションでフロイド先輩が首を傾げた。真面目かなぁ。普通じゃないかな。右も左もわからないような今の状況で、知識ゼロの状態でぶっつけ本番ってやっぱり怖いし…。

「ジェイドに聞いたら? あいつ、そーゆーの得意だよ」
「にっちもさっちもいかなくなったら……考えます……」
「あは。警戒してんね〜」

ケラケラと笑われる。ジェイド先輩を警戒してるわけじゃなくて、まあそういう部分もちょっとはあるけど…。教わるにしたって、何が分からないのかが分からないようなのび太くん状態をまずはなんとかしたいのだ。知識の土台を作っておきたい。なのにこの学校の教科書は文体も何もやけに固くて、そもそもの内容を紐解くのが難しいのである。こども向けの資料集とか、置いてくれたらいいのにな。

「そういう先輩は? 図書室にいるの、なんか意外です」
「オレぇ? や、別に用事があったわけじゃねンだけど…」
「?」
「僕に付き合ってくれたんだよね」

横から声が落ちて、つられて視線が上を向いた。…ああ、なるほど。

「おせぇって」
「ごめんごめん」

現れた先輩は、申し訳なさそうに笑いながら文句を言うフロイド先輩をなだめた。なるほど、腕に本を何冊か抱えているところを見ると、今までこの広い図書室の中を物色していたらしい。
確かに、先輩はよく本読んでるもんね。
唇を尖らせるフロイド先輩は、それでも本気で怒っているわけではなさそうだ。

「何してたわけ?」
「本探すのに手間取っちゃった。待たせてごめんね」
「まー小エビちゃんと喋ってたからいいけどさぁ」
「もうちょっと遅い方がよかった?」
「ばーか」

軽口を叩く二人を、仲良しだなぁなんてまじまじ眺めた。
そのうち先輩と目が合って、とりあえずこんにちはって挨拶したら、返事の代わりによしよしと頭を撫でられた。なんでだ。よく分からないけど、なんでか先輩は会うたびに私の頭を撫でるのである。
「はい」って、一冊の本を差し出される。

「え?」
「これ、結構分かりやすいと思うよ。僕も一年のとき使ってたんだけど」
「あ……あ。ありがとうございます」
「魔法薬学、難しいよね」

うーん、優しい。さっきの会話、聞こえてたのか。差し出された本を恭しく受け取って、お礼を言ったら微笑まれた。よかったねぇ、なんてフロイド先輩が言うので、内心ちょっと驚いてしまう。うーん、優しい、うーん。

「なに? どうかした?」
「いやぁ、優しいな…と思って」
「ええ? これだけのことで?」
「小エビちゃん、警戒しすぎてウケる〜」

イソギンチャク事件が尾を引いてるね、なんてごもっともなことを言われておずおずと頷いた。そうかな、そうかも。警戒しすぎて、脳内の意地悪そうな先輩たちのイメージと現実のギャップでどぎまぎしてしまうのか。
先輩がオクタヴィネル寮生っぽくないのもあるけど、フロイド先輩も、初めて会った時よりなんか優しくて取っつきやすいんだよね。

「安心しなよ。対価とか言わねえから」
「で、ですか」
「オレ、小エビちゃん結構好きだし」
「え、ありがとうございます…」
「小エビちゃんはぁ? オレのこと好き?」
「え、あ、はい」

ギザギザの歯をのぞかせて笑ったフロイド先輩が、私の頬をふにふにと突っついた。なんか、今日はやけにご機嫌だな。「だってさ。どう思う?」って水を向けられた先輩も、「僕も二人とも好きだよ」って当たり前みたいに返して笑うから、なんだか恐縮してしまう。

「小エビちゃん、なんで下向いてんの?」
「いやぁ、恐れ入るなぁと思いまして…」
「あー、人間って、好きって言われるの恥ずかしいんだっけ」
「に、にんげん…」

めちゃくちゃ雑破にまとめられた。

「監督生さん、嬉しくないの?」
「え、嬉しいですよ」
「じゃ、笑ってよ。小エビちゃん、笑ってる方がかわいーから」
「え、そ、そうですか?」

いやぁ、照れちゃうな…。言葉が真っ直ぐすぎて刺さる…。思わずえへへと笑うと、「そーそれそれ」って撫でられた。

「フロイド先輩も、笑うとかわいいですよ」
「えっマジ? これ以上かわいくなったらどーしよ」
「ど、どうしましょうね…?」

分からないけど、褒めてもらったらいいんじゃないかな。多分。先輩あたりに。

「てか、気付いたんだけどさ」
「? はい」
「小エビちゃんがいたら成立すんじゃねーの?」
「?」
「成立するって、なにが?」
「愛してるゲーム」
「ああ…」

困惑する私をよそに、あれね、って先輩が相槌を打った。
愛してるゲーム、懐かしいな。愛してるって言い合って、先に照れた方の負けっていう簡単なゲーム。元いた世界で流行ってたそれを、こないだ暇してたフロイド先輩に教えてあげたんだっけ。ジェイド達とやったけど全然盛り上がらなかった〜って後から言われて、なんか申し訳ないなって思ってたんだよね。割とあけすけに感情を表現する先輩方には不向きなゲームだったみたい。だけど、だからって私を混ぜて再トライの流れはちょっとご遠慮願いたい。

「やですよ! 私のボロ負け確定してるじゃないですか」
「はぁ? 当たり前じゃんそんなの」
「ぐぬぬ…」
「だからさ、誰が一番早く小エビちゃんに勝てるかっていうタイムアタック形式でいけんじゃん?」
「わ、私のことをものさしに…!?」

アレンジしてやがる…とおののきながら、助けを乞う思いで先輩を見上げたら「面白そうだね」って頷かれて終わってしまった。こ、この人もか。

「僕、アズールには勝てると思う」
「オレも、アズールには勝てると思う」
「アズール先輩、そんなに弱く見積もられてるんですか…?」

かわいそうだ。そんなに言われたら、早めに照れてあげたくなってしまう。

「いや、でも、私明日の予習しないといけないので…」
「魔法薬学はあとで僕が教えてあげるから」
「あれ、得意科目だっけ?」
「中の上って感じかな」
「ふーん。まぁまぁじゃん」
「そう。それに、ジェイドくんもいるしね」

百人力でしょ、って笑う先輩の横顔を見上げながら、ナチュラルにジェイド先輩の参戦も確定してることに慄いた。うわ、あの人、超つよそう…。
ていうか、アズール先輩もジェイド先輩もいつも忙しそうにしてるのに、果たしてこんな遊びに付き合ってくれるのか。

「二人とも負けず嫌いだし、誘ったら来んじゃね?」
「ええ…」
「まぁまぁ、ただのゲームだから、監督生さんも気楽にいてよ」
「そ、そうですか…?」

まあ、たかがゲームと言われたらそうなんだけど、恥ずかしいことに変わりはないんですが? でも勉強教えてもらえるのはちょっと魅力的だな。うぅん。この人たち相手に、たかがゲームが対価だと思えば、無くはない…? むしろ軽かったりする?

「ね、なんか賭けねぇ? 一位が総取りすんの」
「夕食のデザートとか?」
「あー、いいねぇ」
「ちなみに、今日のデザートはプリンだけど」
「えっ、ゼッテー負けらんねーじゃん!!!!!」

ちょっと! めちゃくちゃ責任重大じゃないですか!



プリン大好きメンズ。
2021.3.7

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