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杉元さんの住むアパートは割に交通の便がよく、ちょっと集まって騒ぐにはちょうど良い環境にあったのでよく皆の溜まり場にされていた。私も何度かお邪魔したことがあった。その居心地のよさは不思議なもので、白石さんなんかは一時期もう住んでるんじゃないかってくらい入り浸っていたこともあった。なので今日も誰かが遊びに来てたらまとめて渡せてラッキーじゃん、とそんなことを考えてインターホンに指を乗せたまでが今の私の状況になります。
「す、杉元さん?」
私がチャイムを鳴らす前に勢いよく開いた扉は、風圧で私の前髪を浮かせるくらい本当に勢いづいていたので正直少しビビってしまった。中から顔を出した杉元さんはいつもと変わらない気のいい様子で、多少いつもよりニコニコしてみえるとか、それくらいの違いしかないのがなんだか余計にアンバランスだった。
「よく私が来たって分かりましたね…」
「気配がしたからさ」
「気配が…」
「ほらおいで。外寒いでしょ?」
「あ、はい。お邪魔します」
手を引かれて部屋に入ると、杉元さんが後ろ手に鍵を閉めてチェーンまでかけたのがちょっと気にかかるけど一旦スルー。どうせチョコを渡しに来ただけで、すぐおいとますることになるのだから玄関先で大丈夫です、と申し出たのに問答無用で引っ張り込まれた。杉元さんも杉元さんで、けっこう強引なとこがある…。
「あの、ほんとにすぐ帰るので…」
「なんで?ゆっくりしてけばいいじゃん。コーヒー淹れるよ?」
「杉元さん?」
「それともココアの方がいい?俺も久々に飲みたくなったな。あ、みかんあるけど」
「杉元さん」
「あったかいお茶の方がいいかぁ」
「これどうぞ」
「なんで渡しちゃうのぉ?」
私をこたつに押し込みつつ喋り続ける杉元さんを振り仰いで小さい包みを渡すと「も〜!」と拗ねた顔をされた。どういう感情なんですかそれは。もしかして迷惑だったかなとちょっとシュンとしつつチョコをしまおうとしたら慌てて取り上げられた。
「いる!いるよ!いるに決まってるじゃん!」
「なんか不満そうだったので…」
「そ、それはさ〜」
「はい」
「…チョコ渡したらどうせすぐ帰っちゃうでしょ?」
「はい」
「ほら〜!」
「?」
「も〜!」
なんだかプンプンした様子でもそもそとこたつに潜り込む杉元さんは、それでもしっかりとチョコを受け取ってくれたので一安心だった。これで私の目的は達成されたのでもういつ帰ってもよかったんだけど、杉元さんが唇を尖らせて拗ねるのがちょっと可愛かったので、頬杖をつきながら思わず聞いてしまう。
「杉元さんもあーんして欲しかったんですか?」
「え…なにそれ…そんなオプションあるの…!?」
「(オプション…)」
「ずるい!それなら俺だってして欲しいことあったのに…」
「なんですか?」
「えっ」
「えっ」
「…言ったらやってくれる…?」
「いいですよ」
「言ったね?」
「ええ…?」
そんな、言質を取らないとさせられそうもないことを考えてるんですか…。一瞬眼光を鋭くさせた杉元さんにクローゼットの奥から引っ張り出してきた包みを渡されて、その中身をちらっと覗いた私は正直絶句した。なんでこんなもの持ってるんですか?と思わず聞いてしまったけどそれに対する答えは返してくれず、代わりに真剣な眼差しを贈られた。…うーん…杉元さんって結構…。
「ま、いいですけど」
「マジで?」
お手洗い借りますね、と立ち上がった私の視界の隅で杉元さんが中々気合いの入ったガッツポーズをするのが目に入って、やっぱりこの人結構アレなのかもしれないな…と思った。
「うわ…うわ…!」
「杉元さん、ほんとに?ほんとにこれでいいの?」
「最高…」
「いいんだ…」
糊の利いたプリーツスカートが物珍しくて小さく揺らしていると、一周回ってとお願いされたのでお望み通りにくるっと回るとめちゃくちゃ幸せそうな顔をされた。杉元さんが喜んでくれるなら何よりだよ…。
セーラー服なんて。こんなもの着たのは中学生以来だった。高校はブレザーだったので当然といえば当然だ。今になって着る機会のある人はそう多くないと思うけど、なぜか今この瞬間私はそのマイノリティに組み込まれているのだった…。杉元さんほんとどこで手に入れたの。
「ほら、俺たちって大学生のとき再会しただろ?だから制服姿って見たことなくて…見てみたいなぁってずっと思ってて…」
「そうなんだ…」
「は〜、かわいい、かわいいなぁ…。ね、佐一先輩って言ってみて?」
「はわ…」
杉元さんがおかしな方向に突っ走っちゃってる…!思わずたじろいで一歩引いてしまう私を、なんだかずっと熱っぽい視線で見ている杉元さんは逃がしてくれるつもりはなさそうだった。気付いたら壁際まで追い詰められていた。いいけど、いいんだけど、今日くらいはなんでも言うこと聞いてあげるけど…ぶっちゃけイメクラ感ハンパないよ杉元さん…。持たされたチョコレートの包みを両手で抱えて、そっと上目に伺うと、杉元さんがなにやら生唾を飲み込むのが分かった。
「さ、佐一先輩」
「………」
「これ、受け取ってください」
「………」
「先輩?」
「めっちゃいい…」
「はあ、よかったです」
「告白、告白バージョンもちょうだい」
「へ?」
「ずっと見てました的な」
「はあ」
「あとあーんもしてほしい」
「欲張りセットじゃん…」
杉元さんなんて学生時代はモテモテだったろうに、今更そんな青春の再現をする必要があるのだろうか…。謎のリクエストを重ねる杉元さんが真面目も真面目、大真面目な顔をしていたので私も一応真摯に応えた。これは一体何をしてるんだろうなって思う部分はあるけど杉元さん超嬉しそうだし、まあいいか…。
「佐一先輩、あーん」
「はぁ……なにこのかわいい生き物…あーん…」
「先輩、ヒンナですか?」
「ヒンナヒンナ」
しかし、このセーラー服がぴったりなのが気になるんだよな…。なんで杉元さん私の服のサイズ知ってるのかな…まあいいけど…。(よくない)
夢見た青春。
2019.2.6