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※現パロ
「ね、大丈夫?苦しくない?もうちょっと近付こうか?」
「えーと」
もし苦しいよって私が言ったら、もう少し離れてくれたりするのかな。
朝の満員電車で苦しい思いをすることなんて、今まで何度もあった。知らないおじさんと肩がぶつかって謝って、知らないお姉さんの巻き髪が頬をかすめてくすぐったくて、知らない中学生のナイロンバッグに横腹を押されてイタタとうめいて、そんな経験が全くないなんて人、いるのかな。幸運にも痴漢に遭遇したことのない私ですら毎日そのレベルのアンラッキーに見舞われているんだから、満員電車が苦しくて辛いなんて当たり前のことだと思ってた。
「やっぱりちょっと苦しいんじゃない?ほら、こっちおいで?」
「うーん…別に平気かな…」
「無理しないで。こんなときくらい頼ってよ」
「こんなとき…」
杉元さんの「こんなとき」って一体どれくらいあるのかな。昨日も、おとといも、そのまた前の日も「こんなときくらい」って言いながら私の体を抱きしめたこと、こっちはちゃんと覚えてるんだぞ。
「ね。杉元さんってついこないだからこの線使い始めたの?」
「そうだよ?こんな混むなんて知らなかったなぁ」
「ふ〜ん…」
1週間前、初めて電車の中で杉元さんと遭遇してから、毎日こうやって向かい合わせで杉元さんに庇われている。同じ職場で、一つ上の先輩で、住むところも近いとあれば、通勤途中に顔を合わせることなんて全然不思議じゃない。苦しくない。でも、ギュウギュウの満員電車の中で、杉元さんの体に抱き込まれるこの時間だけは、ちょっと息苦しいと思っていた。恋人や家族でしかありえない距離感に杉元さんがいることが違和感しかない。人混みから庇ってくれるのはありがたいけど、そんなに身を呈してくれなくても大丈夫ですから、って言おうとしてるのに今日も言えない。なんだろな。杉元さんを前にするとたじろいでしまうのは。
「ねえ。もっと俺に頼っていいからね。こんなに押されたんじゃ怪我しちゃうよ。俺だから平気だけどさ。もしかしたら痴漢にだって遭うかもしれないし。今まで何もなかったからって油断しちゃダメだよ。俺といるときは安心していいけどさ。ね、聞いてる?」
早く駅に着いちゃわないかな…。
この密室から解放されて、ひと一人分のスペースを空けて横並びに歩いてるときの杉元さんは全然息苦しくないんだけどな。今、ひそかに腰に回される腕とか、耳元に寄せられる唇とか、そういうのってあんまり職場の同僚にすることじゃないと思うな。ねえ。杉元さん。なんで私が痴漢に遭ったことないって知ってるのかな。はあ。満員電車って、ほんと疲れる。
ずっと見てた。
2019.1.9
「ね、大丈夫?苦しくない?もうちょっと近付こうか?」
「えーと」
もし苦しいよって私が言ったら、もう少し離れてくれたりするのかな。
朝の満員電車で苦しい思いをすることなんて、今まで何度もあった。知らないおじさんと肩がぶつかって謝って、知らないお姉さんの巻き髪が頬をかすめてくすぐったくて、知らない中学生のナイロンバッグに横腹を押されてイタタとうめいて、そんな経験が全くないなんて人、いるのかな。幸運にも痴漢に遭遇したことのない私ですら毎日そのレベルのアンラッキーに見舞われているんだから、満員電車が苦しくて辛いなんて当たり前のことだと思ってた。
「やっぱりちょっと苦しいんじゃない?ほら、こっちおいで?」
「うーん…別に平気かな…」
「無理しないで。こんなときくらい頼ってよ」
「こんなとき…」
杉元さんの「こんなとき」って一体どれくらいあるのかな。昨日も、おとといも、そのまた前の日も「こんなときくらい」って言いながら私の体を抱きしめたこと、こっちはちゃんと覚えてるんだぞ。
「ね。杉元さんってついこないだからこの線使い始めたの?」
「そうだよ?こんな混むなんて知らなかったなぁ」
「ふ〜ん…」
1週間前、初めて電車の中で杉元さんと遭遇してから、毎日こうやって向かい合わせで杉元さんに庇われている。同じ職場で、一つ上の先輩で、住むところも近いとあれば、通勤途中に顔を合わせることなんて全然不思議じゃない。苦しくない。でも、ギュウギュウの満員電車の中で、杉元さんの体に抱き込まれるこの時間だけは、ちょっと息苦しいと思っていた。恋人や家族でしかありえない距離感に杉元さんがいることが違和感しかない。人混みから庇ってくれるのはありがたいけど、そんなに身を呈してくれなくても大丈夫ですから、って言おうとしてるのに今日も言えない。なんだろな。杉元さんを前にするとたじろいでしまうのは。
「ねえ。もっと俺に頼っていいからね。こんなに押されたんじゃ怪我しちゃうよ。俺だから平気だけどさ。もしかしたら痴漢にだって遭うかもしれないし。今まで何もなかったからって油断しちゃダメだよ。俺といるときは安心していいけどさ。ね、聞いてる?」
早く駅に着いちゃわないかな…。
この密室から解放されて、ひと一人分のスペースを空けて横並びに歩いてるときの杉元さんは全然息苦しくないんだけどな。今、ひそかに腰に回される腕とか、耳元に寄せられる唇とか、そういうのってあんまり職場の同僚にすることじゃないと思うな。ねえ。杉元さん。なんで私が痴漢に遭ったことないって知ってるのかな。はあ。満員電車って、ほんと疲れる。
ずっと見てた。
2019.1.9