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男主は金カムなど
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なまえ(女)
なまえ(男)

※男主


「私は、鶴見中尉殿を心から尊敬している」
「存じてます」
「死ぬまであのお方の側にいるつもりだ」
「存じてます」
「だから、お前もそうあるべきなのだ」
「ご冗談を…」

またいつものお戯れが始まりましたか。

坊ちゃんは本当に、鶴見様のこととなるとすぐ盲目的になられるので、あいも変わらず、そんなどうしようもない言葉が出てくるんですね。

急須から湯呑みに注がれる細い水柱に集中している僕を、坊ちゃんが不満気な顔つきで見ていることはその熱視線から容易に分かった。
急須の口から最後の一滴が湯呑みの水面に落ちるやいなや、坊ちゃんの手がかっさらってあっという間に飲み干してしまう。
ダン!と、机に湯呑みを叩きつけてこちらを睨みつけてくる坊ちゃんに、僕は、ようやく視線を上げた。

「俺は、お前のそういうところが嫌いだ…」
「…」

坊ちゃんてば、本当に素直じゃないお方ですね。
主人に嫌いだと言われて悲しまない従僕はいない。シュンとした気持ちを臆面もなく顔に出した。

「なぜ傷ついた顔をするのだ!?」
「坊ちゃんが心にもないことを言うから…」
「坊ちゃんと呼ぶな!」
「音之進さん」

うっ、と怯んだ様子を見せた坊ちゃんが言葉に詰まるのを見て、ああ本当に可愛らしい人だなと思う。

「坊ちゃんの鶴見様へのご執心ぷりはよく分かっているつもりですが…」
「だから坊ちゃんと呼ぶな!」
「音之進さん」

そうしてまた顔を赤くして言葉に詰まるのだから、坊ちゃんは本当にお可愛らしい。
坊ちゃんと呼ぶな名前で呼べと言いつけるくせに、いざ僕が名前を口にすると気恥ずかしくなってしまうらしい坊ちゃんは「そ、それでいい…」などと口ごもりながら居直った。
今更何を恥ずかしがることがあるんですか。
僕が鯉登家に参仕してから幾年月、いつまでたっても坊ちゃんは坊ちゃんでしかないということを、この可愛らしい御仁は理解していない節がある。

「坊ちゃんが鶴見様と生涯を共にされるというのはたいへん結構なことですけどね」
「そうだろう。だから、お前も来るべきなのだ」
「…」
「私のいるところにお前がいるのは当然のことだろう?」
「…」
「なぜ黙るのだ!?」
「困っちゃって…」
「な、何に!?」

いくらか気心が知れているとはいえ、僕程度のお世話係を死ぬまで引き連れて歩くような真似を、坊ちゃんがする意味が分かりません。

「坊ちゃんはもう少し大海を知るべきですね」
「おい。お前。おい。今もしや私を蛙呼ばわりしたか?」
「お戯れを…」
「ぐぬぬ」

僕は鯉登家の執事であって、坊ちゃんの従者ではないことを、そろそろ理解されるべきではないかと思う。小さい頃からずっと坊ちゃんに付き従ってきた僕の存在を、さも未来永劫続いて当たり前のように語られると、ご冗談をと突き放したくなるのが道理ではないですか。

「僕がいなくても、坊ちゃんには月島さんがいらっしゃるではないですか」
「はあ?」
「?」
「なぜ月島の名前が出てくる」
「あ、いえ、月島さんが僕の代わりになるという意味ではなくて」
「知らん。それは。どうでもいい。変な気を回すな」

いけない。無礼をはたらいた唇を指の腹でなぞりながら、心中で月島さんに頭を下げた。僕の代用品のような扱いは言うまでもなく無礼でありました。この口、少し浅慮なきらいがある。
不服そうにこちらをねめつける坊ちゃんは、まさか、と言葉を続けた。苦々しげな声音だった。

「そんな阿呆な理由で私の誘いを断り続けたわけはないだろうな…」
「はあ」
「どうして私がお前をそばに置いておきたいか、まさか、知らないとは言わせんぞ」
「…」

口の端に緊張を滲ませながらそんなことを言う坊ちゃんは、やはりいつまで経っても可愛らしい坊ちゃんでしかないみたいだった。
感情表現こそご立派なくせに、いつまでたっても少年のような青くささで僕に迫る。欲しいものを欲しいとしか言えないままでは何も手に入らないということを、そろそろ学習させなければいけないなと、もう何度思っただろうか。
しかし、まあ、今日のところは僕が教えてさしあげようか。

「存じてますよ」
「ほ、本当か?」
「坊ちゃんは僕のことが大好きですもんね」
「…!?…!!?!」
「違うんですか?」




違わないけどあっさり言うな。
2019.11.25
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