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※学パロ
学校は終わってからが長い。
「すぎもとせんぱ〜い」
「…」
「またですか?」
「…」
「懲りない人だなぁ」
「…」
「今日こそ反省文ですよ」
「…」
死屍累々の背景が似合う人だな、まったく。
放課後の始まりを告げるチャイムが体育館裏の空に響いた。
こちらに背を向けたまま突っ立っている杉元先輩を半ば呆れた目で見ながら、完全に白目を剥いてひっくり返っている男子学生の傍にしゃがみこんで頬を何度かつついてやった。う〜ん、起きないね…。どんな一発をもらったらこんなことになっちゃうのかな。見渡すと、あちこちに転がっている人達も皆似たようなものだった。完全にオチている。
……。
仮にも全国大会常連の柔道部でしょ、先輩方。
こんなにあっさりと負けちゃっていいのかな〜。相手は帰宅部ですよ。一人勝ち残った杉元先輩は遠目でも分かるくらい無傷でピンピンしていた。
「…絡まれたのは俺の方なんだけどぉ?」
「聞けませんよ。先輩、前科ありすぎです」
一応、本当に一応、首筋に手をあてて脈があるのを確認した。仮死状態になっているのを放置でもして、取り返しのつかないことになったって責任取れないもん。杉元先輩は不死身と称されるほど強いくせして手加減がめちゃくちゃ下手だった。だからこんなことになるんだよ、毎回毎回、学習してくださいって言ってるのに。
「軽く流してあげないとダメじゃないですか」
「向こうが本気でヤろうって殴りかかってきたのに?」
「本当に本気で殴り返してどうするんですかぁ。ネズミが虎に勝てますか?」
「エッ、俺って虎?かっこいい?」
「は〜…」
相変わらず何も分かってなさそうな杉元先輩を見てため息をついた。私は先輩のために言ってるんですよ。杉元佐一先輩。体力自慢に余念がない我が金神高校運動部の面々に不運にも目を付けられた、2年C組帰宅部の杉元佐一先輩。
最初は部活の勧誘と称した軽い手合わせだったはずが、いつのまにか果たし状なんかも登場するようなガチの乱闘になっちゃって…。ついてないね、なんて思っていたら本当に可哀想なのは挑戦者たちだったというオチだった。今月だけで何人保健室送りにされただろうか。
ここまで来ると生徒会だって黙ってられない。
「今日こそ来てもらいますからね」
「ええ?ヤダぁ…」
そんな駄々っ子みたいに言われたって、こっちだって仕事なので…。左腕に巻きついた書記の腕章に気だるい気持ちにさせられる。あーあ、今日こそ連れていかないと鯉登先輩がうるさいぞ…。初めこそ、運動部の脳筋連中に絡まれる可哀想な被害者だった杉元先輩は、空手部、ボクシング部、ラグビー部を等しくボコったあたりで完全に加害者として見なされていた。
停学も免れんとカッカする顧問たちを説得してくれた鶴見先生の温情により、まずは事情を聞いてみようということで、すかさず名乗りを上げたのが我らが鯉登先輩だった。金神高校生徒会長、2年A組の鯉登音之進先輩。鶴見先生大好きちゅっちゅな鯉登先輩の熱の入った命令により、仕方なしに現行犯で杉元先輩を捕らえに来る私の気持ちも汲み取ってくれると嬉しいな。
「反省文だろ?ぜったいヤダ」
「停学より100倍マシだと思いますけど…」
「…」
「ほら、鯉登先輩がお待ちかねです」
「なおさら行きたくねえんだけど」
「すぎもとせんぱ〜い」
「…」
「そんなこと言わずに〜」
「…」
「ね?」
「…」
両手をポケットに突っ込んでそっぽを向く杉元先輩の顔を覗き込んだらプイッと反対側に逸らされた。強情だな〜ほんと。大人しく私が迎えに来ているうちに従った方がいいと思うけどな。私でダメなら次に出てくるのはきっと月島先輩だ。目には目を。歯には歯を。筋肉には筋肉を…。というわけで生徒会メンバー随一のマッシヴボディを持つ月島先輩がアップを始めているので私はちょっと焦っていた。
杉元先輩と月島先輩、どっちが強い?なんて考えるだけでも怖い怖い…。
「もー、無理やり連れてっちゃいますからね」
「!」
杉元先輩の石膏像みたいに硬い腕に抱きついて、大きなカブを引っこ抜くみたいに引きずって歩いた。重っ。重いな〜もう。筋肉がミッチミチに詰まってるのが腕一本からでも伝わってくる。こんな体幹でひと思いに殴られたらそりゃ〜白目も剥いちゃうだろうな。どうせ抵抗されると踏んで平手の一発くらいは飛んでくるかと覚悟したけど、予想に反して杉元先輩はされるがままだった。
「先輩?」
「………」
「無言…」
それはそれで恐ろしいものがある。一息ついて額に浮かんだ汗を拭った。ふー、重い…本当に重いよ杉元先輩…。特に逃げる素振りを見せない先輩を信用して抱え込んでいた腕を離すと、すぐに手を絡め取られた。まるでバルスでもするみたいに目の前に掲げられて、駄目押しとばかりににぎにぎされた。? えっ何?
「何ですか?」
「やっと触れたのに離しちゃうのってヒドくない?」
「え?」
「は〜、柔らかい…かわいい…」
杉元先輩のごつごつした手に私の頼りない手が食べられてしまうのをぽけっと見ていた。え〜と…、杉元先輩が何を言っているのかよく分からないけど、至極ご満悦な様子なのでとりあえずつながれた手を引いて生徒会室へと誘導すると大人しく付いてくるので拍子抜けだった。えっ何?こんな簡単に捕まえられる人だったわけ?屈強な男たちをバッタバッタとなぎ倒すバーサーカーの面影はカケラもない。なんだぁ、だったら最初からこうしておけばよかった…。殴られるのがイヤで距離を取って説得しようとしていた今までの苦労はなんだったんだろうか。
「ちょっと、なにそれ?俺がそんなことすると思ってたわけ?」
「そりゃあもう…、前科があるので…」
「あいつらは別でしょ。売られた喧嘩を買っただけで、別にどうだっていいし…」
当たり判定謎すぎて怖………。一応女の子には優しいってことなのかな。いつのまにか横にぴったりと並んで歩いている杉元さんの体を押し返してみてもビクともしなかった。電柱かな?
「にしても近くないですか?」
「全然?」
「あっ、ふ〜ん…」
杉元先輩がさりげなく肘で私の胸をつついてくるので内心動揺してしまった。先輩、そこは一応おっぱいですよ。サイズがささやかなもんで分からなかったかもしれないですけどね…。ウンとスンとも言わない杉元先輩を動かすのは諦めて自分から体を離すと、恋人のようにつながれたままの手をギュッと強く握られた。え〜何?
「杉元先輩、そろそろ生徒会室着いちゃうので離してもらっていいですか?」
「は?何で?」
「鯉登先輩がウルサイですもん」
「は?」
自分は鶴見先生にお熱なくせして、他人の不純異性交遊にはどうも厳しめな鯉登先輩だった。この間なんか尾形先輩と一緒にいるところを見られてモーレツに怒られてしまった。え〜、何で?部活の予算の話をしてただけなんですけど…? 納得いかない私もニヤニヤ笑う尾形さんも全部無視した鯉登先輩に生徒会室まで引っ張り込まれた。さすがに怒っていいぞと居合わせた月島先輩が言ってくれたので遠慮なく不満を述べると、「距離が近いのだ。胸元を覗かれていたぞ」とぶすくれた態度で言われて味方だった月島先輩にも怒られる始末だった。襟元がゆるゆるなのは胸が小さいせいで生地が余っ……………………………なんてことを言わせるんですか。せつないなぁ。この時の反省を活かしてボタンは上までぴっちり留めるようにしたので鯉登先輩もあまりうるさく言わなくなった。
でも、この頃夏日が続いたからね…。生徒会室に顔を出すときに直したらいいやと思って開けっぱなしにした第1ボタンを留めるためにも手を離してほしかったので、力技で杉元先輩の手を振り抜くとなんだか傷ついた顔をされた。
「なんでぇ?」
「なんでと言われても…。ボタン留めないと怒られるし…」
「は?俺がやる」
「?」
「こっち向いて」
「?」
なんで?
なんの躊躇いもなく胸元に手を伸ばされて、止めようとしたときには既に手がボタンにかかっていたので諦めた。う〜ん、まあいいか…?ちょっとフツーじゃないけどね。杉元先輩、人によってはセクハラですよ。インカラマッちゃんとか…。あのダイナマイトボディーにこんなことしたら親衛隊の皆さんにボコされちゃうからね。杉元さんなら全部返り討ちにしちゃうんだろうけど…。それはそれで前科が増えて結局は反省文コースなのだった。
大人しく身を任せてぽーっとしていたら、杉元先輩の視線が徐々に下がるので変だと思った。やけに胸元がスースーする……………………ってちょっとちょっとちょっと!
「なんでボタン外してんですかぁ」
「いや、抗えなくて…」
「そんな真顔で言うことですか?」
第1どころか第4ボタンまで全開にされていて、当然下着もばっちり見られていた。杉元先輩、ちょっとどころか全っ然フツーじゃないね…。思っていたより100倍頭ゆるゆるな杉元先輩にドン引きしながらボタンを留め直した。その間もじっと見下ろしてくる先輩の視線がまっすぐ過ぎて怖………。先輩、他の女の子にもこんなことしてるんですか?いくら相手が後輩だからってやっていいことと悪いことがあるんですよ。分かんないかなぁ。
「次やったら怒りますからね」
「…」
「ほら〜、行きますよ」
「…」
正直関わり合いになりたくなくて、サクッと鯉登先輩に引き渡して終わりにしたかった。もっとやらしい目で見てくれればこっちだってグーパンの一つも返せたのに…。なんか妙に目がマジなのが不穏だった。つまらない胸で期待外れでしたか?いや見たまんま分かるでしょ。脱いだらスゴい!なんて奇跡はないんだよ。着痩せするにも程があるじゃん…。
そんなせつないことを考えていたらいつの間にか杉元先輩が消えていてちょっと泣きそうになった。ミッションインポッシブル…。仕方なく手ぶらで戻るとめちゃめちゃにキレてる鯉登先輩が待ち構えていた。さっきまでの一部始終を全部目撃されていた。マジかぁ。
「ボタン留めてなくてすみません」
「ふざけているのか?」
えっ違うの…………。分かんないよ〜もう。
同じくらい怒っている月島先輩が「そこに座りなさい」とソファーを指差すので、私はこっそりため息をついた。あ〜あ、長引くぞこれは…。
なんでこうなっちゃうのかなぁ。途中までは首尾よくできてたのに…、も〜、杉元先輩なんて嫌いだ…。
追いかけられたい杉元。次回、月島が迎えに来てガン萎え。
2019.6.7
学校は終わってからが長い。
「すぎもとせんぱ〜い」
「…」
「またですか?」
「…」
「懲りない人だなぁ」
「…」
「今日こそ反省文ですよ」
「…」
死屍累々の背景が似合う人だな、まったく。
放課後の始まりを告げるチャイムが体育館裏の空に響いた。
こちらに背を向けたまま突っ立っている杉元先輩を半ば呆れた目で見ながら、完全に白目を剥いてひっくり返っている男子学生の傍にしゃがみこんで頬を何度かつついてやった。う〜ん、起きないね…。どんな一発をもらったらこんなことになっちゃうのかな。見渡すと、あちこちに転がっている人達も皆似たようなものだった。完全にオチている。
……。
仮にも全国大会常連の柔道部でしょ、先輩方。
こんなにあっさりと負けちゃっていいのかな〜。相手は帰宅部ですよ。一人勝ち残った杉元先輩は遠目でも分かるくらい無傷でピンピンしていた。
「…絡まれたのは俺の方なんだけどぉ?」
「聞けませんよ。先輩、前科ありすぎです」
一応、本当に一応、首筋に手をあてて脈があるのを確認した。仮死状態になっているのを放置でもして、取り返しのつかないことになったって責任取れないもん。杉元先輩は不死身と称されるほど強いくせして手加減がめちゃくちゃ下手だった。だからこんなことになるんだよ、毎回毎回、学習してくださいって言ってるのに。
「軽く流してあげないとダメじゃないですか」
「向こうが本気でヤろうって殴りかかってきたのに?」
「本当に本気で殴り返してどうするんですかぁ。ネズミが虎に勝てますか?」
「エッ、俺って虎?かっこいい?」
「は〜…」
相変わらず何も分かってなさそうな杉元先輩を見てため息をついた。私は先輩のために言ってるんですよ。杉元佐一先輩。体力自慢に余念がない我が金神高校運動部の面々に不運にも目を付けられた、2年C組帰宅部の杉元佐一先輩。
最初は部活の勧誘と称した軽い手合わせだったはずが、いつのまにか果たし状なんかも登場するようなガチの乱闘になっちゃって…。ついてないね、なんて思っていたら本当に可哀想なのは挑戦者たちだったというオチだった。今月だけで何人保健室送りにされただろうか。
ここまで来ると生徒会だって黙ってられない。
「今日こそ来てもらいますからね」
「ええ?ヤダぁ…」
そんな駄々っ子みたいに言われたって、こっちだって仕事なので…。左腕に巻きついた書記の腕章に気だるい気持ちにさせられる。あーあ、今日こそ連れていかないと鯉登先輩がうるさいぞ…。初めこそ、運動部の脳筋連中に絡まれる可哀想な被害者だった杉元先輩は、空手部、ボクシング部、ラグビー部を等しくボコったあたりで完全に加害者として見なされていた。
停学も免れんとカッカする顧問たちを説得してくれた鶴見先生の温情により、まずは事情を聞いてみようということで、すかさず名乗りを上げたのが我らが鯉登先輩だった。金神高校生徒会長、2年A組の鯉登音之進先輩。鶴見先生大好きちゅっちゅな鯉登先輩の熱の入った命令により、仕方なしに現行犯で杉元先輩を捕らえに来る私の気持ちも汲み取ってくれると嬉しいな。
「反省文だろ?ぜったいヤダ」
「停学より100倍マシだと思いますけど…」
「…」
「ほら、鯉登先輩がお待ちかねです」
「なおさら行きたくねえんだけど」
「すぎもとせんぱ〜い」
「…」
「そんなこと言わずに〜」
「…」
「ね?」
「…」
両手をポケットに突っ込んでそっぽを向く杉元先輩の顔を覗き込んだらプイッと反対側に逸らされた。強情だな〜ほんと。大人しく私が迎えに来ているうちに従った方がいいと思うけどな。私でダメなら次に出てくるのはきっと月島先輩だ。目には目を。歯には歯を。筋肉には筋肉を…。というわけで生徒会メンバー随一のマッシヴボディを持つ月島先輩がアップを始めているので私はちょっと焦っていた。
杉元先輩と月島先輩、どっちが強い?なんて考えるだけでも怖い怖い…。
「もー、無理やり連れてっちゃいますからね」
「!」
杉元先輩の石膏像みたいに硬い腕に抱きついて、大きなカブを引っこ抜くみたいに引きずって歩いた。重っ。重いな〜もう。筋肉がミッチミチに詰まってるのが腕一本からでも伝わってくる。こんな体幹でひと思いに殴られたらそりゃ〜白目も剥いちゃうだろうな。どうせ抵抗されると踏んで平手の一発くらいは飛んでくるかと覚悟したけど、予想に反して杉元先輩はされるがままだった。
「先輩?」
「………」
「無言…」
それはそれで恐ろしいものがある。一息ついて額に浮かんだ汗を拭った。ふー、重い…本当に重いよ杉元先輩…。特に逃げる素振りを見せない先輩を信用して抱え込んでいた腕を離すと、すぐに手を絡め取られた。まるでバルスでもするみたいに目の前に掲げられて、駄目押しとばかりににぎにぎされた。? えっ何?
「何ですか?」
「やっと触れたのに離しちゃうのってヒドくない?」
「え?」
「は〜、柔らかい…かわいい…」
杉元先輩のごつごつした手に私の頼りない手が食べられてしまうのをぽけっと見ていた。え〜と…、杉元先輩が何を言っているのかよく分からないけど、至極ご満悦な様子なのでとりあえずつながれた手を引いて生徒会室へと誘導すると大人しく付いてくるので拍子抜けだった。えっ何?こんな簡単に捕まえられる人だったわけ?屈強な男たちをバッタバッタとなぎ倒すバーサーカーの面影はカケラもない。なんだぁ、だったら最初からこうしておけばよかった…。殴られるのがイヤで距離を取って説得しようとしていた今までの苦労はなんだったんだろうか。
「ちょっと、なにそれ?俺がそんなことすると思ってたわけ?」
「そりゃあもう…、前科があるので…」
「あいつらは別でしょ。売られた喧嘩を買っただけで、別にどうだっていいし…」
当たり判定謎すぎて怖………。一応女の子には優しいってことなのかな。いつのまにか横にぴったりと並んで歩いている杉元さんの体を押し返してみてもビクともしなかった。電柱かな?
「にしても近くないですか?」
「全然?」
「あっ、ふ〜ん…」
杉元先輩がさりげなく肘で私の胸をつついてくるので内心動揺してしまった。先輩、そこは一応おっぱいですよ。サイズがささやかなもんで分からなかったかもしれないですけどね…。ウンとスンとも言わない杉元先輩を動かすのは諦めて自分から体を離すと、恋人のようにつながれたままの手をギュッと強く握られた。え〜何?
「杉元先輩、そろそろ生徒会室着いちゃうので離してもらっていいですか?」
「は?何で?」
「鯉登先輩がウルサイですもん」
「は?」
自分は鶴見先生にお熱なくせして、他人の不純異性交遊にはどうも厳しめな鯉登先輩だった。この間なんか尾形先輩と一緒にいるところを見られてモーレツに怒られてしまった。え〜、何で?部活の予算の話をしてただけなんですけど…? 納得いかない私もニヤニヤ笑う尾形さんも全部無視した鯉登先輩に生徒会室まで引っ張り込まれた。さすがに怒っていいぞと居合わせた月島先輩が言ってくれたので遠慮なく不満を述べると、「距離が近いのだ。胸元を覗かれていたぞ」とぶすくれた態度で言われて味方だった月島先輩にも怒られる始末だった。襟元がゆるゆるなのは胸が小さいせいで生地が余っ……………………………なんてことを言わせるんですか。せつないなぁ。この時の反省を活かしてボタンは上までぴっちり留めるようにしたので鯉登先輩もあまりうるさく言わなくなった。
でも、この頃夏日が続いたからね…。生徒会室に顔を出すときに直したらいいやと思って開けっぱなしにした第1ボタンを留めるためにも手を離してほしかったので、力技で杉元先輩の手を振り抜くとなんだか傷ついた顔をされた。
「なんでぇ?」
「なんでと言われても…。ボタン留めないと怒られるし…」
「は?俺がやる」
「?」
「こっち向いて」
「?」
なんで?
なんの躊躇いもなく胸元に手を伸ばされて、止めようとしたときには既に手がボタンにかかっていたので諦めた。う〜ん、まあいいか…?ちょっとフツーじゃないけどね。杉元先輩、人によってはセクハラですよ。インカラマッちゃんとか…。あのダイナマイトボディーにこんなことしたら親衛隊の皆さんにボコされちゃうからね。杉元さんなら全部返り討ちにしちゃうんだろうけど…。それはそれで前科が増えて結局は反省文コースなのだった。
大人しく身を任せてぽーっとしていたら、杉元先輩の視線が徐々に下がるので変だと思った。やけに胸元がスースーする……………………ってちょっとちょっとちょっと!
「なんでボタン外してんですかぁ」
「いや、抗えなくて…」
「そんな真顔で言うことですか?」
第1どころか第4ボタンまで全開にされていて、当然下着もばっちり見られていた。杉元先輩、ちょっとどころか全っ然フツーじゃないね…。思っていたより100倍頭ゆるゆるな杉元先輩にドン引きしながらボタンを留め直した。その間もじっと見下ろしてくる先輩の視線がまっすぐ過ぎて怖………。先輩、他の女の子にもこんなことしてるんですか?いくら相手が後輩だからってやっていいことと悪いことがあるんですよ。分かんないかなぁ。
「次やったら怒りますからね」
「…」
「ほら〜、行きますよ」
「…」
正直関わり合いになりたくなくて、サクッと鯉登先輩に引き渡して終わりにしたかった。もっとやらしい目で見てくれればこっちだってグーパンの一つも返せたのに…。なんか妙に目がマジなのが不穏だった。つまらない胸で期待外れでしたか?いや見たまんま分かるでしょ。脱いだらスゴい!なんて奇跡はないんだよ。着痩せするにも程があるじゃん…。
そんなせつないことを考えていたらいつの間にか杉元先輩が消えていてちょっと泣きそうになった。ミッションインポッシブル…。仕方なく手ぶらで戻るとめちゃめちゃにキレてる鯉登先輩が待ち構えていた。さっきまでの一部始終を全部目撃されていた。マジかぁ。
「ボタン留めてなくてすみません」
「ふざけているのか?」
えっ違うの…………。分かんないよ〜もう。
同じくらい怒っている月島先輩が「そこに座りなさい」とソファーを指差すので、私はこっそりため息をついた。あ〜あ、長引くぞこれは…。
なんでこうなっちゃうのかなぁ。途中までは首尾よくできてたのに…、も〜、杉元先輩なんて嫌いだ…。
追いかけられたい杉元。次回、月島が迎えに来てガン萎え。
2019.6.7