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※尾形と杉元(現パロ)
ニコニコして立っているのだって、結構疲れる。
「あの。お客様?」
「…」
「ご注文はお決まりですか?」
「…」
「あのー?」
「…」
せめて何か言ってほしい。
ポカンとした顔で私をまじまじと見つめたまま、無言を貫くこの二人組は一体どうしてしまったんだろう。
この喫茶店でバイトを始めてから一年弱、色んなお客さんが来て色んなことを言われたし色んなことをされてきたので、世の中には色んな人がいるんだなってことは分かってる。でもこのパターンは初めてだ。
まるで幽霊でも見るみたいな顔をしてガン見してくるこの男の人たち、なんなんだろう。私の顔に何かついてますか?
「あの」
「…」
「改めますね。お決まりでしたらもう一度ボタンで…」
「……出るぞ」
「え?」
ようやく喋ってくれたと思ったら、急に腕を掴んで引き寄せられて驚いてしまう。もしかしてナンパかな、これ。嫌だな。今日はフロアは私一人しかいないのに。
「あの…?」
「チッ」
「おい。尾形」
不躾に私の腕を掴んだまま離さないこの人をたしなめるみたいに、もう一人が剣呑な顔をした。オガタさん。この人オガタさんっていうのかな。全然知らない人なんだけど…。
「あの、離してください」
「…マジで覚えてねぇのか」
なんだかちょっと傷つけてしまったみたいだった。オガタさんは不満げな様子を隠そうともせずに、ひたすら私の腕を強く掴み続けている。
なんだろうなこれ。悪いけど私だって記憶力には自信があるのだった。そうでなくても顔にこんなおっきな傷のある人たちなんて、一度会ったらそうそう忘れないと思うんだけど…。
「あのう、申し訳ないんですが、人違いじゃないかと」
「…」
「…」
「あっいたい、いたたた!」
「ふざけるなよ…」
「待て待て待て」
ギリギリと締め付けられる腕が本当に痛くて、涙目になってしまうのが自分でも分かる。やばい。やばいお客さんだこれは…。もう1人が止めてくれなきゃそうそうに泣いていた。だというのにキッチンにいるバイト仲間はちっとも出てくる気配がない。あのやろ〜、絶対気づいてるくせに…日和りやがったな…。
ごめんね、なんて優しい眼差しで私の頭を撫でるこの人は、スギモトさんというらしかった。やっぱり全然知らない人。
「本当に覚えてないんだ…」
「あの、覚えてないっていうか、やっぱり会ったことないと思うんですけど…」
「あ?」
「ひえっ」
「おい、尾形。おい」
苛立ちを隠そうともしないオガタさんから庇うみたいに、スギモトさんが私の肩を抱き寄せくる。この人、優しいのは優しいんだろうけど距離感が明らかにおかしい…。やばいやばい。やばいお客さん達だこれは…。
「会ったことないわけがあるか。さっさと思い出せ」
「えぇ…」
「なんだ?疑ってんのか?」
「尾形ぁ、余裕なさすぎ。落ち着けよ」
「あ?こっちはこいつのほくろの数から胸のサイズまで全部覚えてんだ。今すぐ思い出してもらわんと吊り合わねぇ」
「待って待って待って」
思わずこめかみに手をあてて待ったをかける。え?なに?どういうこと?オガタさん?なに言ってんの?
「は?おい、待て、それどういう意味」
「はッ、そういう意味だ。なんだ、杉元、お前は知らんのか」
「は?は?」
「ははッ」
せせら笑うオガタさんと、鬼気迫る様子のスギモトさんがメンチを切り合うその間に挟まれて、私は、一体どうしたらいいんだろう…。
私のほくろの数とか胸のサイズとか、この人が知っているわけがないのだ。そんなの知ってたらただのストーカーだし…。今まで付き合った人とはそういう関係になる前に別れたから、ハメ撮り流出とかそういう惨事もありえない。まだ清い身なのだ、こっちは。ありえないありえない。妄想でしょ…。
「谷間の中心、1センチ左ななめ上」
スギモトさんに胸ぐらを引っ掴まれてなお余裕のあるオガタさんが、私を見てそう言った。バッと音がするほどスギモトさんが勢いよくこちらを見るのと、私が慌ててブラウスの襟を指でひっかけて中を覗き込んだのはほぼ同時だった。
しばらく無音が続いた。スギモトさんが固唾を飲みながら私を見つめているのが分かる。オガタさんがニヤニヤ笑いながらそんなスギモトさんを見ているのも、なんとなく雰囲気で分かる。私は、自分の胸元を覗き込んだまま、動けなかった。いやいや、ありえない、ありえないって…。
左胸を包むブラのカップ、その際に見えるか見えないかのところにぽつんと存在する小さなほくろから、目が離せないでいる。
「胸のサイズも言ってやろうか?」
心底楽しげな声のオガタさんは、その瞬間スギモトさんにぶん殴られていた。
前世で何をした。
2019.1.17
ニコニコして立っているのだって、結構疲れる。
「あの。お客様?」
「…」
「ご注文はお決まりですか?」
「…」
「あのー?」
「…」
せめて何か言ってほしい。
ポカンとした顔で私をまじまじと見つめたまま、無言を貫くこの二人組は一体どうしてしまったんだろう。
この喫茶店でバイトを始めてから一年弱、色んなお客さんが来て色んなことを言われたし色んなことをされてきたので、世の中には色んな人がいるんだなってことは分かってる。でもこのパターンは初めてだ。
まるで幽霊でも見るみたいな顔をしてガン見してくるこの男の人たち、なんなんだろう。私の顔に何かついてますか?
「あの」
「…」
「改めますね。お決まりでしたらもう一度ボタンで…」
「……出るぞ」
「え?」
ようやく喋ってくれたと思ったら、急に腕を掴んで引き寄せられて驚いてしまう。もしかしてナンパかな、これ。嫌だな。今日はフロアは私一人しかいないのに。
「あの…?」
「チッ」
「おい。尾形」
不躾に私の腕を掴んだまま離さないこの人をたしなめるみたいに、もう一人が剣呑な顔をした。オガタさん。この人オガタさんっていうのかな。全然知らない人なんだけど…。
「あの、離してください」
「…マジで覚えてねぇのか」
なんだかちょっと傷つけてしまったみたいだった。オガタさんは不満げな様子を隠そうともせずに、ひたすら私の腕を強く掴み続けている。
なんだろうなこれ。悪いけど私だって記憶力には自信があるのだった。そうでなくても顔にこんなおっきな傷のある人たちなんて、一度会ったらそうそう忘れないと思うんだけど…。
「あのう、申し訳ないんですが、人違いじゃないかと」
「…」
「…」
「あっいたい、いたたた!」
「ふざけるなよ…」
「待て待て待て」
ギリギリと締め付けられる腕が本当に痛くて、涙目になってしまうのが自分でも分かる。やばい。やばいお客さんだこれは…。もう1人が止めてくれなきゃそうそうに泣いていた。だというのにキッチンにいるバイト仲間はちっとも出てくる気配がない。あのやろ〜、絶対気づいてるくせに…日和りやがったな…。
ごめんね、なんて優しい眼差しで私の頭を撫でるこの人は、スギモトさんというらしかった。やっぱり全然知らない人。
「本当に覚えてないんだ…」
「あの、覚えてないっていうか、やっぱり会ったことないと思うんですけど…」
「あ?」
「ひえっ」
「おい、尾形。おい」
苛立ちを隠そうともしないオガタさんから庇うみたいに、スギモトさんが私の肩を抱き寄せくる。この人、優しいのは優しいんだろうけど距離感が明らかにおかしい…。やばいやばい。やばいお客さん達だこれは…。
「会ったことないわけがあるか。さっさと思い出せ」
「えぇ…」
「なんだ?疑ってんのか?」
「尾形ぁ、余裕なさすぎ。落ち着けよ」
「あ?こっちはこいつのほくろの数から胸のサイズまで全部覚えてんだ。今すぐ思い出してもらわんと吊り合わねぇ」
「待って待って待って」
思わずこめかみに手をあてて待ったをかける。え?なに?どういうこと?オガタさん?なに言ってんの?
「は?おい、待て、それどういう意味」
「はッ、そういう意味だ。なんだ、杉元、お前は知らんのか」
「は?は?」
「ははッ」
せせら笑うオガタさんと、鬼気迫る様子のスギモトさんがメンチを切り合うその間に挟まれて、私は、一体どうしたらいいんだろう…。
私のほくろの数とか胸のサイズとか、この人が知っているわけがないのだ。そんなの知ってたらただのストーカーだし…。今まで付き合った人とはそういう関係になる前に別れたから、ハメ撮り流出とかそういう惨事もありえない。まだ清い身なのだ、こっちは。ありえないありえない。妄想でしょ…。
「谷間の中心、1センチ左ななめ上」
スギモトさんに胸ぐらを引っ掴まれてなお余裕のあるオガタさんが、私を見てそう言った。バッと音がするほどスギモトさんが勢いよくこちらを見るのと、私が慌ててブラウスの襟を指でひっかけて中を覗き込んだのはほぼ同時だった。
しばらく無音が続いた。スギモトさんが固唾を飲みながら私を見つめているのが分かる。オガタさんがニヤニヤ笑いながらそんなスギモトさんを見ているのも、なんとなく雰囲気で分かる。私は、自分の胸元を覗き込んだまま、動けなかった。いやいや、ありえない、ありえないって…。
左胸を包むブラのカップ、その際に見えるか見えないかのところにぽつんと存在する小さなほくろから、目が離せないでいる。
「胸のサイズも言ってやろうか?」
心底楽しげな声のオガタさんは、その瞬間スギモトさんにぶん殴られていた。
前世で何をした。
2019.1.17