たにんだいじに
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そしてこの謎の地で就職活動に励んだ私は、最終的に政府囲い込みのサービス業を営む会社に就職し、真選組の女中になった。
どうにも評判の悪い職場のようで、野蛮で、乱暴で、粗野な侍の集まりだともっぱらの噂だった。武装警察だけに屯所襲撃の可能性もゼロではなく、他の役所勤務に比べると少々危険度の高いところらしい。
ハタチなりたての小娘の私は戦々恐々と働き出したが、ふたを開けるとそんなことはなく、野蛮で、乱暴で、粗野ながらも優しく、頼もしい人たちであった。
そんなこんなで、もう1年が経とうとしている。
「三木ちゃん、今日のお昼なにー!?」
「カレーですよ〜」
「甘口ー?辛口ー?」
「どっちもご用意してますよ〜」
「ヤッホーイ!!」
今日はカレーだー!と歓声をあげながら市中見回りに繰り出す隊士さん達に手をふって、洗濯物干しの続きに取り掛かった。
風に揺れる白いワイシャツの向こうに人影が見えて、目をこらすと山崎さんがボロボロになって歩いていた。
「あ、三木ちゃん…」
「山崎さん、その怪我」
「副長にね…いつものことだよ。あの人俺をバスマットか何かと勘違いしてるんだよな。三木ちゃんは洗濯かい?男所帯で、量が多くて大変じゃ…」
力なく笑う山崎さんの口の端に血がにじんでいたので、持っていたハンカチをそっと押し当てた。山崎さんは「はへっ!?」なんて素っ頓狂な声を上げて身を固くするが構わずにじむ血をぽんぽんと抑えていった。
「消毒しましょうか。縁側に座って待っててください」
「えっ?い、いいよいいよっ。そんなわざわざっ」
「ダメですよ、ほら〜」
救急箱を持って来てオキシドールを取り出すと、山崎さんは恥ずかしそうに目線をそらしながらも大人しくなった。消毒液を含んだガーゼが沁みるたびイテッと身をよじるので、左手で頬を抑えて消毒を続ける。山崎さんの顔が赤くなるのを見て、私相手に照れるなんて本当にウブな人だな、と声にも顔にも出さずに思った。
「あ…ありがとう」
「いえいえ。次は山崎さんから来てくださいね」
「えっ?」
「オキシドール、常備しときますから」
そう言うと、山崎さんは目に見えて動揺して、やがておずおずと切り出した。
「いいの…?」
「いーですよ。あたりまえじゃないですか」
「俺、いっぱい怪我するよ?迷惑じゃない?」
「私、皆さんの役に立つためにいるんですよ」
一番傷の深いところに絆創膏を貼りながら、山崎さんの目を見た。どうしてこう、真選組の人達は傷に無頓着なのかな。役に立ちがいがあるというものだ。
「お仕事くれなきゃ、いやですよ〜」
「…へへ」
山崎さんは照れくさそうに笑ってぽりぽりと頭をかいた。
「じゃあ、お願いしよっかな。へへ。ありがとう、三木ちゃん」
嬉しそうな表情の山崎さんを見て、私もつられて嬉しくなった。
私の生きる目的は一つしかない。他人に尽くして、他人のために生きること。あのニワトリに言われたことを実践するのみだ。
正直何をすればいいのかまだよく分かってないけど、こういうことでいいんだよね。他人にありがとうと言われること、喜ばれることをすること。とりあえず判断基準をそう決めた。
ぽやぽや笑う山崎さんを見て、間違ってない、これで合ってるんだと心の中で頷いた。
2つの職務。
2014.7.25