たにんだいじに
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そうして私の卵焼きとしての人生が幕を開けた。
卵焼きうんぬんというのは物の例えであることはなんとなく分かっていたけど、もし本当にガチの卵焼きになってたらどうしよう…という不安は杞憂で終わった。
私は私のまま、年齢も性別も変わりなく、まるっと元の八重田三木として生きていた。ペチャンコだった右足もぐちゃぐちゃの体も嘘みたいに元通りで、深く、深く安堵のため息をついた。
さて。
気付いたときには私は人通りの中に立っていた。いつからそこにいたのか、さっきまで喋るニワトリと対峙するなんていう摩訶不思議が幻だったかのように、本当に気付いたらそこにいた。突然現れたはずの私に人々は驚くこともなく、道で立ち止まっている私とすれ違う人々がちらっと視線をくれるのみだった。
おかしなところだった。みんな着物を着て、まげを結い、かんざしをさしていた。かと思えばホストみたいな金髪も、アイドルみたいなツインテールも、中村アンみたいなかきあげヘアも、エグザイルみたいなツーブロックまで、ありとあらゆる見慣れた髪型が混在していた。
アスファルトが塗装されていない土の上には見慣れたショップが立ち並んでいる。かと思えば合間合間に京都の観光地でしか見られないような甘味処なんかが見え隠れした。
なんだここは。時代設定がひっちゃかめっちゃかすぎる。雑か。
映画村みたいなところだろうか。
とりあえずいろいろ見てみよう、といつの間にか草履を履いている足を動かす。着物なんて着たのは七五三以来なのでなんとまあ動きにくいことか。
ショーウインドウに写った着物姿の自分が物珍しくて思わずしげしげと見てしまう。
私の足は自然とある場所に向かった…なんてことはなく持っていた手帳に記されていた住所に行ってみることにした。持ち主欄に私の名前が入っているのでこれはきっと私の手帳。そして書いてある住所は私の家に違いない。そうでないと困る。ホームレスは嫌だ!
気分は説明書もチュートリアルもないぶっつけ本番のRPG、それも装備は手帳と鍵と白滝のみ。なんだよ白滝って。なんで白滝なんて持たせたよ、ばか!
道行く人に尋ねつつ、私は目的地にたどり着いた。日本語通じるし、優しいし親切だし、みんな自分のスマホで地図検索してくれた。スマホまであるのか〜何でもありだ〜。
こじんまりしたアパートの一室、持っていた鍵で中に入ることができた。若干の生活感が漂うこの部屋の表札には、私の名前が入っていた。やっぱりここは私の家なのか。入っていいよね?使っていいよね?
ワンルームの部屋の中央のテーブル、その上に紙の束を見つけて手に取った。
あのニワトリからのメッセージがあるかもしれない。期待に胸膨らませながら目を通した。
まあそんな訳はなかった。
記入済みの履歴書と求人雑誌だった。
自分の食い扶持は自分で稼げと。何もかも自分で頑張って生きていけと。ある意味そんなメッセージを受け取った。
部屋の中も物色してみる。保険証や通帳、印鑑なんかは揃っていた。しょっぱい額しか入ってなかったけど無一文ではないことに安心した。冷蔵庫をあけると意外にも食材が入っていた。今日食べる分には困らないみたい。
牛肉、ねぎ、豆腐、白菜、しいたけ…
私は手元の白滝をみて、納得した。
なるほど、すき焼きには白滝がないとね〜。
せめてものごちそう。
2014.7.22