たにんだいじに
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ある日神様は私に言った。
他人のために生きなさいと。
「要するに人に優しく、めーちゃめちゃ優しくしろってことなんだけどね、もう自分の幸せとかいいから、ないから。周りの人を幸せにするために生きていくわけだよ。今この瞬間お前の作戦が決まりました。『いのちだいじに』。これただの『いのちだいじに』じゃないからね。『他人のいのちだいじに』だからね。そこ勘違いして自分を大事にしないように。全部の行動原理の頭に「他人のために」をつけなさい。お前の枕言葉それだけしかないから。他人のために頑張って、他人のために努力して、他人のために死ぬ。献身的な人間になりなさい。他人に身も心も尽くしなさい。それができなきゃ今ここで死ね。今しか自分のために死ねるタイミング、ないから。自分のために死にたいなら今死ね。これ以降はチャンスないよ。どうする?どうする?ほらほらほらどうするの?」
「言ってる意味が分からない…」
気付くと私の目の前でニワトリが喋っていた。
な、なにを言ってるのか分からねーと思うが…ではなく。
本当は私は分かっていた。目の前のニワトリがただのニワトリではなく、超生物的な存在であることを。
「当たり前でしょ。ただのニワトリが喋るかよ」
「心まで読まれた〜」
もうだめだ。私の頭はおかしくなってしまったのかもしれない。夢なら醒めよと自分の頬を思いっきりつねるも、まるきり無駄だった。ニワトリはそんな私の頭をくちばしでコツコツと叩いた。
「言ってる意味が分からなかった?ぼくがニワトリだからってお前まで鳥頭になる必要ないからね。もっかい言うよ。作戦名は『たにんだいじに』。お前は他人のために死ね。はい復唱!さんはい」
「た、たにんのいのちガンガンいこうぜ…」
「増やしてまぜるな」
鋭い一発を額にもらった。条件反射で額を抑えてから、はたと気付いた。血が流れてない。痛くもない。そういえばさっきほっぺたつねったときも何ともなかったな。痛くなかった…。
「痛みとかないよ。無駄でしょ。この後に及んで。お前痛みなんかよりもっととんでもないもん取られてるんだよ。自分の姿見てみなよ」
何言ってるんだこのニワトリ、と悪態をつきながら言われるがままに視線を落として、瞬間その意味を知った。
右足がなかった。
「ダンプに轢かれてペチャンコだったよ。今のお前に痛みとかいらなくない?脳がどれだけ危険です危険ですって信号出してももうその必要ないもんね。だってお前死んでるもん」
私の全身は血に染まっていた。もうグシャグシャのドロドロだった。だけど痛みはなく、傷口から血も流れていない。まるで時間が止まっているようだ。
「あの…他人のために死ねとか今死ねとか、言ってたけど…私もう死んでるんなら…」
その究極の二択は意味ないのでは?
混乱する頭で問う私にニワトリは答えた。
「卵が割れたら、お前どうする?」
「…え、なに?」
「偶然、たまたま、卵が割れたらどうするよ。当然元には戻らないでしょ。元の卵にはならないんだから、そしたらもう卵焼きにするしかないでしょ。
お前、もう割れたんだよ。でもそのまま捨てるのはもったいないからぼくがお前を卵焼きにしてやる。それが嫌なら割れた卵のまま捨てられろ。それが今死ねってことさ」
「はあ…」
「な、お前卵焼きになっとけよ。死にたくないでしょ。卵焼きとして生きていきなよー」
言ってる意味が分からない。
分からないなりに考えた。
どうしてこのニワトリは、割れた私を卵焼きにしてくれるんだろう。
「それはね」
勝手に心を読んだニワトリは、私が疑問を口にする前に勝手に答えを言い出した。
「お前が一番使えそうだったから。頭は軽そうだけどその分回転は速そうだし、若くて見た目もいいし、へんに度胸もありそうだし。他にお前と同じタイミングで死んだ奴はいっぱいいるけど、お前が一番よかったんだ」
「褒められた…」
「…ひとつ言っておくけど」
思わず照れる私に、ニワトリは顔をしかめた。ニワトリも顔をしかめると眉間にシワが寄るらしい。
「元いた場所には戻れないよ。卵と卵焼きじゃいるべきところが違うんだから。ぼくはぼくの好きな場所で卵焼きを食べる。それでもいい?」
「え、どういうこと?日本じゃないってこと?」
「ね、いいよね?もういいよね、卵焼きにするよ?」
「え、外国?アメリカ?フランスとか?せめて英語が通じるところが!」
「分かった分かった、日本語でいいから、通じるから!じゃ」
生き返って、他人のために頑張りな
そして私は生き返った。
日本語の通じる、だけど私の知らない日本に。
なんだそりゃ。そういう話です。
2014.7.20