たにんだいじに
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無事に退院して一週間ぶりに出勤すると、高谷さんに新しく入ったバイトの女の子を紹介された。
同い年くらいだろうか。ちょうど私の入院中に勤務が始まったらしく、今日で出勤するのは4日目だそうだ。
「野々です。よろしくお願いします」
「八重田三木です〜。よろしくお願いします」
「三木は後輩初めてだろ?色々教えてあげてね」
私が就職してからこの職場に新しい人が入ったのは初めてだ。今までは私が一番後輩だったので、高谷さんにそう言われて少しこそばゆい気持ちになった。先輩なんてものになったのは高校の部活以来だったから、懐かしくなったんだと思う。
「先輩か〜なんだか照れますね」
「何心にもないこと言ってんのよ。あんたがそんなタマかい」
見抜かれている。
バレました?とぺろっと舌を出すと、高谷さんは意地悪そうな顔でオホホと笑った。
「あんたが照れたとこなんて見たことないもの。あーおかしい。じゃ、私在庫整理するから、野々さんはこの子に教えてもらって」
「は、はい!」
「年も近いし気が楽だろ。三木、配膳のことは教えてあるから、他のこと頼むよ」
「はぁい」
私は野々さんを連れて、中庭近くの洗濯場に向かった。野々さんは歩きながらキョロキョロと屯所中を見回している。この辺はまだ来たことがないのかな。簡単に間取りを説明しながら歩いていると、隊士さんたちに声をかけられた。
「三木ちゃん!久しぶり〜!怪我は?もういいの?」
「お久しぶりです〜。おかげさまでもうすっかり」
「よかった〜。三木ちゃんがいない間ずっとお通夜みたいでさあ。やっと沖田隊長の機嫌もなおるよ」
「えへへ。あ、野々さん、この方たちにはもうご挨拶しました?」
私の影に隠れるようにしている野々さんを振り返ると、野々さんはふるふると首を振って、上目遣いで隊士さんたちを見た。
「あの、私今まで裏で仕込み教えてもらってて。屯所の中歩くのも初めてなんです」
「じゃあ、隊士さんには会ったことないんですね」
「なに?新しい子入ったの?」
「へー」
「野々です!よろしくお願いしますっ」
深々と頭をさげる野々さんに、隊士さんたちもよろしく、とそれぞれ会釈を返した。
若いねー、と口々に言われて野々さんはぽっと頬を染めて、もじもじしている。
「そういえば、三木ちゃんの怪我、犯人まだ見つかってないんだろ?」
「ひでーよな、絶対俺たちで犯人挙げるから!」
「ありがとうございます〜」
これから市中見回りに行くという彼らの背中を見送って、私たちは洗濯場に向かった。野々さんは口数の少ない方らしく、相槌を打ってばかりだった。それに気を悪くするわけもなく、真面目そうでいい子だな、と思う。ま、高谷さんが面接して悪い子が入ってくることもないだろう。
「ここが洗濯場ですね。洗濯機が3台あるので、衣服類は左の2台で、タオルやダスターなんかは右の台でやってます」
「衣服…全部ですか?」
「ワイシャツや寝間着はほぼ私たちでやってますよ〜。下着は隊士さんたちが自分で洗ってます。恥ずかしいみたいで」
「はあ」
「配膳室で使うダスターやふきんは夜番の人がつけ置きしてくれてるので、朝番の人が干します。で、乾いたものを日中使うんです。朝番の人は空になった洗濯機で、昨夜使ったバスタオルを洗います。ちょうど終わった頃なので、一緒に干し場まで運んでもらえますか〜?」
「あ、はい!」
カゴいっぱいに入ったバスタオルは、水分も含めて中々の重さになる。二人で2往復して運び終わると、野々さんの腕はプルプル震えていた。
「あんまりこういう重労働…重いもの運んだりとか…したことなくて」
野々さんは恥ずかしそうに腕を後ろに隠した。私もこの世界に来たばかりの頃は似たようなものだったので、少し親近感を覚えた。そんなものですよ、と慰めながらバスタオルを干していく。今日みたいないい天気なら、すぐ乾いてしまうだろう。
「あっ」
野々さんの声につられて後ろを振り向くと、野々さんがバスタオルを抱きすくめてある一方を見つめていた。
なにやら頬を染めて、目がチカチカ光っている。
そのバスタオル濡れてるけど、冷たくない?
視線の先を追うと、そこにいたのは…。
お察しの通りです。
2014.12.14