たにんだいじに
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三木アルー!と後ろから声をかけられて振り向くと万事屋さん達がいた。
トイレットペーパーを持つ手をぶんぶん振り回す神楽ちゃんに手を振り返すと、笑顔でこちらに走り寄ってくる。その際12ロールセットのトイレットペーパーがアゴに入った万事屋さんは、追いかけて神楽ちゃんの頭を軽くはたいた。
新八くんはティッシュの箱を携えながら、その後ろを苦笑しながら歩いてくる。
「こんにちは。三木さん、今日はお仕事お休みですか?」
「お使いなんです、郵便局まで。さっき行ってきたところで」
「女中ってそんなことまでするわけ?大変だねえ」
「パシリアル。メイドのすることじゃないネ」
「雑務込みのお仕事ですから〜。万事屋さん達はお買い物ですか?」
「そーそ。今日マツオトキヨシの特売が…」
言いながらシャンプーが入った袋を軽く掲げてみせた万事屋さんは、突然ポカンとして言葉を切った。なんだろう?と首を傾げてみても口をあんぐり開けたままだ。両脇の二人も私の顔を凝視してポカンとしている。
突然どうしたんだろう。
「あの〜…?」
「えっ、えええええ!?だっ大丈夫ですか!?」
「降ってきたネ!直撃したネ!」
「おいめっちゃ血出てんぞ!噴水みたいになってんぞ!大丈夫か!?」
血?
慌てふためく3人に戸惑いながら、なんとなく違和感のある額に手をやるとぬるっと妙な感触がした。
ん?
見ると、その手にはべっとりと真っ赤な血がついている。大量だ。足元に視線をずらすと、土と赤茶色の陶器の破片が散乱している。欠片の隙間から見え隠れする白やピンクは、花びらだ。
植木鉢が派手に割れていた。
「このマンションか!?くそっどこのどいつだ!」
「ざけんなヨォ!」
「待って、まず病院に…!」
私達のすぐそばにはクリーム色のマンションがそびえていた。どうやらここから植木鉢が落とされたらしい。神楽ちゃんが新八くんの制止も聞かず飛び込んでいったが、5階立てのどこにも人影は見えない。私の頭に植木鉢を落とした犯人は、さっさと姿を隠したようだ。
立ち尽くしたままの私に二人が慌てて駆け寄る。
「三木さん、大丈夫ですか!?」
「お前なんか平然としてない!?痛くねーのっ!?」
「あっ、あだだだだ。いたーい。頭がー」
「軽っ!」
本当は全然痛くなかったけど、私は痛いフリをした。
マンションから植木鉢を落とされて、死んでもおかしくない怪我をしたのに全く痛みを感じない。この現象に心当たりがあった。
その場に血だまりを作るほどの出血に、頭がくらくらする感覚を覚えて膝をつく。痛みはなくとも、体はダメージを受けているようだ。
そのうち急な眠気に襲われて、私はなるべく苦しげな表情を作って目を閉じた。
▽
「いやー大事にならなくてよかった!三木ちゃんに何かあったら俺もーどうしていいか…!」
「お前がこんな大怪我すんのは辻斬り以来だな。今度こそ怨恨か?」
「三木さんは土方さんとは違うんですぜ。あんたと一緒にしちゃいけねーや」
取っ組み合いが始まりそうな土方さんと沖田さんを、近藤さんがまあまあとなだめる。ここ病院だからと言うと、二人とも不服そうにしながらもベッドの脇の椅子に腰を下ろした。
大江戸中央病院。ここに来るのは、土方さんの言った通り紅桜に斬られたとき以来だ。前回ほど深刻な怪我をしたわけでもないのに、今回また同じような個室を割り当ててもらったのは、近藤さん達のご厚意による。
可動式のベッドに上半身を預けたまま、私は三人に向き直った。
「すいません、わざわざお見舞いに来てもらっちゃって…。もう何ともないんですよ〜。今すぐ退院してもいいくらい」
「無理しちゃいかんよ、三木ちゃん。ちゃんと養生して、元気になって帰ってきてもらわにゃ」
「そうですよ。俺、治るまで毎日見舞いに来やす」
「お前は明日も仕事だろーがっ」
沖田さんの頭をはたいた土方さんは、胡乱な表情をして、それで、とベッドの反対側を見やった。
「お前らは何でここにいンだよ」
「あ〜ん?おたくんとこの女中の命の恩人にそりゃないんじゃねーの?」
「そうアルヨ〜。はやく金一封持ってこいヨ。土産のメロンも献上しな」
「いや、僕らそんな大層なことしてないよね?結局犯人も取り逃がしちゃったし」
オイオイとツッコミを入れる新八くんを意にも介さず、万事屋さんと神楽ちゃんは土方さんにメンチを切っている。
そんな二人に青筋を立てながら、土方さんも睨みを返した。
「何言ってやがる。別にテメーらなんぞの助けがなくてもな、八重田なら一人で何とか出来たんだよ。ウチの女中なめんなコラ」
「いや土方さんも何言ってんですか」
「何とかってオメー、頭パッカーンした奴が一人でどうするってんだよ。あそこに俺たちがいなかったら頭だけじゃなく人生までお開きになっちゃってたよ?分かってる?」
「抜かせタコ助。テメーらみてえなチャランポランと違って八重田はしっかりしてんだよ。一人でお使いできるんだよ」
「土方さん落ち着いてくだせェ。親バカの仕方が気持ち悪いです」
「三木ちゃん、犯人捜しは俺たちに任せて、しっかり治療に専念すること。いいな?」
言い合いを背景に、私は近藤さんの言葉に頷きを返した。
痛みはなくても、受けた傷は本物だ。
ただ2、3日検査入院して、異常がなければ退院できるという。
この程度の怪我で済んだのは奇跡だ、打ち所が悪ければ死んでいた…と正直な医者が言っていた。なるほど。その理由も見当がついている。
「三木、本当に心当たりないアルか?私も犯人捜し手伝うヨ。仇うっちゃるネ」
「神楽ちゃん、ありがとう。でも本当に身に覚えがなくて」
これは嘘じゃない。
命を狙われる理由にはとんと心当たりがなかった。他人のためになりこそすれ、恨みを買った覚えはない。
沖田さんが神楽ちゃんを押しのけながらベッドに身を乗り出した。
「全くバカな野郎もいたもんだ。ウチの女中に手出してただで済むと思ってんのかね。俺が叩っ斬ってやりまさァ。三木さん、待っててくださいね」
「アーン?すっこんでろヨクソサド野郎が。三木の仇は私が討つって言ってんダロ」
「黙れクソチャイナ。ガキは口出すんじゃねェ」
ついに取っ組み合いが始まってしまった。私は笑いながら、こっそりナースコールを押した。
すっ飛んできたナース長に全員お叱りを受けて退出になった後、消灯され暗くなった部屋の中で、殺される理由を考えてみた。
ダメだ。思いつかない。でも、私が殺されることはないから…。
今は眠ろう。
厄介なことに巻き込まれた、くらいの感覚で。
2014.12.1