たにんだいじに
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翌日、ニワトリは再び屯所に現れた。
昨日と変わらず神経質そうなおばさん顔である。隊士さん達は露骨にその表情に嫌悪の色を滲ませているが、面と向かって突っかかることはしなかった。ありがたいことに、私に気を遣ってくれているらしい。
(で、調子はど~よ?)
前フリもなく陽気な声が聞こえてきて瞠目した。眼前のニワトリおばさんはしかめっつらのまま固く口を閉ざしている。にも関わらず声は続けて聞こえてきた。
(昨日あの後どうだった?何かワンイベントあった?)
どうやら直接脳内に声をデリバリーされているらしい。プライバシーとか無いんだろうか。
このままテレパシーでやり取りしようという意思だと受け取って、私も口には出さずに思って返した。
(ワンイベントってなによ。ていうかその格好と昨日のアレはなんなのですか)
(きっかけだよ、きっかけ。共通の敵がいるとやりやすいでしょ?)
ぼくのクソババアの演技どうだった?と何やら楽しげな様子である。言ってる意味が分かりませんと言うと、ニワトリは非難するような声をあげる。
(お前がいつまでたってもチンタラしてるから、ぼくがフラグ立てにきてんでしょ~が。家族に愛されなかった孤独な少女はいたいけ属性神レベルだぞ。そこで同情誘わないでどうすんの)
(はあ~?)
何を言ってるこのニワトリ。
(理不尽な暴圧から救ってくれそうな王子は誰だった?)
(ちょっと待って。何を言ってるの?)
冷えた言葉を返す私に、ニワトリも少し苛立ちを見せた。お前が一年経っても誰とも特別な関係を持たないから、お前が主役の救われお姫様イベントを作ってやった、と要するにこういうことらしい。
(何それ~それなんてラブゲーム?もしかしてニワトリもおばさんも仮の姿でどんな生き物にもなれたりするの?デスクトップパソコンをマザーと呼ぶの?僕らはみんな死んでいるの~~?)
(恋愛する権利ときっかけを与えてやってんじゃん。何が不満なの?)
その声音は明らかに私を責める響きを含んでいた。
おばさんの顔も心なしか険しい顔つきに見える。ここまで私もニワトリも実際に言葉を発してやり取りしていないので、外からは黙って睨み合っているように見えるだろう。
(卑怯じゃないですか。嘘の悲劇をでっち上げて沖田さん達を騙すんですか。そんなの全然フェアじゃない。他人のためになれと言ったのはそっちなのに)
(じゃあ逆に聞くけど、恋愛面で他人に尽くそうとしなかったのはなんでだよ)
私はその問いに答えなかった。何と答えていいものか分からなかったのも一つだが、少なからずこのニワトリに不信感を抱いていたことが原因だった。
(いつまでも皆にひとしく尽くせるなんてわけないよね?潮時だよ、一人に決めなよ。このまま放っておくとみんなの傷口が広がるだけじゃないか)
分かってるよね?とダメ押しをもらって更に私は押し黙った。みんなとは誰のことだろう。沖田さん以外に私に情愛的な好意を持ってくれている人がいるだろうか。
(おぼこ娘のふりはもう終わりだよ。いい加減一人に決めて、その上で他の人も幸せにする方法を考えたらいい。お前の気持ちなんか二の次なんだから…)
そう言ってニワトリは立ち上がった。結局本体は一言も喋らないまま終わるらしい。それでいい、余計なことをされてまた隊士さん達に心配をかけるのはごめんだった。せめてもの娘のふりだと玄関まで見送ろうと立ち上がったとたん、鋭い痛みが右頬に走った。思わず畳に膝をつく。
なんでだよ!
「ついてこないで。頭を下げて見送りなさい。お前なんかと一分一秒だって一緒にいたくないんだから」
(こんッの、クソ鶏~~~!!)
最後っ屁をかまして去っていった。
クソババアの演技なんて言ってあいつ本当は私のこと嫌いなだけじゃない?
手加減なしの強烈なビンタをもらった頬は熱く充血していた。昨日の額の一撃とあわせて、どれだけ私の顔を痛めつければ気が済むのか。顔面積の半分が白いガーゼに覆われてしまう。私の顔を評価してるとか言ってたけど発言と行動に矛盾がありすぎじゃないの。
前日同様、襖の奥からこちらを伺っていた沖田さん達は、あのニワトリに憤慨を隠せないようだった。あのババア何しに来たんだ、とは正論である。はたから見れば一言も喋らずただビンタだけ残して帰った迷惑なおばさんなのだ。ますます私に対する同情が深まってしまった。不毛すぎる。こんなことに一体何の意味があるっていうの。
しかしこの目論見は通るんだなぁ。
2014.9.1