たにんだいじに
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「三木ちゃんおはよう!」
「はいおはようございま〜す」
いつもと変わらない、真選組屯所の朝。
ほかほかのご飯をよそってカウンターに置かれたお盆に並べていく。今日の私の担当は、ご飯の配膳だった。隣では42歳パートの藤井さんがお味噌汁をよそって、更にその隣では35歳社員の高谷さんが焼き魚を並べている。配膳台を隔てた向こうには朝食を待ちかねる隊士さんがずらっと列をなし、一人一人が溢れんばかりの笑顔と共におはようの挨拶をくれる。
「おはようさん。今日も頼むわ」
「おはようございま〜す。よいしょ、はいどうぞ」
いつもクールな土方さんは元気いっぱいではないものの、毎朝ちゃんと目を見ておはようを言い、目を見てお願いをしてくれる。律儀な人だ。私は嬉しくなってついつい多めに黄色いとぐろを巻くのである。
満足そうにマヨネーズご飯を受け取る土方さんを見て、後ろに並んだ山崎さんは気持ち悪そうに手で口を抑えた。
並んだ列を捌ききり、朝のピークを終えたあとは、残ったご飯の半分ほどを握り飯にする。藤井さんも残ったお味噌汁を何杯かお椀によそって、「三木ちゃん、あとよろしくね」と言い残してお皿洗いに移った。
寝ぐせをこさえたまま慌てて駆けこんでくる隊士さん達に「おはようございま〜す。お椀によそいますか?おにぎりにしますか?」と聞くとありがたそうにおにぎりを受け取り、そのままほどよく冷めた味噌汁で胃に流し込んだ。ものの三口ほどでペロリと食べると、慌ただしく食堂を後にする。遅刻厳禁の職場なので、時間にルーズではいけないのだ。カウンターから身を乗り出して「頑張ってくださいね〜」と声を張ると、「ありがとう!行ってくる!」と声だけが返ってきた。間に合いますように、と心中で呟く私の背中に声がかかる。
振り向くと、沖田さんがあくびをしながらこちらにやってきていた。
「おはようさんごぜえやす」
「おはようございま〜す。今日は一段とのんびりですね」
「仕事の頑張りすぎですかね、どーにも眠くて。疲れが溜まってんでさァ。三木さん褒めてくれよ」
「おつとめご苦労さまですね〜。今お味噌汁あっためますね〜」
マイペースな沖田さんは始業時間に遅れようが土方さんに怒られようがまったく意に介さない。どうやら自分の時計で生きているようで、遅刻だ切腹だとまくしたてられても毎度どこ吹く風である。それでも配膳の片付けの支障にならない時間までには食べに来てくれるので、そこに彼なりの気遣いがあるのかもしれない。
「朝くらいのんびりしてえじゃないですか。あんなむさい男どもに囲まれて飯食うなんざまっぴらごめんでィ」
「みんなで食べるご飯もおいしいですよ」
「俺は三木さんと二人で食べるほうがいい」
あたためたお味噌汁を手ずから渡すと、沖田さんは後ろのテーブルを親指でさした。
こうして沖田さんに朝ごはんの同伴を誘われるのはままあることだが、私は朝食はいつも出勤前に済ませているのでご一緒させてもらうことは一度もない。真選組女中として勤務中である以上、サボりはいけない。私は沖田さんと違って自分の時計を持っていないのだ。
「私、朝は家で食べてきてるんですよね」
「それじゃ仕方ねェ。目の前で茶でも飲んでてくださいよ」
以前にお茶くらいならいいよ、と先輩社員の高谷さんにお許しをもらっているので素直に従うことにする。高谷さんはドルオタなのでハニーフェイスの沖田さんにはめっぽう甘い。沸かしたお茶を沖田さんの分も用意して席につくと、なんだか沖田さんはご機嫌の様子で、焼き魚をパクついた。
私はお茶をすすりながら、そんな沖田さんをじっと見つめていた。こんなあどけない顔をしていても、いざ剣を振るうと大人でさえ歯が立たない、真選組きっての使い手なんだよな、と今更なことを考える。すごいな。若くて強くてかっこよくて、現実に生きてるんだよな〜。
それは元いた世界では考えられないことだったので、なおさら感慨深かった。
ある女中の朝。
2014.7.19
1/20ページ