短い話
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※現パロ
家電って一気に壊れるの、知ってた?
最初に調子を崩したのは炊飯器だった。ある日突然、ぺちゃぺちゃのご飯しか炊けなくなってしまった。ほかほかの炊きたてご飯を想像して蓋を開けたときの、あのガッカリ感ったらない。その日は卵とお出汁で簡単な雑炊にして食べたけど、炊飯器はいつまで経ってもぺちゃぺちゃのご飯を炊き上げ続けたので、ついに雑炊に嫌気がさした10日前に廃品回収に出した。代わりはまだ買ってない。
そうしたら今度は冷蔵庫から異音がするようになった。大学の先輩が就職を機に一人暮らしをやめて実家に帰るというので、譲り受けた年季もの。無生物にあるまじき唸り声が不定期で流れだすホラー仕様になってしまった。それ以外は不具合もないのでまあいいかと放っておいたら、ある日の夜中に一段とご機嫌ナナメな轟音で起こされたので、あわてて飛び起きて電源を引っこ抜くハメになった。あと3秒でも遅かったらお隣さんから苦情が来るほどの爆音だった。さすがに使い続けるのも無理があるし、修理するにも古すぎたので1週間前に廃品回収に出した。代わりはまだ買ってない。
ご飯をレンチンのパックで済ませるようになってから毎日活躍してくれていた電子レンジも逝った。500wの1分30秒を選択したのに5分経っても延々とテーブルを回し続けていたので怖くなって止めた。いつか爆発しそうな気がする…。それきり使えなくなって部屋のオブジェと化したので5日前に廃品回収に出した。代わりはまだ買ってない。
そして3日前、エアコンが止まった。
リモコンの電池を変えても反応しなくなったので不動産経由で修理を頼んだら完全に壊れてますので修理不可能ですと言われた。新しいエアコンは自腹になるそうで、なんだか納得がいかなくてとりあえず回収だけしてもらった。代わりはまだ買ってない。
「そういうわけで部屋がちょっとシンプルになっただけで、別に引っ越すとかそんなつもりは…」
「ほんと?ほんとだね?信じていいんだよね?!」
私の肩を掴んで激しく揺さぶりながら念押ししてくる杉元さん、まじで、ちからつよい…。
ガックンガックンと前後するたびに脳みそがシェイクされてなんだかクラクラしてきた。杉元さん、なんでそんなに必死なの。たとえ私が引っ越すとしてもお隣さんとしては静かになっていいんじゃないかな。いつぞやはウチの冷蔵庫がお騒がせしましてすみません。
「ていうか、冷蔵庫壊れた時点で言ってよ!なに?ずっとこのまま暮らすつもりなの?」
「まあバイト代出るまでは…」
「も〜!!」
もっと頼ってよ俺を!とプンスカする205号室の杉元さんは、206号室の私に干し柿のお裾分けをしに来てくれたのだった。地元の美味しい干し柿を取り寄せたから一緒に食べようってチャイムを鳴らしてもらったら、そりゃドアを開けるし、中に入れてと言われたら、半年以上の付き合いがあってその人となりも分かってる杉元さんを、まあ迎え入れるよね。ただ前述の通り、現状私の部屋の居心地あんまりよくないよって、そう言う前に顔面蒼白になった杉元さんに詰め寄られたのだった。取り落とされた干し柿の袋が寂しい部屋の入り口で哀愁漂わせているのが物悲しい。
「ていうか、エアコンも壊れたの?暖房は?」
「ないよ?」
「ないのぉ〜?」
この冬はエアコン一本で乗り切るつもりだったのでヒーターもコタツも何も用意してないこの部屋の今の室温、当ててみる?
外と同じくらい寒い…と大げさなことを言いながら顔をしかめる杉元さんは、私をたしなめるみたいに頬を両手で包んで上を向かせた。
「三木ちゃん、こんなとこで生活してたら風邪引いちゃうよ、分かってる?」
「うん…」
「ほんとに分かってるぅ?」
「うん…」
「三木ちゃん?」
「杉元さん、手、あったかいね〜」
「……はぁ?ちょっと、なにそれ?可愛すぎるんだけど?はぁ?」
杉元さんの手のひらがおっきくて熱くて、かじかんだ頬がじんわりほぐれていくのが気持ちよくて、思わず目を閉じて温かさを堪能してしまった。
正直、炊飯器とか冷蔵庫とかは無くてもまあ何とかなるけど、暖房がないのがつらかった。お風呂上がりとか、毎回意を決して浴室から出てたもんな。
「も〜…。ほんと、頼ってくれよ。なんでもしてあげるのにさ」
「んー…」
「とりあえず今日はウチにおいでよ。一緒にこたつで干し柿食べよ?」
「…う〜ん…」
「………嫌なの?」
頬を撫で回していた杉元さんの右手がゆっくりと滑り降りて、首筋をなぞり始めた。うーん…嫌っていうか…。こたつなんて、今入ったら一生出られない気がするんだよね。この部屋に帰った時の絶望感もマシマシじゃない?落差がすごい。
「う〜ん…そのまま杉元さんちに住んじゃいそうだからやだ…」
「え…なおさらウチに来るしかないじゃん。ほら行こ?着替え持ってく?俺のパジャマ貸すけど」
杉元さんのギャグ、高度すぎてたまに間に受けかけちゃうんだよね…。笑って受け流したらギュッと真正面から抱きしめられた。いや、あったかいけど、これはさすがに…と思って胸板を押し返してもビクともしない。杉元さんほんとガタイがいいな。大きな体にすっぽり包まれちゃってるのが自分でも分かった。
「杉元さん?」
「あー、もう…持ち帰りたい…」
「なんで?」
「俺の部屋にいる三木ちゃん想像しただけで興奮したから何としても実現させたい」
「杉元さんてたまに変なこと言うよね…」
そんなこと言われてハイ行きますって返事する子いないと思うよ。
杉元さんの抱擁から抜け出そうと身をよじっていると、そんなことする隙間もなくなるくらいきつく抱きしめられた。杉元さんの熱い体温が、冷え切った私の体にじわじわと侵食してくる感じがなんとなく気恥ずかしい。
「も〜分かった、分かったよ。杉元さんち行こう。私、あったかいおこたで干し柿が食べたいな」
「ほんと?じゃ、このまま行こっか」
「なんでなんでなんで」
おおきな傷跡のある顔に頬ずりをされながら、流れるように膝裏に手を差し込まれかけたので今度こそ両腕を突っ張って杉元さんを押し戻した。抱っこされたまま外に出るなんて恥ずかしすぎてさすがにヤダ。他の部屋の人に見られたりとか考えないのかな。杉元さんはそこらへんのデリカシーが欠如している節がある。
「ちょっとでもくっついてたいのに…」
「杉元さんってさぁ…、う〜ん…、まあいいや…」
「一週間くらい泊まってくよね?」
「いや夜には帰るよ」
「…」
そんなあからさまに拗ねた顔をされてもなぁ。
恋人でもない男の人の家に転がり込むみたいなこと、本気ですると思われてるんだろうか。私は結構身持ちは固いほうなのだ。一昨日尾形さんに同じようなこと言われたときもキッパリ断ったし。あんまりなめないでほしい。
「あ。杉元さんちってDVD観れたりする?」
「うん」
「じゃ、スパイキッズ持ってってもいい?」
「だめ」
「…」
「トゥエンティフォーにして」
「…」
完走するまで帰さない。
2019.1.12
家電って一気に壊れるの、知ってた?
最初に調子を崩したのは炊飯器だった。ある日突然、ぺちゃぺちゃのご飯しか炊けなくなってしまった。ほかほかの炊きたてご飯を想像して蓋を開けたときの、あのガッカリ感ったらない。その日は卵とお出汁で簡単な雑炊にして食べたけど、炊飯器はいつまで経ってもぺちゃぺちゃのご飯を炊き上げ続けたので、ついに雑炊に嫌気がさした10日前に廃品回収に出した。代わりはまだ買ってない。
そうしたら今度は冷蔵庫から異音がするようになった。大学の先輩が就職を機に一人暮らしをやめて実家に帰るというので、譲り受けた年季もの。無生物にあるまじき唸り声が不定期で流れだすホラー仕様になってしまった。それ以外は不具合もないのでまあいいかと放っておいたら、ある日の夜中に一段とご機嫌ナナメな轟音で起こされたので、あわてて飛び起きて電源を引っこ抜くハメになった。あと3秒でも遅かったらお隣さんから苦情が来るほどの爆音だった。さすがに使い続けるのも無理があるし、修理するにも古すぎたので1週間前に廃品回収に出した。代わりはまだ買ってない。
ご飯をレンチンのパックで済ませるようになってから毎日活躍してくれていた電子レンジも逝った。500wの1分30秒を選択したのに5分経っても延々とテーブルを回し続けていたので怖くなって止めた。いつか爆発しそうな気がする…。それきり使えなくなって部屋のオブジェと化したので5日前に廃品回収に出した。代わりはまだ買ってない。
そして3日前、エアコンが止まった。
リモコンの電池を変えても反応しなくなったので不動産経由で修理を頼んだら完全に壊れてますので修理不可能ですと言われた。新しいエアコンは自腹になるそうで、なんだか納得がいかなくてとりあえず回収だけしてもらった。代わりはまだ買ってない。
「そういうわけで部屋がちょっとシンプルになっただけで、別に引っ越すとかそんなつもりは…」
「ほんと?ほんとだね?信じていいんだよね?!」
私の肩を掴んで激しく揺さぶりながら念押ししてくる杉元さん、まじで、ちからつよい…。
ガックンガックンと前後するたびに脳みそがシェイクされてなんだかクラクラしてきた。杉元さん、なんでそんなに必死なの。たとえ私が引っ越すとしてもお隣さんとしては静かになっていいんじゃないかな。いつぞやはウチの冷蔵庫がお騒がせしましてすみません。
「ていうか、冷蔵庫壊れた時点で言ってよ!なに?ずっとこのまま暮らすつもりなの?」
「まあバイト代出るまでは…」
「も〜!!」
もっと頼ってよ俺を!とプンスカする205号室の杉元さんは、206号室の私に干し柿のお裾分けをしに来てくれたのだった。地元の美味しい干し柿を取り寄せたから一緒に食べようってチャイムを鳴らしてもらったら、そりゃドアを開けるし、中に入れてと言われたら、半年以上の付き合いがあってその人となりも分かってる杉元さんを、まあ迎え入れるよね。ただ前述の通り、現状私の部屋の居心地あんまりよくないよって、そう言う前に顔面蒼白になった杉元さんに詰め寄られたのだった。取り落とされた干し柿の袋が寂しい部屋の入り口で哀愁漂わせているのが物悲しい。
「ていうか、エアコンも壊れたの?暖房は?」
「ないよ?」
「ないのぉ〜?」
この冬はエアコン一本で乗り切るつもりだったのでヒーターもコタツも何も用意してないこの部屋の今の室温、当ててみる?
外と同じくらい寒い…と大げさなことを言いながら顔をしかめる杉元さんは、私をたしなめるみたいに頬を両手で包んで上を向かせた。
「三木ちゃん、こんなとこで生活してたら風邪引いちゃうよ、分かってる?」
「うん…」
「ほんとに分かってるぅ?」
「うん…」
「三木ちゃん?」
「杉元さん、手、あったかいね〜」
「……はぁ?ちょっと、なにそれ?可愛すぎるんだけど?はぁ?」
杉元さんの手のひらがおっきくて熱くて、かじかんだ頬がじんわりほぐれていくのが気持ちよくて、思わず目を閉じて温かさを堪能してしまった。
正直、炊飯器とか冷蔵庫とかは無くてもまあ何とかなるけど、暖房がないのがつらかった。お風呂上がりとか、毎回意を決して浴室から出てたもんな。
「も〜…。ほんと、頼ってくれよ。なんでもしてあげるのにさ」
「んー…」
「とりあえず今日はウチにおいでよ。一緒にこたつで干し柿食べよ?」
「…う〜ん…」
「………嫌なの?」
頬を撫で回していた杉元さんの右手がゆっくりと滑り降りて、首筋をなぞり始めた。うーん…嫌っていうか…。こたつなんて、今入ったら一生出られない気がするんだよね。この部屋に帰った時の絶望感もマシマシじゃない?落差がすごい。
「う〜ん…そのまま杉元さんちに住んじゃいそうだからやだ…」
「え…なおさらウチに来るしかないじゃん。ほら行こ?着替え持ってく?俺のパジャマ貸すけど」
杉元さんのギャグ、高度すぎてたまに間に受けかけちゃうんだよね…。笑って受け流したらギュッと真正面から抱きしめられた。いや、あったかいけど、これはさすがに…と思って胸板を押し返してもビクともしない。杉元さんほんとガタイがいいな。大きな体にすっぽり包まれちゃってるのが自分でも分かった。
「杉元さん?」
「あー、もう…持ち帰りたい…」
「なんで?」
「俺の部屋にいる三木ちゃん想像しただけで興奮したから何としても実現させたい」
「杉元さんてたまに変なこと言うよね…」
そんなこと言われてハイ行きますって返事する子いないと思うよ。
杉元さんの抱擁から抜け出そうと身をよじっていると、そんなことする隙間もなくなるくらいきつく抱きしめられた。杉元さんの熱い体温が、冷え切った私の体にじわじわと侵食してくる感じがなんとなく気恥ずかしい。
「も〜分かった、分かったよ。杉元さんち行こう。私、あったかいおこたで干し柿が食べたいな」
「ほんと?じゃ、このまま行こっか」
「なんでなんでなんで」
おおきな傷跡のある顔に頬ずりをされながら、流れるように膝裏に手を差し込まれかけたので今度こそ両腕を突っ張って杉元さんを押し戻した。抱っこされたまま外に出るなんて恥ずかしすぎてさすがにヤダ。他の部屋の人に見られたりとか考えないのかな。杉元さんはそこらへんのデリカシーが欠如している節がある。
「ちょっとでもくっついてたいのに…」
「杉元さんってさぁ…、う〜ん…、まあいいや…」
「一週間くらい泊まってくよね?」
「いや夜には帰るよ」
「…」
そんなあからさまに拗ねた顔をされてもなぁ。
恋人でもない男の人の家に転がり込むみたいなこと、本気ですると思われてるんだろうか。私は結構身持ちは固いほうなのだ。一昨日尾形さんに同じようなこと言われたときもキッパリ断ったし。あんまりなめないでほしい。
「あ。杉元さんちってDVD観れたりする?」
「うん」
「じゃ、スパイキッズ持ってってもいい?」
「だめ」
「…」
「トゥエンティフォーにして」
「…」
完走するまで帰さない。
2019.1.12