短い話
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その日はいつもと変わらず、僕たちE組の校舎はぼろっちいままで、青々とした森に囲まれて、暗殺と勉強に励んでいた。いつものように授業、発砲、授業、発砲、授業、発砲…そんなルーチンワークももう慣れたもので、みんなが弾を片付ける手際も一段とよくなってきたようだった。隙あらば先生を殺そう、とそんな殺意を先生はいつものように受け入れ、かわし、昼食にフィッシュアンドチップスを食そうとイギリスに飛んでいった。先生のランチはワールドワイド。これもいつものことだった。
「渚、渚」
「ん?」
早々と点になる殺せんせーの影を見上げていた僕の肩を、杉野が興奮気味に叩いた。
「あの子誰だ?」
杉野につられて、みんなが窓際に寄って外を伺った。山頂にあるE組への道のり、その登山道の出口から、女の子が姿を現した。校庭の中ほどに差し掛かったところで歩みをとめ、キョロキョロと目線を動かしている。誰かを探しているようだった。
「転入生?」
「聞いてないよ、そんなの」
「烏丸先生が教えてくれるはずだし…」
「じゃあ誰?」
「殺し屋かも」
「ウチの制服じゃん」
「もしかして…本校舎の生徒?」
みんながまさか!と声を出して笑った。発言した片岡さんも、だよね、と苦笑を浮かべる。本校舎の生徒がこのE組に訪れるわけがなく、まして誰かに会いにくるわけもない。ここはエンドのE組。天上人であるはずの彼らからすれば、眼中にすらいれたくない存在のはずだった。
軽い身のこなしで前原くんが窓から飛び出し、女の子のもとへかけていった。さすがだな、と磯貝くんが笑って後を追いかけた。杉野が走り出したので、僕もつられて窓枠を越えた。
近づく僕たちの姿を見て、その女の子はほっとしたような顔をした。その顔に毒気を抜かれたように、前原くんがへらっと笑った。僕たちの他には誰もついてこず、みんな遠巻きに教室の中からこちらを伺っていた。
「君、誰?E組になんか用?」
「あのー、私、3年A組の」
おっと、と磯貝くんが呟いた。本校舎の、それもA組の生徒だったとは。杉野が教室に向かって腕で大きくAを作った。みんなが首を傾げているのが見える。あまりうまく伝わらなかったようだ。
「八重田って言えば分かると思うんですがー」
「八重田さん」
「カルマくんいますか?」
「え?」
ハモった。僕たち4人、お互いが同じ表情をしているのを確認でもするかのように、思わず顔を見合わせた。まさかの。A組の。まさかの。カルマくんのお客さん。
「カルマ…は、どっかで昼寝してると思うけど…」
「あー」
「カルマになんの用事?」
「友達?」
そう聞いてはみたものの、カルマくんにこんなかわいい女の子の友達がいるとも思えずに、その関係が知りたかった。女の子、八重田さんは、持っていた小さいバッグを少し掲げるようにして見せた。
「カルマくん、朝お弁当忘れていっちゃったから、届けにきたんです」
「あ、そうなんだ…」
「でも昼寝してるなら、いらないかもですね」
そのこぶりなピンクの包みに視線がそそがれた。チェック柄がかわいい、女の子が使うようなバッグ。お弁当。お弁当ね。カルマくんに。
「カルマくんに!?」
「え?」
「カルマくんに!?」
「2回も?時間差で?」
僕たちのあまりの驚きに八重田さんも驚いたようだ。そうです、そうです、とこくこく頷いてお弁当を突き出した。
「これ、カルマくんに渡しておいてもらえますか?お昼に間に合わなかったら、晩ごはんにでもしてね、って」
「あ、はい」
「助かります、えへ」
脱力するように笑う子だった。かわいいな、と思ったのが僕だけではなかったのが、前原くんの表情で分かった。小さく手をふって、八重田さんは去って行った。その背中を見つめながら、ありえない、と磯貝くんが唸った。僕もそう思う。
「あれ?何してんの、そんなとこで」
唐突な声に、僕たちは一斉に振り返った。八重田さんの姿はもう見えなくなっていた。カルマくんは軽いあくびをこぼしながら、パンツについた葉っぱをはらっていた。やっぱり昼寝していたんだ。
「ダッシュ!」
「は?」
「カルマダッシュ!」
「え、何?」
「ダッシュだよ!走れよ早く!」
「何?どこに!?」
「これ!お前に!早く!!」
突然の剣幕に目を白黒させたカルマくんは、その包みを目にしたとたん素っ頓狂な声をあげて目を丸くした。
「なんでそれ前原が持ってんの!?」
「いーから走れって!追いかけろよ!」
「三木が来たの!?いつ!?」
「三木?下の名前?呼び捨て?」
「来たんだね!?三木来たんだ!」
「誰だよ!三木何者なんだよ!」
「なんで呼んでくれないんだよ!」
「だから三木誰!!」
「笑顔がゆるくてかわいい癒しの俺の三木だよ!最悪!」
女たらし前原に会わせるつもりなかったんだけど!と言い捨ててカルマくんは駆け出していった。最悪なのはお前だよ!と前原くんが絶叫で返したけど無視された。ありえない、と磯貝くんが再び唸った。僕もやっぱりそう思う。
幼馴染にメロメロなカルマくん。
2016.3.20