短い話
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バチン、なんて遠慮のない一撃が僕の左ほほを赤くした。あえて噛み締めなかった口内は内頬が切れてしまって、口の端から血がたれた。見かけの割に腕力ゴリラの雲雀くんの平手打ちだもの。歯が飛ばなかっただけ上等だ。
甘んじて暴力を受けた僕に溜飲が下がったのだろうか。はたまた怒りを逆撫でされたか。雲雀くんは僕の胸ぐらを引っ掴むと、無理矢理に唇を合わせてきた。薄い唇で下唇を食みながら、遠慮なしに突っ込まれた舌で口の中の傷口を舐め取られた。あう。痛くて声が出た。するともう一度同じ場所を抉るように舐められる。だから痛いってば。
雲雀くんの邪魔にならないようにすみっこに寄せていた舌を炙り出すみたいに、空いていた右手で頬を掴まれる。外から押されて居場所をなくした僕の舌を見つけると、器用に絡みついてきた。ぢゅ、と吸われてから解放されると、心なしか満足げな表情の雲雀くんと目が合う。
「ひ、雲雀くんてば、今日はとっても情熱的…」
「うるさい」
解放された胸元を正すうちに、いくつかボタンが飛んでしまっていることに気付いた。これは、さっきのケンカで僕がどれだけ相手に襟を取られたかを意味している。要するに弱いってことだ。
しかし終わってみると最後に立っているのは僕なんだから、勝負ってもんは分からないね。
「…誰の仕業」
さっきのキスで僕の血が滲んだ口元を親指でぬぐいながら、雲雀くんは足元に散らばる負け犬たちを一瞥した。さあ。誰だろう。
少なくとも僕は知らない奴らだった。後輩がカツアゲされてなきゃ一生関わることはなかったはずのヤンキー崩れ。そういえば彼は無事逃げおおせたのだろうか。
「……未成年喫煙を注意したら反撃にあった。いや、なかなか強かったね」
「ふうん」
「無駄な怪我しちゃった」
「それ以上嘘つくと平手じゃすまないよ」
バレてる…。
金色の瞳にじろりと睨みあげられるとどうしたって身が竦む。この人気のない路地裏で、地面に突っ伏して気絶する不良たちとそこそこ傷だらけの僕しかいない状況で、第三者の存在を見抜く雲雀くんてなんなんだろうな。慧眼がすぎる。
「…知り合いが絡まれてたみたいだから、加勢した。雲雀くんが来る前にその子は帰ったよ…」
別に沢田綱吉くんがピンチだったから助けに入ったんだと説明しても良かったけど、それは言わないことにした。僕の口から彼の名前が出ることを雲雀くんは快く思わないと知っていたから。彼に限らず、僕が誰かと関わりを持つことをよしとしないのは群れるのを嫌う彼にしては当然のことだ。そういうところ、昔から変わってない。
「弱いくせに。バカなんだね」
「(バカ…) 弱くても勝てたよ」
「当たり前。負けたら許さない」
雲雀くんは基本的に嘘をつかないのでこれはガチで許されないんだろうな…。勝手に怪我をしたという理由でお仕置きビンタが飛んでくるということは、負けたらやっぱりトンファーだろうか。あの鉄の棒で滅多打ちにされる未来を想像して背筋が震えた。僕は雲雀くんと違ってただのパンピーなので、そんなことされたらひとたまりもないんだよなぁ。それに加えてキスまでグレードアップしてしまったら、僕は一体どうなってしまうんだろう。しかし、今のお仕置きキッスでさえ結構ディープなほうだと思うんだけど、その先となると…?
「ねえ雲雀くん」
「なに」
「もし、僕とキスの続きをするとしたら」
「…」
「どうするのかなー、なん、て…」
「…」
「雲雀くん?」
「いれるんじゃない」
「イレルンジャナイ…?」
「うん。僕がいれる」
「…」
「悪くないね」
「…」
マジ?
ガチ。
2018.11.15